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小説
fiamma 炎3


「てめぇは、もう良いのかよ?オレの皮、剥ぐんじゃねぇのか?」
「生憎、女に傷を付けて悦ぶような趣味なんざ持ち合わせちゃいねぇんだよ。カスが」
スクアーロが隣に座ると、XANXUSは尊大な態度で脚を組んだ。
「…契約ミスのペナルティはどうなんだぁ?」
「可愛げのねぇガキが。あれで良い。多すぎる位だ。高位悪魔に取って、粗雑に女を扱うのは最大の恥。知らねぇのか?」
XANXUSが今度は魔法で温かい紅茶を出した。カップを収める。見事な銀細工のホルダーが美しい。
スクアーロはそれを受け取ると、促されるままに口を付けた。
「オレを奴隷化…魔女化しねぇのかぁ?」
「ハッ!体が欲しけりゃ口説き落とす迄だ」
悪魔との契約に失敗した女は、大抵悪魔の性的な奴隷にされるが、あれはどうやらモテない悪魔が取る手段らしい。
「だが、スペルビ・スクアーロ、テュールの娘…てめぇとなれば、話は別だ」
「…ッ!」
スクアーロは身構え、左手首を強く握り締めるが、XANXUSの取った行動は意外なものだった。魔法で、一枚の古ぼけた羊皮紙を出したのだ。
「テュールとの契約書だ。見ろ『ここに私、魔術師テュールは悪魔XANXUSと契約を交わし、XANXUSに対する封印が破られる迄、XANXUSが瓶の所有者に仕える代償として、私の結婚後に産まれる最初の子供…男児であれば生贄として、女児であれば十五年の養育の後に花嫁として、悪魔XANXUSに捧げる事をここに契約するーー…』と。この意味が分かるか?」
「なっ…まっ、待てぇ!そもそも、そりゃあオレには有効じゃねぇだろぉ!テュールは独身だし、オレは養子だぁ!成立してねぇ!」
スクアーロがXANXUSの手から羊皮紙を奪い取った。間違いなく、これはテュールの筆跡。
「…あのカスが二十歳の時、ある女が勝手に婚姻届を提出した。そして、その日、この街で旅の妊婦が殺され、腹のガキだけが助かった。それがてめぇだ。それに…契約書には、テュールの実子でなければならないとは書いていねぇ」
「なっ…!っ、ざ、残念だったなぁ。オレはまだ十四だぁ。もうテュールからは独立してるし、あと一年養育期間が残ってる。テュールが帰って来ねぇ限り、契約は成立しねぇ!」
「何だと?」
XANXUSの眉間に深い皺が刻まれた。
それからは喧々愕々の大論争。漸く一端の魔術師らしくなってきたオレは、何だか、この妙に真面目で紳士的な悪魔との議論が無性に楽しかった。








「…ベルフェゴール、君の親は、確か銀髪が大好きだったね?」
テュールは歩きながら、愛娘の写真を新たな自分の悪魔に見せた。
「ししし、そーそー。こんな感じにちょっと釣り目で瞳も銀色だったら最高だし。今頃必死になって契約書広げて確認してんじゃね?」
「口は悪いけれど、素直で、賢い良い子なんだ。君の親はちゃんと骨抜きになってくれるかな?」
「なるなる。なるに決まってんじゃん。ボスの好みドンピシャだし〜」
ベルフェゴールが写真をテュールに返した。
「うん。そうだね。だから、あの子にはXANXUSが向いているんだよ。魔術の議論も、賢者の理屈も、恋には適わないんだからね」




大魔術師・テュール。策士にして腹黒。




こうして、翌日からXANXUSはスクアーロを本気で口説き落としに掛かるのだが、約四ヶ月に渡って、血を吐くような忍耐を強いられる事となる。









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あきゅろす。
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