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HQ(long)@
4


side及川



チームの力は中の下だろうか。

ミスも多く目立ち個々もそれ程飛び抜けて
上手いコはおらず平均的な感じだ。

ただ一人を除いて。


「名前ちゃん!!」

「オッケー!!」


レシーブが乱れ二段トスとなるボールを
レフトの名前ちゃんが呼んでいる。

オープントスに合わせてゆっくり助走すると
ボール1個分ぐらいの幅しか開いていない
ブロック横のストレートコースを
迷いなく打ち抜いた。
相手チームの選手も一歩も動けず
驚いている。


『すげぇ……』


横にいる烏野の何人かから名前ちゃんのスパイクを見て思わず感嘆の声が漏れた。


「昔と変わってねーな。
相変わらずキレイなスパイク打ちやがる」

「うん。長い滞空時間とあの空中姿勢だから
ブロックがしっかりと見えるんだろうね」

「…あとはそこを狙える技術とスイング
スピードを兼ね備えているからだ」


隣のウシワカも名前ちゃんから
目を離さず俺たちの会話に入って来た。
彼ほどの一流アタッカーが彼女に固執しているのにはプレーを見れば一目瞭然だ。

バックに下がっても相手のエースのスパイクコースを読みきっちりレシーブし
セッターまで返したり
ワンタッチのボールをトスに持っていく所や
フェイントも難なく対応しチャンスボールに
し攻守に於いて要となっている。

そして誰よりも楽しそうにプレーしている姿は敵味方関係なく観る人皆を惹きつけた。




「お疲れ様。全然問題ないじゃない。
男バレの子守りしてないで自分も
バレーすればいいのに」


試合終了後名前ちゃんが俺たちの
所へと挨拶に来た。
試合結果は5セット中3セットを取り
チームとしては上出来らしい。


「子守りって徹先輩…
確かにプレーするのも楽しいんですけど
マネジメント業も同じくらい
好きなんですよ」

「だけど名前。
プレーヤーは今しか出来ない事だぞ?」

「それはそうなんですけど…」


岩ちゃんから言葉を返されると言葉に詰まり
悩んだ表情を浮かべている。
追い打ちを掛けるようにウシワカからも
言葉をかけられる。


「あれだけのプレーを出来る選手はそう何人もいない。あと1年もないが身体が万全なら選手を続けるべきだ。
名字のプレーはそれ程の魅力がある」


「牛島さん…」


あのウシワカがこれほど素直に彼女を
絶賛している姿は珍しい。
自分に厳しい分他人の評価もかなり厳しいものを持っていると理解していたから。
まぁそうまで言わせている名前ちゃん
本人が凄いのだが。


「名前お疲れ!!
なぁなぁ俺にもお前のスパイク
レシーブさせてくれよ!!!」

「おまえヤベェな!!
俺もあんなスパイク打ってみてーわ!!」

「あっ!みんなありがとう!
先輩たちもありがとうございました!!」


うるさい烏野の1,2年の後から3年生も
やって来て余計に騒がしくなってきた。

昔からこうやって彼女の周りには
自然と人が集まってくるのだが
俺にとっては全くもって面白くない。


「名字お疲れ。
やっぱりお前は何やらせても凄いな」

「名前!感動したぞ〜!」

「スガ!名前ちゃんの髪がっ!!」

「名前ちゃん素敵だったわ」


先輩たちから褒められ照れながらも嬉しそうな顔をしている彼女は本当にかわいい。

しかし腑に落ちないのは男バレに馴染んでしまっているからこその会話なのだろうが

俺たちからすれば何故これだけ出来る彼女を
マネのまま留めているのかが分からない。


「ねぇ先輩たちからも言ってあげてよ。
名前ちゃんは選手に戻りなさいって」

『え?』


名前ちゃんの肩に腕を回し烏野の
3年生たちを見遣れば弾かれたように
俺の方を向いた。


「この子はこれだけのプレーが出来る選手なの。ただのマネージャーで置いておくには
勿体無いと思うでしょ?」

「ちょっと徹先輩!?」

「名前は黙ってろ。お前らがこいつを必要としているのは分かってる。
今まで烏野が勝ち上がれたのはこいつの
力があってこそだしな」


岩ちゃんも俺と同様名前ちゃんの
プレーヤーとしての姿を望んでいる為
俺の話しに参加してきた。
名前ちゃんの肩に乗せていた腕は
叩き落とされたのだが。


「今まではケガの影響で仕方がなかったが
今日の試合でそれが問題ないことが
分かったのなら話しは別だ。
名前を選手に戻してやれ」

「岩泉先輩!
私は今まで好きでマネをしてたんですよ!?
みんなを責めるのは止めて下さい!」


岩ちゃんの言葉に名前ちゃんが慌てて注意をするが岩ちゃんはお構いなく烏野の選手たちを見つめていた。
そんな中口を開いたのは飛雄だった。


「名前先輩…俺は今日の試合を観て
やっぱりあなたには選手でいてほしいです。

マネージャーでも勿論尊敬してますし
指導の面でも頼りになりますけど
だけどプレーしている先輩は誰よりも
輝いていて昔も今も俺の憧れなんです」

「影山…」


中学の頃飛雄が隣のコートの名前ちゃんをよく見ていたのを知っていた。
自主練でも自分から彼女に話し掛け色々吸収していきあの時の飛雄は楽しそうだった。

飛雄がコート上の王様と呼ばれている時は
今思えば名前ちゃんがバレーから
離れてしまったのも影響したのだろう。

プレーヤーの名前ちゃんを誰よりも崇拝していたのは飛雄と言っても過言ではない。


「名前さん!
選手もマネも両方して下さい!!!」

『!?!?!?』

「日向!?」


飛雄に視線が注目している中チビちゃんの
とんでもない発言に周りの全員が驚いた。


「だってプレーしてる名前さんは
カッコいいだろ?俺ももっと観たい!!
だけどチームから名前さんが
居なくなるのはイヤだ!!
もっといっぱい教えてもらいてーし!!」

「日向…そんなこと出来るわけないだろ?」

「短絡思考の人はこれだからダメなんだよ」


そばかす君とメガネ君二人揃って呆れているがそれもそうだろう。
負担が倍以上になる為普通では
考えられないのだから。


「「それいいな!!」」


…うん。そう言えば烏野にはバカがいっぱいいたね。飛雄も頷いちゃってるし。


「みんなちょっと待って。俺たちが一方的に勧めていい話しじゃないでしょ?
名前はどうしたい?」

「そうだな。
名字の意思を尊重しないとな」


さすが先輩。さわやか君と澤村君が後輩達を宥め名前ちゃんへと意見を求めた。


「私は…試合するのは今日だけだって
思ってプレーしてました。
…だから今後とかは全く考えなかったし
これからもマネを続けるつもりです」


名前ちゃんの発言に何人かは
ホッとし何人かは肩を落としているが
俺は彼女の今の言葉には納得いかない。


「それは俺たちの話しを聞く前はって事
だよね。今の気持ちは違うでしょ?
俺を誰だと思ってるの嘘は許さないよ?」


彼女の表情が物語っているのは正直悩んでいる。今日プレー出来た事で選手に戻りたい気持ちも多少なりとも出てきたのだろう。

だからこそその気持ちを押し込む前に
自分の気持ちに正直になって貰わなければ。


「…お前が入る事で今いる選手が出られなくなる事に遠慮しているのではないのか?」


暫く傍観していたウシワカが口を開くと
その言葉に反応した名前ちゃんが
顔を向けた。


「試合後に他の選手達からチームに入ってくれと聞こえたがレクのような遊びでバレーをしているチームならお前は必要ないだろう。
勝つチームを作りたいからこそ周りは
お前に頼んでいるのではないのか?」


落ち着いた物言いが余計に説得力があり
悩んでいた名前ちゃんの表情も
少し変化してきている。


「お前がどっちもしたいなら
話してみればいいじゃねーか。
それで納得してくれるなら両方したらいい」

「岩泉先輩…でもそれは私の我儘だし」

「俺はどっちもしたらいいと思うぞ?
名前なら出来るだろ!!」


未だ渋っている名前ちゃんに今度は
烏野のリベロが笑顔で言い切った。


「名字には散々世話になってるしな!
俺たちも頼るだけじゃなくて
自分達で考える事も大事だろ!!」

「田中が言っても説得力ないよねー」

「力何でだよ!?!?」

「曜日決めたらいいんじゃないですか?」

「ツッキーそれいい!」


他の選手達も賛同し男バレの方は問題無さそうだ。あとは本人の気持ち次第だが。


「ありがとうみんな。
…そしたら女バレのコ達にも話してみる!
それでオッケーがでたら細かい事は考えて
いくようにするね!!」

「よし!!頑張れ!!」

「名前さんのプレーがこれから
もっと観られる〜!!」

「日向ボケェ!
まだ決まってねぇだろーが!」


名前ちゃんもようやく腹を括ったようでしっかり決意をもった表情をしていた。

彼女のプレーしている姿をこれからも
観れる事は俺にとっても嬉しい事で
出来ることならまたトスを上げて
みたいとも思った。


「名前。赤葦は試合に出ること
何か言ってなかったのか?」

「京治はいい力試しになるんじゃないかって。私がもう一度スパイクを打てるようにしてくれたのも京治なんで」


名前ちゃんの言い方ではあいつが
この状況を作り出したようで
彼女の事は何でも分かっている様な
発言に苛々する。
俺はホントにあいつが大嫌いだ。


「前もって何時でも選手に戻れるように
しといたわけ?
一々やる事が腹立つんだよね〜」

「及川さん。嫉妬は見苦しいですよ」

「うるさいよ飛雄!」

「もっと言ってやれ影山」

「岩ちゃんは余計な事言わないで!」

「…赤葦とは誰だ?」

「空気読みなよウシワカちゃん。
“一応”名前ちゃんの彼氏の名前」

「………」


名前ちゃんは片付けを始めたみんなの所へ戻るらしくもう一度礼を言ってこの場を去って行った。


「さぁて俺たちも帰りますかね岩ちゃん」

「あぁ。じゃあお前らまたな」

『はい!』


烏野のメンバーにも挨拶し体育館を出た。
ウシワカとも別れ
学校から少し離れた所で岩ちゃんから
声を掛けられるとそちらへ視線を向けた。


「やけに嬉しそうじゃねぇか」

「…そうだね。あんな名前ちゃんの楽しそうな顔久しぶりに見られたからかな」

「確かにいい顔してたな。
…これからも観れるようになるぞ」

「そうなると俺は毎回練習休むけど
いいよね?」

「いいわけねーだろアホ」

「あっ!岩ちゃんひど〜い!!!」


あの子の笑顔が俺にも活力を与える。
これからもあの子の笑顔が見られますように
出来ることなら俺だけに
その笑顔を向けてくれますように…。



end


あとがき


長い…。でも及川さん頑張りました!
少しカッコいい感じを目指しつつ
岩ちゃんと後輩に落とされました(笑)

ここまで読んで頂きありがとうございました。次回もご覧頂ければ幸せです☆



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あきゅろす。
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