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HQ(long)@
5


side赤葦



午前練習を終え昼食中に携帯を見ると
月島からLINEが届いていた。

試合中の名前を撮ってくれたようで
画像と動画を送ってくれており
やはり月島と交流しておいて正解だった。

プレーの上手さは合宿で見ていたので
もちろん知っているが
試合中の名前はとにかく
楽しそうで声もよく出ている。

食事の手を止め動画や写真に見入っていると
一緒に食事していた木兎さんが
不審に思い俺に声を掛けてきた。


「あかーし!何見てんだ!?」

「…今日名前が手伝いで女バレの
練習試合に参加してるんですけど
月島達も応援しに行ってたみたいで
写メや動画を送ってくれたんです」

「えっ!?名前試合出てんの!?
俺も観に行きたかったーー!!!」

「木兎さん煩さいです。俺も観た
かったんですから我慢して下さい」

「じゃあ俺にもそれ見せてくれよー!」

「…仕方ないですね」


携帯を木兎さんに渡すと食い入るように
動画を見て時折変な声を発していた。

その間に昼食を食べ終えると
満足したのか携帯を返してもらう際
気になる事を口にする。


「なぁそこって烏野の体育館か?」

「そう思いますけど…どうかしましたか?」

「青葉城西の及川たちが写ってるぞ?
あともう一人…あっ!それウシワカだ!!」

「…は?」


一瞬木兎さんが何を言っているのか分
からずフリーズしてしまったが

気をとり直し慌てて写メを見返すと
確かに3人写っていて中でもニヤけている
及川さんの顔には無性にイラついた。


「…ホントに牛島さんが写ってますね」

「だろ!?名前って知り合いなのか?」

「…聞いたことないですけど…
今日問い詰めておきます」

「いや!!普通に聞いてあげて!?!?」


俺が見ていない所で直ぐにこうなる。

折角名前のプレーを見ながら俺の
モチベーションも上がっていたのに
岩泉さんを除くこの2人のお陰で台無しだ。

俺の機嫌が急降下する中練習を再開すると
案の定木兎さんに八つ当たってしまい
同期や後輩から怯えた目で
見られてしまった。

引退したにも関わらず毎日練習に来てくれ
俺の不満の捌け口となってもらっている
木兎さんにはある意味感謝している。



* * *



夕飯を食べ終えリビングで少し寛いでから
部屋に戻るとベッドに腰掛けながら
携帯を操作し履歴の一番上をタップした。


『もしもし京治?練習お疲れ様』

「名前こそお疲れ。
よく身体動いてたみたいだけど
試合してみてどうだった?」

『あれ?どうして京治が知ってるの?』

「月島が動画撮って送ってくれた。
楽しそうに試合してたのが伝わってきたよ」

『月島動画撮ってくれてたんだ!
うん!すごく楽しかったの!
細かなミスは出たんだけどみんなが
カバーしてくれたから大丈夫だったしね』

「名前の言うミスって他の
選手にはミスじゃないから。
相変わらず自分に厳しいんだからまったく」


会話しているだけで名前が試合を
楽しんでいたのが伝わってきて
1日という期限付きとはいえこれ程
嬉々とした彼女の声を聞いているとやはり
選手を続けて欲しいと思う自分がいる。


「ねぇ名前。それだけ楽しんで
バレー出来るならもう一度プレーヤーに
戻ってもいいんじゃない?」


俺の思いをそのまま口にし彼女の反応を待っていると予想以上の答えが返ってきた。


『そのことで京治に報告しようと思って!
私このまま選手を続けることにしたから』

「え?」

『試合の後チームの人達から正式に
入部して欲しいって言われたんだけど
マネの仕事もやりたくて悩んでたら
日向に両方やれば?って言われてね』

「…さすが日向。
両方なんて普通は考えないよ?」

『でしょ?だけど男バレや女バレのみんな
は私の気持ちを汲んでくれて好きなように
していいって言ってくれたから
我儘なんだけど両方することにしたの』


確かに名前にどちらかを
選択することは難しいだろう。
しかし両方という選択を取るにあたって
彼女の負担が増えることを懸念した。


「両方するのはいいと思うけど名前
の負担が倍以上に増えてくるんだから
無理のいかないようにしないとダメだよ?」

『でも好きなことが出来るんだから
多少の無理は覚悟してるの』

「名前は多少じゃ済まないでしょう?
上手くセーブしながらバランスよくやらないとどちらにも悪影響になってくるんだから。
…月島にちゃんと報告してもらうからね?」

『…肝に銘じておきます』


名前の決断に驚いたものの
彼女にとっては一番良い選択だったと思う。

烏野の男バレにはマネや指導者としても
名前は必要不可欠だし居ないと
チームバランスが崩れてしまうだろう。

しかし名前の事を考えると
あれだけのプレーが出来るのにマネのまま
高校生活を終わらせてしまっては勿体無い。

それに全員が彼女のプレーをもっと観たい
と望んでいるはずだから。


「まぁでも名前が選手としてバレーを続けてくれることは俺も嬉しいよ」

『やっぱり京治も私がバレー
辞めた時は残念だと思ってた?』

「それはもちろん。だって俺は選手である
名前の凄さを一番知ってるからね」

『そんな大げさな』

「名前が決めたことだから
応援するしいつでも相談に乗るから絶対に
1人で抱え込まないこと。わかったね?」

『うん!頼りにしてます!』

「よろしい。…ところで名前。」

『…はい?』


話が落ち着いたところで彼女にどうしても
聞いておかなければならないことがあった為
先程までの空気を一変させ厳しい声で
名前を呼ぶと何か察したか動揺が見られた。


「画像に及川さんたちや牛島さんが
写っていたのはどうしてなのかな?
どう考えても名前を観に来たとしか
思えないんだけど…説明してくれる?」

『…えっと……説明って言われましても…』


俺の質問にタジタジになっている名前に畳み掛けるように言葉を続ける。


「青城の2人は中学時代からの先輩後輩で仲も良かったって聞いてたしまだ分かるけど
牛島さんはどこで繋がってるのさ」

『……春高予選の時に声掛けられて…
中学の選抜で私を覚えてくれてた話し
から仲良くなり……』

「で?連絡先を聞かれたと」

『…私としても選手として一流の牛島さん
から技術など色々盗みたいと思いまして…』

「いくらバレーの話しを聞きたいからって
男に簡単に連絡先教えてたらダメでしょ?
そうじゃなくても名前の周りには
男が集まって来るのに…」


俺が怒っていることに反応した名前の言葉は敬語になっており徐々に
自分のしたことを反省しだしたようだ。

しかしそれではまだ足りない。

名前にはしっかり自覚して貰わないと。


「名前がその気はなくても相手は
少しでも期待するんだから。
及川さんみたいなのがいっぱい近づいて
来たらどうするの?しつこいよ?」

『それはイヤだ』

「だろ?だから警戒心をしっかり持って。
簡単に連絡先なんか教えないこと。
わかった?」

『…わかりました…』


俺に説教されて堪えたのか申し訳無さそうに
謝ってきた為俺の怒りも少し治まってきた。


「…近くにいたら守ってあげられるけど
悔しいけど今は出来ないんだからね…」

『京治…ごめんなさい。
今度からはちゃんと気をつけるから』


俺から吐き捨てるように出た言葉は
名前にも大きく響いたようだ。

名前が加われば強豪と肩を並べる位置まで一気にチーム力を押し上げる事ができ
今まで以上に注目も浴びるだろうし余計に
男共が集まってくるのは目に見えている。

プレーに魅了されて声を掛けられる分には
まだ大丈夫なのだがなにぶん容姿端麗な為
俺と言えど気が気ではなく
これから俺の苦労も増えていくだろう。


「うん。気をつけるんだよ?
今日は疲れただろうからしっかり休んで…
あ。体のケアはちゃんとした?」

『もちろん!ダウンも長めにとって
アイシングもしたから大丈夫だよ。
お風呂上がりに柔軟もしてるし』

「なら安心した。それじゃあまた明日
連絡するからゆっくり休んでね」

『ありがと。京治も練習してるんだから
しっかり身体休めてね。おやすみなさい』

「うん。おやすみ」


通話を断つとそのままベッドへ横になり
名前との会話を思い返した。

選手に戻ってくれることは素直に嬉しい。
だけど名前の注目度が上がるのは
彼氏として困りものだ。

複雑な心境なのだが先ずは名前が
楽しんでいるならそれでいい。

少しでも彼女の支えになれたらと
思いながらゆっくり瞼を閉じた。



end


あとがき


木兎さんは卒業するまであかーしにくっ付いてて欲しい(笑)
あかーしの悩みはこれからもっと増えていくことでしょう!頑張れ!

ここまでご覧いただき
ありがとうございました☆



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