[携帯モード] [URL送信]

銀魂小説
20メートルシャトルラン(3Z・沖神)
負けたくない 負けたくない

 アイツにだけは 負けたくない
 

 
 〜20メートルシャトルラン〜


 
 「次の体育は体育館でシャトルランだ。体育館シューズ忘れんなよ。」

 この言葉を聞いた瞬間、神楽は誰の目にも明らかな位、嬉しそうな顔をした。

 それも当然だろう。なんせ神楽は太陽に弱い体質持ちで、 

 50メートル走は外の競技だったため、真の力が出せず、
 
 2年の冬にあった長距離走にいたっては、ずっと外で走らないといけないという理由で
 
 一度もできなかったのだ。

 つまりこのシャトルランは神楽にとって初めての走り競技。

 基本運動が大好きな神楽は、シャトルランという競技を妙に教えてもらって以来、

 ずっと楽しみにしていたのだ。
 
 「分かりやすっ」

 神楽の顔を男子の列から見ていた沖田が小さく笑ってぼそっと呟いた。

 そして思う。

 ああ、これはもう、絶対勝負もちかけてくるなぁ。と

 そしてもちろん受けてたつ。と

 
 案の定、その後の休み時間、制服に着替えて教室に戻ったとたん、

 中華風味のイントネーションが心底楽しそうに勝負を持ちかけて来た。

 だから言った。

 「受けてたちまさぁ。ただし、負けた方は勝った方に昼飯おごる事でどうですかィ?」


 ただ試合するだけでは楽しくない。ゲームは特典がある方が燃えるものだ。

 神楽はにやっと笑って言う。

 「銀校スペシャル定食を奢ってるオマエの姿が目に浮かぶアル!」

 「そうですかィ?俺にはアンタが購買のパンを根こそぎ奢ってる姿が見えますぜ」

 「ちょっ!オマエ、それは多すぎアル!!反則ネっ!!」

 「反則もクソもねーだろ。それがルールなんだから。」

 「ふっ。分かったヨ。そうと決まればお前をこてんっぱんにやっつけて
  
  文句のつけようないくらいにして、財布をすっからかんにしてやるアル!」

 「は〜い、話もまとまった様だし、授業しようね〜。もう休み時間とっくに終わってるからね〜」

 やる気のない国語教師の声で、口争いは止まった。

 後は走りの戦いが残るのみ――――










そしてやってきたその日。

 体育の授業の日、すなわち、神楽と沖田の決戦の日。

 賭けたものは昼飯代、勝負すべくはシャトルラン。

 今、その火蓋は切って落とされた――――


 ♪〜〜〜♪〜〜〜

 「これのどこが持久走アルか?」

 先に男子が測っているので、女子はその間見学だ。

 最初、シャトルランの走れる間の音楽がゆっくりなのは最初だけなのだが、

 それを知らない神楽はそよに聞いた。

 そしてどんどんスピードが早くなって行くのだと聞き、目を輝かせた。

 「楽しそうネ!!100周は軽く超えてやるヨロシ」

 そう元気に言い切る神楽に

 「凄いです神楽ちゃん。きっと神楽ちゃんならできますよ。」

 と心底思って言って、男子の方に向き直る。

 まだまだ始まったばかりで皆余裕の表情でほぼ歩いている。

 ちらっと土方を見ると、面倒くさそうな顔をして沖田と話している。

 余裕の雰囲気が、とてもかっこよく思ってしまい、恥ずかしくなってさっと違う方向を見た。

 やっぱり男子は歩幅が大きいなとかのんびり思っていると、山崎が転んで12周目脱落してしまった。

 恥ずかしそうに先生に報告しに行く様がとても寂しく思えた。

 隣を見ると神楽が新八を応援している。と、言っても

 「ジミ仲間のジミーが居なくなった今、残るジミはダメがねのみネ!
  
  ジミーの分も頑張るヨロシ!!」

 と言う、山崎にとっても新八にとっても暴言としか思えないような内容だったけれど。


 いけないと思いつつ、そよはこっそり笑ってしまっていた。


 
 「ジミーの分も頑張るヨロシ!!」
 
 せっかく応援してやったのに、新八はその後、32回目であっさりとリタイアしてしまった。

 「ちっ。粘りのない奴アルな!」

 神楽はきっぱりと舌打ちまでしてつまらなさを表した。

 先生に報告しに行く新八の姿も、山崎同様に落ち込んだものだった。

 
 50を超えるとさすがにちらほらとリタイヤの人が現れてきた。
 
 それでも残ってる人もたくさんいて、神楽を除いた女子はやっぱり男子って凄いな〜とか思っていた。

 中でも、今回神楽と争っている沖田総悟と、ヘビースモーカーだから本来持久力なんてものは

 無いはずの土方十四朗、スタミナは十分の近藤勲は相変わらず顔色一つ変えずに走り続けていた。

 「こんなの屁でもねーや。早くもっとスピード上がらねぇですかねぇ?」

 「まあそう言うなや、。じっくり進むのもまた醍醐味だろう。」

 「近藤さんはともかく、土方の野郎、山崎みたいにすっころばね〜かなぁ。すっころんでほしいなぁ」

 「あぁ!!?んだとコラ、総悟!!」

 「ああ、聞こえてやしたか土方さん。じゃあ丁度いいや。俺ぁ、アンタはやれば出来る奴だと

  信じてやすぜ。さあ一発派手に転んでくだせぇ。」

 「お前が転びやがれ!!」

 こんなふざけた会話をしながら走りまくっていた。

 
 200を超えた地点で残りは後7人。

 250を超えたところで残りは後5人になっていた。

 基本このクラスは不真面目が多いのが問題なようだ。

 255にもなるとさすがに3人になって、247ではまず近藤がリタイヤした。

 次に264まで後少しと言うところで土方がリタイヤして、残るは沖田一人となった。


 もうここまでくると音楽がありえないスピードを出していて、

 これについてくのは尋常では無いように感じられた。

 そのまま続いて267で沖田もリタイヤ。周りから、たくさんの拍手をもらいないがら休憩に向かった。

 その間、女子の中でもひときわ秀でて食い入る様に、神楽は沖田を見つめていた。

 その様は、むしろ睨んでいるようにも・・・思えた。



 次は女子の番。神楽はさっきから男子達のを見ていて体が早く動きたくてうずうずしていた。
 
 そして始まった。
 
 最初の音楽は思っていた以上にゆっくりで、早く線につきすぎてしまった。

 次はペースを見計らって、音楽に合わせて歩く。

 でも男子達はあんなにのんびり歩いていたのに、自分は小走りで行かなければいけない事が

 なんだか腹立たしかった。

 まず最初に脱落したのがハム子と百音。15周だった。

 これはいろいろしょうがないとして、26周でそよ、

 27周で栗子、阿音、30周でキャサリン、36周でおりょうと花子が脱落。

 神楽は全く疲れたりしなかったし、妙や九ちゃん、あやめも気楽に走っているが、

 それでも男子とはこうも違うものなのかと思うと、何か嫌な気持ちが走った。

 40周ぐらいまでは何人か残っていたが、45を超えたあたりで4人だけになってしまった。

 53周目であやめのメガネがずれてしまい、それを踏みかけてよけて転んだ九ちゃんとあやめが脱落。

 残りは妙と神楽、二人だけになってしまった。

 こうなったからには絶対267以上行かないとネ!!

 そう思った神楽はがむしゃらになって走り続けた。

 神楽から何かを感じとっていた妙も、何とか神楽を一人にしないように頑張ったが、203周が限界だった。

 神楽は一人、走り続けた。走りながら思った。

 (これが、男と女の差なのカ?そんなこと無いヨ。私、もっと力あるネ!

 大丈夫、沖田なんて通り越してスペシャル定食と肉マン袋にいっぱいと

 お茶漬けたらふく買ってもらうって決めてるアル)

 ―絶対・・・負けないアル。。。

 がむしゃらに、がむしゃらに、がむしゃらに走って走って走って、

 神楽は・・・倒れてしまった。



ぐるぐるする・・・。

 顔もほってってくらくらして、

 なんとなく覚えてるのは

 やさしくおぶって運んでくれた

 暖かくて大きな背中―――



 
 



 神楽はゆっくり目を開けた。白い天井が視界に映る。

 どうやらここは保健室のベッドの上の様だ。

 ぼ〜〜っと天井を眺めていると、横からひょっこりそよが顔をのぞかせた。

 「神楽ちゃん!大丈夫ですか!?くらくらしないですか??」

 状況がよくわからない中、最近よく倒れるアルなとかそんな事を考えて、

 はっとした。

 ―そうヨ!!私は勝負をしてたんだったネ!!

 「そよちゃ・・・!」

    くらっ

 起き上がろうとして力が入らなかった。

 「だめです、神楽ちゃん。保健室の先生が戻られるまで安静にしておかないと。」

 どうやら保健室の先生が丁度不在だったようだ。ここはおとなしくそよに

 したがっておいた方がよさそうなので、神楽は起き上がるのをやめた。

 「分かったアル。そんなことよりありがとネ。そよちゃんがここまで運んでくれたアルか?」

 さすがにそれはないかなと思いながら聞いてみた。答えは案の定、
 
 「いいえ、私じゃ無いの。ごめんなさい・・・。運べたら一番いいんだけど・・・。」


 そよの優しさが嬉しくて、神楽はにっこり微笑んで言う。

 「ううん。ぜんぜん良いヨ。私はそよちゃんなそよちゃんが好きアル!」
 
 「神楽ちゃん・・・。ありがとうございます。私も神楽ちゃんな神楽ちゃんが一番大好きです。」

 そよもにっこり微笑んで、二人の間に和やかなムードが流れた。

 でも、その次にそよが発した言葉で、神楽は固まってしまった。

 「神楽ちゃんをここまで運んでくれたのは・・・沖田君ですよ。」

 「・・・・え・・・?」

 「倒れた神楽ちゃんに一番早く駆け寄ったのも沖田君でした。

  神楽ちゃんの名前を何度か呼ばれて、それでも神楽ちゃんが起きられないようなので

  おぶって保健室まで連れてきてくれたんです。」

 「アイツが・・・。」

 神楽はなぜか自分の顔が赤くなるのを感じて慌てて話題を変えた。

 「そっそういえばシャトルラン!私、結局何周だったアル!?」
 
 「あ、それでしたら「お、お目覚めかィ?」

 そよが答えようとして、その瞬間カーテンが開いて沖田が姿を現した。

 神楽は心臓が跳ね上がるかと思った。

 (いままで一度もこんな事なかったネ・・・。これは・・・何?)

 沖田はそよの方を見て言う。
 
 「志村の姉さんが徳川さんの事探してやしたぜィ。

  ここにいると思うって言ったら呼んできて、神楽さんの様子も見てくるように頼まれましてねぇ。」

 「あ、それでは神楽ちゃんについていてあげてもらえますか?

  まだ保険の先生が戻られないので・・・」

 「分かりました、いいですぜ。」

 
 神楽は自分をよそに勝手に話が進んでいる事に驚いた。

 布団を顔の半分までかぶってそよをじっと見て、行かないでアピールしていると

 そよはそれをお礼と取ってしまったらしく、小さく一つ微笑むと、保健室から出て行ってしまった。

 
 
 動悸が激しい。

 顔が熱い。

 何を話していいのか・・・分からない。。。


 今の神楽はまさにその状態だった。

 どうしたらいいのか分からなくて、布団を全部かぶってしまうと、

 布団の上に何か軽い物が投げられた。

 「それ・・・商品でさぁ。」

 沖田の声が布団ごしに聞こえる。

 えっ?と不思議に思い、布団からはいでると、おなかの辺りに購買で売っているメロンパンが置いてあった。

 どうゆう意味アル・・・?

 聞こうとして、先に沖田が声を出した。

 「アンタ本当にバカですねィ。俺に勝つためにあんな必死こいて、あげく倒れて・・・。
 
  それでホントに勝っちまうんだから、相当な負けず嫌いでさぁ。

  ま、俺も人の事言えた義理じゃねぇけど・・・。」

 「・・・そっか。私、勝ったのネ・・・。良かった。

  なんか、正直・・・体力の差を見せ付けられたみたいで・・・ちょっと嫌だったアル。」

 「は・・・・?ああ、まあそりゃあしょうがねぇだろィ。
 
  俺、男だし。ま、でもアンタに何とも無くって良かったでさぁ。」

 「・・・・・」

 ばふっ

 神楽は布団を思いっきりかぶった。

 「おィっ?どうしたんでィ、突然」

 沖田にばれないようになるべくいつもの調子で言う。

 「なんでもないアル!大丈夫だからもうオマエ教室戻れヨ!!私はもう一眠りするネ!!」

 「なっ何でィ。人がせっかく親切にしてやってるってのに・・・。言われなくても帰りまさぁ。
  
  せいぜいサボって保険の先生と銀八にでも絞られろ。」

 すたすたと去っていく沖田の後ろ姿に、神楽は小さく言った。

 「運んでくれて・・・ありがとナ・・・。」

 「・・・・・・」

 ぴしゃっ

 沖田はドアを勢いよく閉めた。

 神楽にばれないようになるべく普通の様子で閉めた。


  ―――顔が火を噴いた様に赤い事、アイツにだけは、ばらせない









〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
シャトルラン、懐かしいです。
実はシャトルランの記憶があんまりなくて
一般人が何週くらい走れるのが普通か覚えてないです・・・。

去年走ったのにな〜・・・。ほんとに記憶力ないです。


体育で沖田と神楽を戦わせたいのと、倒れた神楽を沖田に背負わせたくて書きました。

ここまで読んで下さった方、有難うございました。



[*前へ][次へ#]
[戻る]


第3回BLove小説漫画コンテスト開催中
[小説ナビ|小説大賞]
無料HPエムペ!