espuma
変わりたいというココロ


高校生になったら、しっかり目を見て話をします。

高校生になったら、好き嫌いをしないで何でも食べます。

高校生になったら、自分のことは自分で出来るようになります。


高校生になったら……




──────

ドキドキしながら真新しい制服に袖を通す。
「うわぁ…」
憧れていた学校の制服。
家からは2時間以上離れていて諦めていた高校。
その高校の制服を着られる喜び。
ネクタイは難しくて首元にぶら下がっているけど。
肌触りの良い生地は制服とは思えないもの。
うっとりと指を這わせていたら部屋のドアが勢い良く開く。
「かーなでー!早く朝飯食べなさーい」
良く通る声に体をビクつかせてしまう。
「…はぁい」
「あれ、ネクタイ出来ない?」
こくこく頷けばしゅるしゅるといとも簡単に完成させた。
「慶ちゃん、ありがと」
「んー、早く自分で出来るようになるんだぞー」
肩を軽く叩いて笑うのは従兄の柊慶一郎(ヒイラギケイイチロウ)。
「よし、メシ食おうな」
「はぁい」
もう一度、肩を叩かれて部屋から出た。



「奏、はい」
慶ちゃんが作ってくれた雑炊を食べ終わりお茶を啜っていたら手を掴まれて冷たいものを握らされた。
手を開くと新品の家の鍵。
「あとこれ」
また手を掴むと水色の塊が掌に乗せられた。
「まだ俺の番号しか入ってないから」
「慶ちゃん…」
「こっちは入学祝」
もう高校生だからな、と笑うと肩を叩く。
「ありがとう」
きゅっと掌に乗ったケータイと鍵握りしめた。
「どっか寄り道するときは連絡すること」
「うん!」
「よしよし」
慶ちゃんは満足そうに笑うと頷いた。

僕は自宅を離れて慶ちゃんが一人暮らしをするマンションに住まわせてもらっている。
そこから高校に通うんだ。
入学した高校は慶ちゃんが先生をしている高校でもあって、心配性なお父さんとお母さんは渋々ながら了承してくれた。

「おっと、こんな時間!じゃあ俺は先に行くから遅れないようにな」
先生の慶ちゃんは準備があるから早くに家を出る。
「はぁい」
いってらっしゃい、と玄関で告げればにっこり笑っていってきます、と答えてくれた。
慶ちゃんを見送ってから使った食器なんかを慎重に洗う。

ふたり分の食器を洗い終わって時計を見ると20分ほど経っていた。
「まだまだだなぁ…」
大きく溜め息を吐いて手を拭いた。
いろいろと…
慶ちゃんの家に来てから本当にいろいろと教えてもらった。
洗濯物の畳み方。
食器の洗い方、拭き方。
掃除機の使い方。
生活に纏わるいろいろなこと。
「さて、と」
ここから高校まで1時間弱。
自分の足と慣れない道は少し不安だからそろそろ出発しよう。





「は、ふぅ…っ」
電車から弾き出されるようにホームに降りた。
これでも一番の混雑する時間帯じゃないらしいけど。
ちゃんと通学できるかなぁ…
不安になっていつもより歩調が遅くなった。
どんどんどんどん、たくさんの人に追い越されていく。
「…よしっ」
下向きになりかけた気分を払拭したくて顔を上げて人混みの波に乗った。

ボクは変わるんだ。



松下奏(マツシタカナデ)15歳の出発です。


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