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HQ(long)@
game 3




side宮侑





1回戦シードの稲荷崎は今日が春高初戦。

だからと言って緊張する訳でもなく普段
通りにプレーすればいいだけなのだが
今日に限っては少し状況が違う。


「何ニヤニヤしてんねん。気色悪いで」

「してへんわ。そない言うお前こそ
ソワソワしとるやないかい」

「…気のせいやろ」


治と二人して落ち着きがないのには理由が
あり昨日の夜成り行きで烏野のマネに啖呵
を切られそれに俺たちが応戦したのだ。

可愛い容姿に優しそうな雰囲気の彼女だが
俺たちと対峙していた時は少しの不安や
怯えもなく自信に満ちた凛々しい佇まいで
思わずその姿に魅せられてしまった。

試合のことよりも彼女が気になると言って
も過言ではなく体育館に着いたと同時に
無意識に彼女を探している。


「あっおった。あそこや」

「…改めて見てもホンマかわいいわぁ。
スタイルめっちゃエエんちゃう?」

「…ジャージ脱いでくれへんやろか」

「俺も今それ思てた」

『…お前らもうちょい緊張感持てや』


兄弟揃ってチームメイトから怒られたが
身体を動かしながらも視線は彼女へ向い
たまま治と会話を続けていてその彼女は
コーチか監督だろう人と会話している。

少しして俺の視線に気づいたのか彼女も
こちらを振り向いた為俺は咄嗟に笑みを
張り付け手を振ったのだが

彼女は表情を変えることなく軽く
会釈して選手の輪に入って行った。


「何なん。ちょっとぐらい笑ろてくれても
ええんちゃうの?美人が台無しやで」

「そんぐらい昨日の俺らの言葉が気に
喰わんかったんやろ。…ああいうのは
ツンデレ言うんか?」

「それはまたちゃうな」


不貞腐れた顔で愚痴を零す俺に治は笑
いながら慰めなのか肩を叩いてくる。


「まぁ何にせよ試合で見せつけたったら
あのコの態度もコロッと変わるやろ」

「せやな。あんな顔出来んのも今のうちや」

『お前らえぇ加減にせぇよ』


二人して妖しい笑みを浮かべ意気込んで
いると周りがキレかけ寸前でありさすがに
ここは大人しく練習に集中することにした。




「なぁ…何かおかしないか?」


サブアリーナに移動し身体を動かしていた
のだが烏野の練習を横目に見ていて何故か
違和感を感じ治へと声を掛けた。

俺の質問の意図を汲み取り視線は烏野が
練習をしているコートへ向けたまま答え
を教えてくれる。


「…あのコや。タダのマネージャーや思と
ったけど俺らの勘違いやったみたいやで?」

「………」


治の言う通り違和感の正体は正しく彼女。

何がおかしいのかというと選手との親密さ
で技術面の指摘や相談をしているらしく
時折ボールを使って実践までしている。

これはもうマネージャーというよりコーチ
と言った方が正しいレベルで選手達も監督
たちの下ではなく彼女の所へ意見を貰いに
行っているようだ。


「…ホンマ何なん。恐ろしいわぁ…
どんだけ俺を楽しませてくれたら
気が済むんやろか」

「俺“ら”や。お前だけが
楽しんでるんちゃうからな」

「せやったな。…ええヤツが居るわ。
ほなちょっと情報集めて来るとしよか」

「…知り合いでも居んのか?」

「まぁな」


俺らの近くに影山が来ていた為挨拶がてら
あのコのことを教えて貰おうと近づいた。


「気合い入っとんな〜」

「!チワッス」

「飛雄くん元気にしとったー?
今日がんばってな??」


軽くゲキを飛ばし毒を吐きながら本気
モードで挨拶を交わすとここからが本題
とばかりに再び表情を緩ませ質問する。


「なぁ聞きたいことあんねんけど。
あのコいったい何者なん?」

「…誰のことですか?」

「あははっとぼけんの〜?
名前ちゃんのことに決まっとるやろ」

「……」


彼女の名前を出した途端に影山は嫌そうな
顔を隠しもせず俺に鋭い視線を向けてくる。


「何で宮さんが名前先輩のこと知って
るんですか?接点はないはずですよね?」

「何や飛雄くん怖い顔して。俺があのコを
取って食うとでも思とんの?心外やわぁ〜」

「あなたならやり兼ねないです」

「えっ!?断言してもうたっ!?!?」


俺を警戒している影山に案外勘がいいなと
内心褒めながらこっちの考えを読まれない
ようにふざけた口調で話しを続ける。


「昨日コンビニで会うてなぁ。少し話して
てんけどちょっと怒らせてしもたんやわ」

「!先輩を怒らすなんて何言ったんですか。普段怒るとこなんて見たことないですよ?」

「いやぁ普通に話してた筈やねんけどなぁ」


影山が驚くように見た目からしても彼女
はあまり怒りそうな雰囲気はなく昨日は
其れ程俺の言葉が癇に障ったのだろう。

眉間にシワを寄せている影山に俺は尚も
緩い口調で悪気もなく昨日言った事を話す。


「たぶんやけど俺が今日の試合ウチが勝っ
て当然みたいな言い方したからやろな」

「…それは名前先輩じゃ
なくてもイラッとしますけど」

「すまんなぁ〜俺ウソ吐けん性格やから」


影山も苛ついてきているのが分かったが
今はこんな事を話したいのではなく彼女
のことを聞きたい為話しを戻すことにする。


「で?彼女は何者んなん?」

「名前先輩はウチのマネージャーです」

「…それで俺が納得すると思とんの?」

「納得するもしないもそれが事実ですから」

「キミ可愛いないなぁー」


その後も粘ってはみるものの影山は口を
割ることはなく時間もないので仕方なく
自分のチームへと戻って行った。


「その顔を見る限り収穫ナシかい。
使えんやっちゃなぁ」

「喧しいわっ!せやったらお前が行けやっ」

「俺は烏野に知り合いは居らん」

「開き直んなっ」


三度始まる兄弟の言い争いに先輩たちは
もう見て見ぬ振りを貫き最終的には監督
からの雷が落ちてその場の収集がついた。






「おーいっ名前ちゃーん」


ユニフォームに着替えメインアリーナへ
移動していると彼女がまだベンチに残って
いてチャンスだとばかりに声を掛けた。


「…おはようございます宮さん。
私名前教えた記憶はないんですけど」

「相変わらず冷たいなぁ〜昨日もうひとり
のマネちゃんが名前呼んでたやんか。
そないなことよりキミには驚かされたわ」

「…私が何かしました?」


俺の言葉に訝しげな表情を浮かべる彼女
が面白く先程の質問を本人にしてみよう
と口を開いたのと同時に邪魔が入った。


「侑。抜けがけすんなや。
名前ちゃんおはようさん」

「…おはようございます宮治さん」

「そない堅苦しい呼び方せんでも治で
ええのに。敬語とかいらんねんで?」

「おいジャマすんなや。せっかくさっき
のこと本人に聞こう思とったのに」


俺の肩に腕を回し凭れ掛かるように彼女に
話し掛ける治は正直言って鬱陶しい。


「さっきのことって…?」

「キミのバレーの知識と技術はどれぐらい
のモンなん?ただのマネやなさそうやし」

「?私はただ普通のマネージャーですよ。
選手でバレーしてたのも中学までですし」

「そういう意味やなくて。何でコーチみた
いなことしてるんやって聞きたいねんけど」

「何でって言われても成り行きというか…
気づいた時にはもうこういうスタンス
になってたので私たちには普通ですけど?」

「自覚ないんかい。烏野は飛雄くんが居る
からここまで来れたんやと思っとったけど
これはえぇ意味で誤算やったなぁ」

「?」


質問の意図が分かっていないようで疑問の
表情を見せている彼女にこれ以上は話しが
進まないだろうと思い話題を変える。


「昨日のことも含めて俺らキミにめっちゃ
興味湧いてん。今日の試合でウチが勝った
ら連絡先教えてくれへん?」

「…は?急に何言って…」

「昨日あんだけ啖呵切ってたんやから
勿論勝つ自信あんねやろ?それやったら
これぐらいの条件簡単に呑めるわなぁ」

「それとこれとは話しが別でしょう!?」

「それとも何?やっぱりウチに勝つんは
ムリやって考え直してくれたん?」

「そんなわけないじゃないですかっ!」


俺からの急な提案に彼女は動揺を隠せない
様子で困っている顔も可愛いらしく彼女の
色んな表情を見てみたいなと思いながら
上手く話しを丸め込もうと頭を回す。


「せやったらもし俺らが万が一にも…いや
億が一、ちゃうな、兆…待てよ、京…」

「そこはどうでもえぇから
早よ話し進めんかい」

「俺らがもし負けることでもあればキミに
昨日言ったことちゃんと取り消して謝罪
するっていうのはどうや?…あぁ何なら
土下座もオプションで付けたんで?」

「それえぇやん。名前ちゃんは昨日の
俺らの言い方が気に入らんかったんやろ?
せやけど俺らかてキミから言われたことに
カチンときたことは事実やねんから賭けの
条件には合うんやないか?」

「それに俺らは謝れ言うてんちゃうやん。
ただキミと仲良くなりたいだけやし別に
付き合うてくれ言よんとちゃうねんで?」

「まぁそれはもうちょい仲良く
なってから言うとしてやな」

「結局言うんかいっ。そのつもりやけど!」

「じゃあ何で突っ込んだんや」


俺たちがふざけてる間彼女は悩んだ様子を
見せていたが整理が出来たのか俯いていた顔を上げると意を決した表情で見つめてくる。


「わかりました…その条件呑みます。
でも私たちが勝てば昨日言ったこと
ちゃんと謝って貰いますから」

「交渉成立やな。ほなウチが勝ったら名前
ちゃんの連絡先ちゃんと教えてや?」

「烏野に勝ったらですよね」

「やっぱその強気な顔見てるとゾクゾク
するわ。俄然ヤル気出てきたな」

「あと何時間かしたら泣き顔も拝める
ことやし楽しみが増えてえぇことや」

「後で泣きをみるのはどっちでしょうね。
それじゃあ試合後にまた会いしましょう」


最後に鋭い視線を向けてくる彼女に俺たち
は余裕の表情で対応すると彼女はその場を
離れて行った。


「あのコほんまにえぇ顔すんなぁ。俺
侑 居らんかったら襲っとったで」

「恐ろしいこと真顔で言うなや。まぁ
治の気持ちも分からんでもないけど」

「素直やないな。お前ずっと
あのコの身体ばっかり見てたやろ」

「見てへんわっ。いや、見てたか」

「見てたんかい」


俺たちと彼女の間で取り交わした賭けが
モチベーションとなり今日のゲームは最高
のパフォーマンスが出来る自信がある。

俺たち兄弟が揃っていてどのチームにも
負けるはずはないと自負しており今大会
こそはウチが必ず頂点をいただく。


「これで彼女も出来たら最高や」

「言うとくけどあのコは絶対譲らんからな」

「はぁ?俺のモンに決まっとるやろ」

「ふざけんなや。お前にはド派手な化粧
した喧しいねーちゃんの方が合うてんで」

「アホ言うな。せやったらお前はもっと
インテリで根暗な女の方がええんとちゃう
んか。あのコなんか釣り合わへんやろ」

「…お前ケンカ売っとんのか?」

「何ややるんか?俺は何時でも…」


言い争いがヒートアップしそうになった
瞬間隣に数人の気配がして揃ってそちらに
顔を向けると般若のような顔をした先輩
たちが立っていて思わず背筋が凍った。


『それ以上続けるんやったらその
ケンカ俺らが買うたるで…?』

「「…スンマセン」」


その後は先輩たちの監視下で大人しく
前の試合が終わるのを眺めていたが

試合後の彼女争奪戦にも熱が
入るのは確実な俺たちだった。



end





あとがき


なんか書いてて楽しくなりました。侑くん
は間違いなく駆け引き上手ですよね。
唯我独尊な侑くんを治くんは一歩退いて
見ているような関係に見えるのは私だけ
でしょうか?2人の今後の活躍に期待
しております(笑)

ここまでお付き合いいただき
ありがとうございました☆




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あきゅろす。
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