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HQ(long)@
startle


side及川




梟谷との練習試合前
予期せぬ事態が起こった。


『おはようございますっ
よろしくお願いします!』


体育館入り口から元気よく
挨拶した女の子。

反射的に体を向けた俺はその子の
顔を見るなり驚愕に固まった。


「おい及川!あれって…」


近くにいた岩ちゃんが慌てた様子で
オレに声を掛けてくる。


「…名前ちゃん…?」







中学のとき。

男バレと女バレは隣同士で練習をして
いた為自然に隣のコートが目に入る。

中でもまだ一年だったにも関わらず
彼女は一際目を惹いた存在だった。

スパイクのジャンプ力、キレ、スピード
レシーブの読み、確実性
タッチの柔らかさ。

どれをとっても群を抜いていて女バレも
まずますの実力を誇るだけに彼女の加入で
一気にレベルが上がる事は確実だった。



きっかけは自主練中に俺が
声を掛けたところから。


「名字ちゃん。よかったら俺のトス打っ
てくれない?今日アタッカーいなくてさ」

「及川先輩!?いいんですか私で」


驚いた表情の彼女は躊躇していたが
心なしか打ちたそうにソワソワ
しているようにも見える。

「一度君にトス上げてみたかったんだ。
こんな時じゃないと上げられないし
お互いの練習にもなるでしょ?」

「…じゃあお願いします!」


嬉々として男子のコートへやってきて
一緒にスパイク練習を行った。

ネットが女子よりも高いはずなのに
お構いなくコートへ打ち込んでいる。

それよりもなんて楽しそうに
スパイクを打つんだろう。

上げている俺の方もつられて楽しくなって
くるしもっと気持ちよく打たせてあげたい。


彼女に魅せられた瞬間だった。


「ありがとうございました!及川先輩の
トス丁寧ですごく打ちやすかったです!!」

「こちらこそ。あれだけキレイに振り抜い
てくれたらセッター冥利に尽きるよね〜。
またお願いしてもいいかな名前ちゃん。
俺の事は及川じゃなくて徹って呼んで?」

「えっと…徹先輩?
またよろしくお願いします!」


その後は人が少ない自主練の時に
彼女に声を掛け一緒に行い
日に日に交流を持つようになり
仲も深まっていった。

なぜか岩ちゃんも名前ちゃんと
仲良くなっておりイラっとしたのだが。


俺たちは引退した後も練習に参加して
いた為彼女との交流は途絶えないまま
卒業の日を迎えた。


「徹先輩、岩泉先輩。
卒業おめでとうございます」


いつもの笑顔に少し寂しそうな表情を
滲ませ晴れの門出を祝ってくれる彼女。


「ありがとう。名前ちゃんと会えなく
なるのは寂しくなるけど来年必ず俺を追
いかけておいで。待ってるから」

「俺たちだろうがクソ川!!」

「痛いから蹴らないで岩ちゃん!!」


せっかくいい雰囲気を作ろうとしてた
のに岩ちゃんに台無しにされたが
彼女が笑ってくれたからまぁ良しとしよう。


「はい!必ず先輩達を追いかけて行きますね!!それまで待っていて下さい!」


決意を込めた彼女に俺たちも満足した
笑みを浮かべ学び舎を巣立った。


高校へ進学してからも連絡はとっており
俺たちの関係は切れることはなかった。

しかし誰からか彼女が総体の予選で
負けたことを知り連絡を入れたのだが
彼女から返信が返ってこない。

その日以降も連絡しても返事は来ず
彼女との連絡は途絶えてしまった。


二年に進級した春。

女子バレー部に彼女の姿はなかった。





1年後。

高校総体の予選会場で
彼女の姿を見た時は驚いた。

烏野の黒ジャージを纏い
しかもマネージャーをしていたから。


考えると同時に俺の体は動いており
彼女を呼び止めていた。


「名前ちゃん!」


呼ばれた当人はこちらを振り向くと
驚いた表情を見せる。


「徹先輩?」


周りの選手達も俺が現れた事に驚き
騒めいている。

それと同時に俺の後を追いかけてきた
岩ちゃんがようやく追いついた。


「おい及川!お前どうした…って…名前…?」

「岩泉先輩」


岩ちゃんも名前ちゃんの姿を
見ると同時に固まってしまった。

其れもそのはず。

まさかこんな所で会うなんて
思っていなかっただろうから。


「…ちょっと一緒にいい?名前ちゃん」


周りの目も気になった為有無を言わせぬ
目を向け一緒に来てもらうよう尋ねると周
りの選手達に了承を得て付いてきてくれた。


「久しぶりだね〜。何してるのかな?
真っ黒なジャージを着てこんなところで」


人気の無い体育館の角で怒っている
ことを隠しもせず黒い笑みを
浮かべた俺は彼女に問い詰めた。


「えっと…烏野のマネージャー
…して…マス…」


彼女は気まずいのか
目線を外しながら言葉を発するも
最後の方はほとんど聞き取れない。

俺が苛々しているのを感じ取ってか
岩ちゃんがため息を吐くと間に入った。


「お前なぁそんな顔で問い詰めたら名前も話し辛いだろうが。
…話せる事だけでも構わないから
何があったか話せるか?」


岩ちゃんの言葉に安心したのかホッとした
表情に変わり意を決したように話しだした。

何か気に食わないんだけど…。


それから彼女は掻い摘んで話してくれた。

ケガをしたこと。

一度バレーから離れたこと。

そしてもう一度バレーと向き合ったこと。

話しを聞き終わった頃にはもう俺の苛々は
無くなっており彼女が当時どれほど大変
だったか痛感させられた。

しかしだ。


「だからって及川さんのLINEスルーとか
止めてくれる?それなら助けて!
って言って欲しかったんだけど〜」


少しふざけ半分で言ってみると彼女は
シュンとしてまた下を向いてしまった。


(あっ。この表情かわいい)

「…すいませんでした…」

「今回は許してあげるけど。
次やったら家まで押しかけるからね」


冗談ではない笑みを浮かべた俺に
彼女の口元は引きつっている。

やばいなぁ。

こういう顔クセになってくる。


「まぁあれだ。このバカは置いておいて
何かあったら頼って来いよ。
もちろん試合は負ける気ないからな!」

「はい!ありがとうございます!
ウチも負けませんから!!!」


岩ちゃんの言葉で笑顔になった彼女は
挨拶してチームへと戻って行った。

何か腑に落ちない。


「ねぇ。結局岩ちゃんがおいしい
トコ持って行ってない〜?」

「名前をイジメるからだろうが。あれだ
な。お前好きな子苛めたくなるタイプだろ」


岩ちゃんに言われて気が付いた。

ああ。俺は名前ちゃんの事が好きなんだ。

だから連絡が無くて腹が立ったし
岩ちゃんに笑い掛ける姿見ると苛々する。

名前ちゃんの色んな顔が
もっと見たいとも思った。

な〜んだ。納得。

不気味に笑い出した俺に岩ちゃんが気持ち
悪いと蹴りが飛んできたのはご愛嬌。

そうと分かればどんどん攻めますか。






と、まぁつい先日決意したところ
だったのに…

あの光景はなんだ?

梟谷のベンチへ入り選手のうちの1人と
明らかにそういう雰囲気を醸し出している。

あの子は俺が目を付けていたのに。

2人がどんな仲だろうが関係ない。

他の男のモノになるなんて絶対に許さない。


「さぁて。どうしてやろうか…」


一点を見つめどす黒い笑みを浮かべていた
俺に周りのチームメイトはそっと離れ
岩ちゃんでさえも危険を感じ取り
冷や汗を流していた。


俺のモノになるまで絶対に諦めないから
覚悟しておいてね名前ちゃん。



end



あとがき

長くなりました…。

私の中の及川さんは真っ黒で策士で
あってほしい。そして及川さんの暴走を
岩泉さんに止めてほしい…
そんな関係の2人が好きです!!

ここまで読んで頂きありがとうござい
ました。次回もご覧くださいませ☆

startle=驚愕


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