Summer-days [4] [4] 「・・・今日は、このあとも、天気が崩れることはないでしょう。今日の夜は、天体観測にはもってこいの日和かもしれませんね。では、このへんで。また明日お会いしましょう。」 俺は、彼女の部屋でテレビの天気予報を見ていた。俺は、テレビの電源を切った。 「晴れか・・・」 「うん・・・」 「残念だな・・・病院にいる以上は、天体観測はできないかもしれないな。」 「・・・」 「はぁ・・・」 俺は毎年、1年に1度のこの天体観測日を心待ちにしているのだ。 「今年はおあずけか・・・」 「残念だったね・・・せっかく楽しみにしてたのに・・・」 「お前は天体観測はやったことあるのか?」 「ううん。私、小学校に入学する時に、自分の体の異変に気づいて、案の定入院。で、私の病気について聞かされたのは、小学校4年生ぐらいのときかな。あの時は、本当にショックだった。だって、いきなり、『中学を卒業することはできないかもしれない。』なんて言われたんだよ。その月はあまり深く眠ることができなかった。ショックで食事も喉を通らないこともあってね。」 「そうだったんだ。辛かったんだな・・・」 「でも、今は大丈夫。だって、楽しいから。」 「・・・ああ。」 「それにしても・・・本当に残念だね・・・」 「そうだな・・・あ、そろそろ夕食だな。」 「そうだね。」 「じゃあ、また明日な。」 「うん。」 俺は、彼女の部屋を出て行った。 「はぁ・・・やりたかったよなぁ、天体観測。」 俺は、そんな独り言をつぶやいていた。 ――午後8時過ぎ。 俺は、中学の勉強に少しでも追いつかなければいけないと思って、少しずつ勉強している。誰の助けも借りずに。 「はぁ・・・」 問題をやっているだけでため息が出てくる。 そんな、つまらない勉強をしていると、 ――コンコン。 「ん?」 突然、ドアをノックする音が聞こえた。 「誰?」 「あ、幸一君、私。」 「なんだ。お前か〜。どうした?」 「え、えっと、その・・・」 彼女は困っている様子だった。 「い、一緒に天体観測しに行かない?望遠鏡とかは無いけれど、星を見るってことで。」 「本当か?」 「う、うん。」 「分かった。一緒に天体観測をしよう。」 「本当?よかった〜。」 「今行くから。」 そう言って、俺は急いでドアのほうに走り、ドアを開けた。そこには、1人の少女が立っていた。 「じゃ、屋上だな。」 「うん。」 俺たちは、誰も居ない廊下を歩き続けた。 屋上に向かう階段で、俺は聞いた。 「なあ、いきなりどうしたんだ?」 「え、えっと・・・ほら、幸一君、天体観測が楽しみだったのに、って言ってたから、だから、一緒に行こうかな、って思っただけ。」 「そっか。ありがとな。」 「へへっ。」 彼女は誇らしそうにした。 やがて、屋上のドアの前に到着した。静かにドアを開けた。 「うわっ!?」 「きゃっ!?」 俺たちは、ほぼ同時に声を発していた。 ドアを開けた瞬間、冷たい突風が俺たちに吹きつけたのだ。そういえば天気予報でこんなことも言ってたっけ。 「夜は、晴れますが、冷たい北風が強く吹く地域がありますので、寒さ対策に十分注意するようにしてください。」 忘れてた。天体観測には行けないと思っていたから・・・ 俺は、彼女のほうを向いた。 「大丈夫か?」 「な、なんとか。それにしても、ちょっと肌寒いね。」 「そうか?」 俺は、とりあえず着てきた上着を脱いだ。 「ほれ。」 「え?」 「寒いんだろ?だから着ろって。」 「でも、それじゃ、幸一君が・・・」 「俺なら大丈夫さ。」 「でも・・・」 「いいから着ろって。」 「うん・・・」 彼女は、俺の差し出した上着を受け取り、そして着た。 「温かい・・・ありがとう。」 「そっか。」 そりゃ、温かいだろう。なにしろ、大きいのを持ってきたから、彼女の体が全て包まれてしまうし。 「じゃあ、そこに座ろうぜ。」 俺は、ベンチを指差した。 俺たちは、ベンチに座り、上を向いた。その空には―― 「うわぁ・・・」 「おお・・・」 ――空には、暗闇を照らすかのように、満天の星たちがいた。 「きれい・・・」 「そうだな・・・」 「こうしていると、何もかも忘れてしまえるような気になるね・・・」 「ああ・・・」 そういった瞬間、再び突風が吹いた。 「うう、寒いな。」 「幸一君。」 「え?」 彼女のほうを向くと、彼女は、俺を包み込むかのように、上着を俺のほうにもかけてくれた。 「あ・・・」 「これなら、2人とも温かいでしょ?」 「ま、まあな・・・」 結果的に2人で1つの上着に入る形になっている。 「本当に、きれいだよね・・・」 「ああ・・・」 「私も・・・」 「ん?」 「私も、もし死んじゃったら――」 「え?」 「――あんな風に、お星様になっちゃうのかな・・・」 「・・・」 「いつも、みんなのことを空から見ることができるのかな・・・」 「・・・」 俺は、彼女に何も言ってやることができなかった。 「嫌だよ・・・」 「え・・・?」 彼女は、涙を流しながら言った。 「嫌だよ・・・私・・・私、まだ・・・死にたくないよ・・・」 「・・・」 俺には何も言ってやることができない。 「なんで・・・なんで私だけ・・・こんな目にあわなきゃいけないの?どうして私だけ死ななくちゃいけないの?嫌だ・・・死にたくない・・・死にたくないよ・・・幸一君・・・」 「絵里・・・」 俺は、彼女の自分のほうに引き寄せ、抱きしめた。抱きしめている間にも、彼女は泣いたままだった。そんなことが1・2分くらい続いただろうか。 「もう大丈夫か?」 「・・・うん。」 小さな返事だった。 「俺には、何もできないんだ。お前を助けてやることが・・・できないんだ。ごめんな・・・肝心なときに何もできなくて・・・」 「別に気にしないで。私こそ、ごめんね。あんなこと言い出しちゃって。」 「いや、うれしいよ。俺、やっとお前の心の声を聞けたような気がしてさ。うれしいんだよ。」 「幸一君・・・」 「さてと、そろそろ戻るか?」 「うん!」 俺たちは、同時に立ち上がり、俺は上着から出た。 「あ、そういえば・・・」 「どうした?」 「さっき、幸一君、私のこと名前で・・・」 「あ、いや、別に、あれは、とっさに出たっていうか・・・」 「へへっ。」 彼女は、俺の腕にしがみついてきた。 「ありがと。」 「あ、だから、別に、俺は何も・・・」 「素直じゃないんだから。」 「うるさい・・・いいから行くぞ。」 「はーい。」 俺たちは、再び歩き始めた。1枚の上着の中に2人で一緒に入りながら・・・ [前へ][次へ] [戻る] |