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HQ(short)
fireworks (夜久)


夏休みに入り受験生である私は今日も暑さに
負けず昼までの補習を無事に耐え抜いた。

お腹も空き帰り支度も終わったので席を立
とうとしたその時頭上から声を掛けられた。


「名字ー。今日の夜とかヒマ?」

「今日の夜?特に用事もないけど…
やっくんどうかしたの?」


クラスメイトの夜久君から今日の予定を
聞かれ素直に何もないと答えると
満面の笑みを向けられドキリとした。


「花火大会一緒に行かねーか?」

「えっ!?」


今日が花火大会だということも
忘れていたのだが
それよりも夜久君が私を誘ってくれた
事に驚きを隠せなかった。


「そんなに驚くことねーだろ。
やっぱ俺と2人はイヤか?」

「イヤなわけないよ!寧ろ嬉しい!!
しかも私花火大会がある事忘れてたし!」

「何だそれ?名字らしいな」

「それはどういう意味なのかな?」


一年の時から同じクラスで話しをするようになり困った時は必ず助けてくれる夜久君に
私は次第に恋心を抱くようになった。

本人には絶対秘密だけどそんな夜久君から
花火大会に誘われて嬉しくない筈がない。


「じゃあ19時に公園の自販機前集合な!」

「わかった!やっくん部活頑張ってね!」

「おう!行ってくる!」


元気良く教室から出て行った夜久君を
見送ると私も今度こそ席を立った。


「あらあら見せつけてくれるねー。
顔がにやけてるぜ名前ちゃん?」


からかうように声を掛けてきたのは
クラスメイトであり夜久君と同じバレー部でキャプテンをしている黒尾だった。


「黒尾うるさい。別ににやけてないから」

「夜久に花火大会誘われて喜んでたくせに。
さっさと2人くっ付けばいいじゃねぇか」

「私たちそんなんじゃ…」

「グズグズしてると夜っ久ん男前だから
他の子に盗られちまうぞ〜?」

「っつ!?うるさいな!!
早く部活行きなさいよバカ!!」


黒尾の言い方に腹が立ち乱暴に
荷物を掴むと入り口へ足を向ける。
後ろから黒尾の声が聞こえたが
一切無視し足早に教室を後にした。

言われなくても夜久君が女子から人気が
あることなんて一年の時から知っている。

バレーが大好きで真剣に練習している姿は
誰が見てもカッコ良く
それに加え時折見せる満面の笑顔は
子供のように純真無垢でかわいらしい。

そのギャップに惹かれている女の子は
校内にもたくさんいるだろう。

私みたいな平凡なコがそんな夜久君に
好いてもらおうなんて思ってもいないが
夜久君から私に声を掛けてくれたの
だから少しだけ期待しても
バチは当たらないだろう。

黒尾のせいで気分は一気に下降したが
夜の花火大会に向け気持ちを切り替えよう
と気合いを入れ帰路についた。




side夜久



「今日は花火大会だというのになんで俺には
女子から声がかからないんだーー!!!」

『山本(虎)うるせぇ(うるさい)!』


昼食を食べ終えいつもの如く部室で
騒いでいた山本を黙らせると
午後からの練習に向け着替えをする。


「だって黒尾さん!クラスのヤツらは
彼女とか女友達とかと一緒に行くって
自慢してきたんすよ!?」

「だったらお前も女子に声掛ければいい
じゃねーか。誰か行ってくれるかもよ?」

「……声なんて掛けれません……」

「じゃあ一生無理なんじゃない?」

「なんだと研磨!?」


懲りずに話し続ける山本の話しを耳に入れながらもひとり淡々と着替えていたら黒尾が
余計な事を口にし俺にとばっちりが来る。


「そう言えば夜久は名字と一緒に
花火大会に行くんだよなぁ」

『えぇーー!?!?
夜久さん彼女いたんですか!?!?』

「黒尾聞いてたのかよ。
てか名字は彼女じゃねぇから」

「彼女じゃないんすか!?だけど
女子と2人で観に行くんでしょう!?」

「えー?夜久さん彼女でもない人と
2人っきりで観に行くんですかー?」

「お前らうるせぇな!」


虎とリエーフが絡んできた為2人を一掃
すると今度は黒尾が俺に話しを振ってくる。


「時間の問題じゃねーか。
あんまり名字をフリーにしとくと
横からかっ攫われるぜ?俺とかにな」

「…あ"?」


ニヤりと俺を横目で見てくる黒尾の
発言に反応し眉間に皺が寄る。

黒尾がよく名字にちょっかいを
掛けているのはクラスでもよく見ていて
その度にイラっとして
2人の間に割って入っていた。

冗談なのか本気なのか全く読めない黒尾の表情を見ていると若干焦っている自分がいて
部活が始まっても黒尾の言葉が頭から離れず
珍しくミスが出るほど集中出来なかった。




* * *



19時5分前。
自販機横の壁にもたれ掛かり携帯を
眺めている人物へと声を掛けた。


「やっくんお待たせ!」

「ん?…っ!?!?」

「あ…花火大会だから着せてもらったん
だけど…やっぱり似合わないかな」


せっかく夜久君と花火大会に行くのに
少しでもキレイに見せたくてお母さんに
浴衣を着せてもらった。

しかし私の姿を見て固まった夜久君を見て
やっぱり私服にするんだったと後悔していると思わぬ言葉をかけられた。


「そうじゃなくて…あーもう!
似合ってるから見とれてたんだよ!」

「えっ!?」


照れながら浴衣姿を褒めてくれた夜久君の
顔が真っ赤になっていて私に
見られたくないのか顔を背けてしまった。

夜久君に浴衣姿が似合ってると言われ
私も嬉しくて顔が真っ赤に
なっているのが分かる。

お互いに照れて会話もないまま少し時間が
経つとようやく落ち着いた夜久君が
再び私へと振り返った。


「…じゃあ行くか!」

「うん!」


会場に向けようやく歩き出した私たち。

慣れない浴衣と下駄を履いている為どうしても歩行がゆっくりになってしまうのだが
夜久君は自然に歩調を合わせてくれている。

こういうさり気ない優しさに
私はどんどん惹かれていってしまう。


「すごい人混みだな」

「出店もいっぱいだねー」


打ち上げ前にも関わらず会場は
人で溢れ賑わいを見せている。


「やっくんお腹すいたでしょ。
先に出店回って何か買う?」

「そうだな。ゆっくり花火見ながら食うか。
名字は何食いたい?」

「私かき氷食べたい!」


人を避けながら目的の出店まで向かっている途中に他の出店へ意識を逸らした瞬間
目の前の人にぶつかりそうになった。


「あぶね!」

「きゃっ!?」


咄嗟に夜久君が腕を引っ張ってくれて
何とか避けることが出来たのだが
掴まれている腕にドキドキしてしまう。


「ありがとうやっくん!」

「フラフラしてたら危ねぇぞ?
しっかり俺の手掴んどけよ」

「っ!…うん」


掴んでいた腕を離すと今度は手をしっかりと
握られ急な展開について行けず私の心臓は
飛び出しそうなくらいドキドキしていた。

繋がれた手はそのままに出店を回り終え
会場から少し離れた見晴らしの良い
場所へと腰を下ろした。


「ここなら人も少ないしゆっくり
花火が見えるだろ」

「こんな良い場所よく知ってたね!」

「ランニングしてる時にたまたまな」


話しをしていると花火も打ち上がり始め
キレイな大輪の花を2人で眺めながら
このひと時を満喫した。


「なぁ名字…」

「ん?」


花火も終わりにさしかかった頃不意に
夜久君から声を掛けられ反射的に振り向くと
真剣な顔で私を見つめている。

彼の目に吸い込まれそうな感覚になり
視線を逸らすことが出来ない。


「今好きなヤツとかいないなら
…俺と付き合ってくれねぇか?」

「えっ…?」


一瞬何を言われたのか分からなかった。

だってずっと好きだった夜久君から告白
されるなんて夢にも思っていなかったから。


「…好きなヤツ…いるのか?」


返事を待っている夜久君の表情は少し不安
そうで私は慌てて口を開いた。


「好きな人いるよ。…一年の時からずっと
……やっくんが好きだったの」

「えっ!」


今度は夜久君が驚きの表情を浮かべ
私が夜久君を好きだったとは
思っていなかったようだ。


「私をやっくんの彼女にして下さい」

「苗字じゃなくて名前で呼んで名前」

「っっ…!?!?」


優しい笑顔で見つめてくる夜久君に
名前で呼ばれた嬉しさと名前を呼んでと
懇願されたことで顔が真っ赤になる。


「名前?」

「…も……衛輔くん…」

「っ…やべぇ。言われたら何か照れるな」

「言えって言ったんじゃない」


顔を真っ赤にして少し拗ねた様な顔をすると
夜久君…もとい衛輔君は苦笑いしていた。


「だって嬉しくてさ。俺も一年の頃から
ずっと好きだったんだぜ?名前のこと」

「そうなの?」

「俺女子と話すこと殆どないからな。
名前だけはずっと特別だったんだ」


衛輔君に特別だと言って貰えることに
幸せを噛み締めていた。

花火も最後の一発が上がり
その余韻に少し浸ってから帰路に着く。

その間2人の手はしっかりと握られていた。





オマケ



「名前おはよー」

「おはよう衛輔君」


次の日の学校ではごく自然に名前で呼び合い
話していると黒尾が会話に入ってきた。


「なにお二人さん。昨日の花火大会で
くっ付いちゃったわけなの?」

「おかげさまでな」

「幸せそうな顔しちゃって。
あー朝から余計に暑いわ」


嫌味を言いながら手を団扇のように動かしている黒尾に今度は衛輔君が反撃する。


「羨ましいならお前も彼女つくればいい
じゃねぇか。黙ってればモテるんだし」

「はぁ!?つか黙ってればは余計だろ!」


いつもの事だが仲が良いのか悪いのか始業のチャイムが鳴るまで2人の言い争いは続き
私は苦笑を浮かべながら眺めていた。


「「なぁどう思う名前(名字)!?!?」」

「…えっ」



end


あとがき


花火大会の時期なので
やっ君で甘い恋愛模様を書いてみました。
クロの立ち位置が気になります(笑)

ここまでご覧頂きありがとうございました。
次回もお付き合いくださいませ☆

fireworks=花火大会


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