espuma
牽制とマシュマロ
身内と職場内の人間は対象外だ。
慶ちゃんはそう言い切って、だから…と続けた。
「奏は好きだけど、そういう好きじゃないから安心しな」
ぽかんとするボクにそう言った。
「慶ちゃん…」
「奏が誰かを好きになるのはいいことだと思う。ただ、同性同士は理解してもらえないことが多いから…いろんな意味で傷つくことがあるよ」
笑っている慶ちゃんはちょっと寂しそうだった。




──────

教室中からの視線が痛い。
どうしよう…
「あの…葉澄せん」
「葉澄」
「…ぅ、ぁ…は…す、み」
名前の呼び方じゃなくて、そうじゃなくて!
「はなしてくださ」
「まだ」
まだって…
広い胸に頬を付けながらキョロキョロと視線を動かした。

ここ数日、朝はこんな感じ。
駅から学校までボクをおんぶして、教室まで送ってくれる。
椅子に降ろして抱き締められる。
なんでかはさっぱりわからないけど…
それをクラスのみんなは驚いた顔で見る。
だいぶ慣れたのか凝視されることはなくなった。
「新倉ーっ!」
パーン!と派手な音をさせて教室に慶ちゃんが入ってくる。
これも、ここ数日の光景。
「おまえは自分のクラスに戻れ!用事は済んだんだろ!?」
大声の慶ちゃんにクラスの視線が集まる。
「時間切れ」
くすり、と笑うと広い胸が離れていく。
「あ…」
包まれていた体温は優しくて、離れるとちょっと寂しいような気がした。
「かな」
呼ばれて顔を上げたら少しだけ柔らかく笑んだ顔があった。
「また帰りに、な」
「…はい」
確かに表情はあまり変わらない。
でも時々こうやって優しく変化する。
そういう時、ボクの体中の血液は駆け回ってどうしようもなくなる。
慶ちゃんに頭を小突かれながら教室を出ていく後ろ姿を見送った。

「顔真っ赤だなぁ」
浜野くんの声にぼんやりとしていた意識が戻る。
「仕方ないんじゃねーの?松下免疫無さそうだし」
本多くんを見ると肩を竦められた。
「新倉先輩、美形だしな」
うんうん、と頷き合う浜野くんと本多くん。
「でも、男の人…だよ…」
「慣れだよ、慣れ」
恐る恐る言ってみたものの、浜野くんにサラリと返された。
「まあ…すっごい牽制だとは思う」
そう呟く本多くんをじっと見ると、やっぱり肩を竦められた。
「新倉先輩のお気に入りで柊先生のイトコなんて、手ぇ出し難いよな」
「そうそう」
なんだかよくわからない内容で、でも恥ずかしくて少しだけ下を向いた。
「女子も男子も、な…」
困ったように笑った浜野くんはそう言うとボクの肩を軽く叩いた。






「カナデちゃん見っけ〜」
移動教室の帰り道、背後から大きな声。
「あ」
「足、大丈夫〜?はーちゃん呼んだげよっかぁ?」
「や、ダイジョブ…ですっ」
慌ててそう言うとタレ目が細くなって笑顔になる。
「カナデちゃんはかわいいね〜ぇ」
くしゃくしゃと髪の毛を掻き回してポンポンと叩く。
「ホント、仔猫ちゃんだよねぇ」
ボクに付き合って隣を歩いていた浜野くんは固まってしまっている。
そう言えば千堂先輩のことも知っていたっけ。
「ねぇ、坊主くんもカナデちゃんは仔猫ちゃんだと思うよね〜?」
「はははいっ!」
「はーちゃんがいない時はよろしくね〜ぇ」
首がもげてしまいそうな位、頭をぶんぶん振って頷く浜野くんの顔色は青。
そんなに…怖いんだ…
「じゃあ、カナデちゃんにおやつ」
手を取られて握らされたのは袋に入った小さなマシュマロ。
「ゃ…あの…っ」
慌てて返そうとすると手を握られた。
「食べたら、動けばいいんだよ」
「え?」
「そしたら太らない」
ぽん、とマシュマロが乗っている手を叩いて行ってしまった。
「千堂先輩…」
手の上のマシュマロ見つめる。
袋を破いてマシュマロを口に入れた。
「あまーい…」
噛み締めたら中からトロリとチョコレートが出てきた。




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