その手を掴みたい
驚きと喜びと裏切り
玄関のドアを開けると父の靴があった。驚いて顔を上げると、目の前に父が立っていた。
「さっきのカレは恋人か?」
父の口から発された言葉が信じられなくて悟は目を見開いた。
「そんな訳ないでしょう、父さん。安堂は友達です」何ヵ月かぶりにする父との会話がこんななんて、嫌気が差してくる。
「そうか。彼の方はまんざらでもなさそうだったがな。まぁいい、早く靴を脱げ」
何だかよく分からなくて、父に目線を向けると、目で制された。
悟は言われた通り靴を脱ぎ、階段を上る父について行った。
父は、階段を上り切ると、右手にある自身の寝室へと入って行った。
父に続いて部屋に入ると、ピンク色をした飲み物を渡された。
「飲みなさい。苺、好きだっただろう?昨日、仕事の帰りに買ってきたんだ」
事態が呑み込めないのと、嬉しいのとで、悟は暫く苺ジュースの入ったグラスを持ったまま固まっていた。だが、もう一度飲むように促され、グラスを傾けた。「おいしい。父さん、俺の好きな物覚えててくれてたんですね…」
今まで家の中ではほとんど話もせず、息子だと思われているのかさえも疑問に見えた父。そんな父が、自分の好きな物を覚えていただなんて悟にとっては奇跡に近かった。
「父親が息子の好物くらい覚えているのは当たり前だろう。飲み終わったら、悟もここに座りなさい」
父は、ベッドに腰掛けながら言った。
父と早く話がしたくて、莓ジュースをイッキに飲み干し、父の隣に座った。
「偉い子だ。流石、俺の息子だ。」
そんな悟を見て、父は悟の頭を撫でながらそう言った。何故父が自分を誉めているのか、悟は不思議に思ったが、それよりも嬉しさが勝って、照れるように微笑んだ。


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あきゅろす。
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