[携帯モード] [URL送信]

小説
birra ビール2


あんな可愛い台詞を言われたのは、出会って以来初めてだ。酒の力とはいえ、普段から殴りたくなる程鈍い相手の口から聞くと、それなりに刺激的な言葉だ。
服を脱いで風呂場に入ると、スクアーロが酒瓶を抱いたまま湯船の中で寝そうになっていた。顔を軽く殴って起こすと、今度は一緒に入れと強く勧められる。バスタブは比較的大きなものだったが、大の大人が二人で入るとなると狭い。仕方なくスクアーロを抱き込むようにして入浴する。
「どぉだぁ?昼間っから風呂ぉ、入んのも気分良いだろぉ?」
「……」
確かに、電話を受けた時は呆れたが、実際やってみると、これは悪くない試みかもしれない。
酔った勢いか、それとも俺を風呂に入れて満足したのか、スクアーロが甘ったれた猫のように頬を摺り寄せ、キスをねだってくる。可愛い。
「風呂での酒も、悪かねぇ…」
「んんっ…v」


「……」
目覚めた時、頭の中は鉛を詰め込んだかのように重かった。ガンガンと何かで叩かれているような鈍痛。時々針で刺したような痛みが襲ってくる。
更には、体の節々まで痛い。膝や肘には痣があり、同じベッドの隣では上司兼恋人であるXANXUSが、珍しく裸のまま寝ている。
何があったかは火を見るよりも明らか。だが、記憶が全く無い。すっぽりと抜け落ちている。風呂に入って、何本か瓶ビールを開けた所までは何とか、ぎりぎり記憶があるが、その後一体何をしたのかが全く分からない。
部屋の半分までが水浸しで、点々と衣服や湿ったバスタオルが落ちている。風呂場のドアは開いたままで、そのドアのすぐ横の床には、何故か電話機が直に置いてある。
「…これは…あれ、だよなぁ?」
ふらふらとおぼつかない足取りで風呂場を覗いてみると、そういう目的で使用されると思しきローションのボトルや入浴剤の袋が落ちていた。極め付けはびしょ濡れになった用途不明のベッドシーツで、そちらは嫌な予感がするので、余り深く考えないようにした。時計を見ると、夕方の五時を回っていて、正直、昼間自分が何をしていたのかが恐ろしい。
「……」
こんな時、
「寝る、かぁ…」
人は決まって逃避という行動を取る。この場合、次に目覚めれば目覚めたでXANXUSとの第二ラウンドが始まるのだが、スクアーロに取っては抜け落ちた数時間の記憶を上書きするのが先決だった。






‡余談‡

「おいツナ、XANXUSから日本の風呂についての資料を送ってくれって要請があったぞ」
「えぇ?何で?」
XANXUSは(色んな意味で)風呂でビールがとても気に入ったので、大きな風呂を増設するそうです。

[*前へ][次へ#]
[戻る]


あきゅろす。
[小説ナビ|小説大賞]
無料HPエムペ!