ゆきのはなし キャラをつくる 「今日からココがお前の家だ、ちょっと汚いが入れ」 「・・・・・・(ちょっと?)」 「セツナ・・・これはちょっととは言わないと思うが・・・」 全く手入れされていない家はゴミ屋敷寸前と言っても過言ではない荒れようだった。 「うるさい!大体お前は態々私の家に居座る事ないだろ!?家は借りろ!」 「共に生活しなければ新奈のデータが取れんだろ」 そう、ヴェルデの興味とボンゴレの要望が合致した為、セツナの屋敷に住まう事になったのだが・・・ 「コレでは機材を入れられん・・・セツナ、即行で片づけホコリの立たない部屋を用意しろ」 「フッ・・・ヴェルデ、私に家事が出来るとでも思っているのか?」 鼻で笑うセツナにヴェルデは嘆息する。 「お前はそれでも女か」 「〜〜〜うるさい!だったらお前が掃除しろヴェルデ!!」 「・・・しかたない業者を呼ぶぞ」 「わぁ!馬鹿者!暗器の類や罠がたっぷりある屋敷だぞ!!」 「あの・・・」 「「ん?」」 携帯を手にしたヴェルデを必死に止めるセツナを見兼ね、新奈が声を掛けると二人は同時に振り返る。 「私が掃除してもよろしいでしょうか?」 「新奈お前は生まれたばかりの赤ん坊のようなものだ、此処は専門業者に――・・・」 「だからその業者はダメだと――・・・」 「(赤ん坊に言われた・・・)知識としてはありますので、やらせてください」 セツナの許可を取ると新奈は長い髪を縛り足の踏み場も無いその屋敷に手を入れ袋の中身を確認すると次々とゴミを外へと放り出す。 「「!!?」」 「必要な物が有れば取ってください、後は処分します」 外に出した物を分別しては次のゴミを出しを繰り返す。 「まぁ、ゴミが有っては掃除もできんしな・・・」 「ゴミを回収する業者を呼んでくれヴェルデ、家の周りがゴミだらけになる・・・」 「あぁ」 次々と家から出てくるゴミを眺めながらヴェルデは回収業者を呼んだ。 ――― ―― ― いつの間にか背中合わせに眠っていた二人の鼻提灯が同時に割れ目を覚ますと積まれたゴミは綺麗に無くなっていた。 「もう朝か・・・」 「ゴミは片付いたのか・・・」 目を擦りながら立ち上がり屋敷の玄関を覗き込むと、昨日とは見違えていた。 「ゆ、床が見える!しかも綺麗に磨かれている!?」 「いや、それが普通だと思うが・・・」 「あ!ヴェルデ、靴は脱げよ!」 「あぁ・・・日本家屋は土足厳禁だったね」 部屋を覗いては感動の声を上げるセツナに続き歩いていると物音が聞こえ其方に意識を向けるヴェルデ。 「おい、セツナ」 「あぁ、しかしこの家に気配は私達とあの娘だけだ、案ずるな」 「トラップに引っかかっていたら」 「それならそれで鍛えるまでだ、しかし腹が減った・・・」 「お前な・・・曲がりなりにも弟子として預かったのだからちゃんと面倒を見ろ」 「はいはい」 音の方へと足を進め、覗き込むと音源は台所からだった。 「新奈」 「!、おはようございます」 家には不釣り合いなほど近代的な台所にセツナは固まる。 「古い木造建築のわりに近代的な作りのキッチンだね」 「昨夜遅くにボンゴレの方が設置してくださいました、ヴェルデさんの研究室も造ってくださって」 「一晩でか・・・さすがボンゴレ」 「お腹は空いていませんか?朝食を作ったのですが・・・」 「ありがたいね、頂こう、コーヒーが有れば欲しいな」 「はい、直ぐお持ちします・・・あの、セツナさん?」 何事も無く会話を交わすヴェルデと新奈を呆然と眺めていたセツナは我に返る。 「・・・・・・・・・」 「あの?」 「キミの圧倒的女子力に声も出ないようだ」 「・・・――さい」 「え?」 「それだけ家事がこなせるなら先に言いなさい!」 「へ?」 固まっていたセツナが急に大声を上げた為二人は目を瞬かせる。 「何これ!?ゴミ屋敷を浄化してさらに手作りのご飯だと!!」 「え?」 「・・・」 「一晩のうちにボンゴレに設備を整えさせる手際の良さ・・・」 「いや、私は頼んだだけで・・・」 「ソコに頭が回るだけ偉いよ新奈」 「私でさえ存在を忘れていたエプロンを着けての給仕・・・」 「「?」」 肩を震わせていたセツナは目を光らせ新奈を睨む。 「改めて見ると、カワイイ」 「っ!?」 「私の弟子になるならまずは形からだ!」 手を掴まれ赤ん坊にあるまじき力で奥の部屋へと連れて行かれる新奈を見送ったヴェルデは、彼女の用意した湯気の立つ食事に一足先に手を付け二人を待ちつつ料理に舌鼓を打つ。 「うん、コレをしばらく食べられるなら悪くない」 一方、新奈の連れて来られた部屋は衣裳部屋だった。 「(一応ココも掃除したけど、服以外目立った所は特に・・・)」 「新奈」 「は、はい!なんでしょうセツナさん」 「それ!」 「え?」 「まず、私の事は師匠‐せんせい‐と呼びなさい!」 「(呼び方か・・・)はい、師匠」 「言葉遣いは丁寧だし、まぁイイ」 「(緊張しての丁寧語だったんだけど、その方がイイんだ・・・)」 「リボーンとボンゴレ九代目の算段は読めている」 「算段、ですか?」 「恐らく将来的にお前をボンゴレに引き抜く心算だ」 「何か問題があるのですか?」 「問題はお前が雪の属性だという事」 「雪?(また、ゆき・・・)」 「まぁ、とある力と思え」 「(コクッ)」 「現在、雲・霧・嵐・雨・晴・雷・雪、そして大空と呼ばれる力が確認されている」 「(また一つ、私の居た世界と違う所が・・・)」 「この話をすると長くなるから、追々説明する」 腕を組み姿勢よく新奈と対峙するセツナ。 「現在ボンゴレは後継者でかなり揉めてるらしい、十代目の者が決まったらソイツの守護者にとお前に目を付けてるのだろう」 「(守護者?私が、この世界の私の?)」 「だからこそ、お前の活かせるスキルはとことん育てる!」 新奈を指さし、即座に大量の服の中から一着の服を取り出し其れを投げつけられ新奈はとっさに掴む。 「私は忍びだ!基本忍びは形から!」 「・・・メイド服?」 「給仕をする際はその恰好必須!使える相手にはちゃんと“様”と敬称も忘れるな!」 「え・・・?」 「分かったら返事だ!」 「・・・はい」 「なら着替える!」 不本意ながら新奈は投げ渡された其れに袖を通す。 「潜入したりするから何でもできなければならない」 「・・・・・・」 「無論、忍びとしての技術も徹底的に叩き込むが、雪たる者、主人の為に動かねば始まらない」 「・・・(ロングでよかった)」 「うむ!やはり正統派ロングにガーターベルトは正義だな!」 新奈のメイド姿に満足したのか満面の笑みで頷くセツナに不安を禁じ得ない新奈であった。 ――― ―― ― 新奈がセツナ達と住を共にして一年が経った頃。 「ちゃおっス、遊びに来てやったぞ」 「リボーン、何をしに来た、見ての通り修行中だ」 「挨拶に来たんだぞ、しばらく来れないからな」 「・・・新奈今日は終いだ、茶を、コイツにもな」 不本意だと前面に押し出すセツナに特に何も言わず首肯し其の場から消える新奈。 「もう一端の忍びだな」 「この一年で恐ろしいまでに成長した、流石は兵器として生み出されただけあってかなりの戦闘力だ・・・」 「そうか、ナノマシーンも使いこなしてるか?」 「ソレに関しては私よりヴェルデに聞け」 修練場から日本家屋の中へと足を踏み入れセツナに促され居間へと入ると其処にはヴェルデがコーヒー片手に寛いでいた。 「イイ身分だな研究はどうしたヴェルデ」 「戻って早々突っかかるなセツナ、新奈がリボーンが来たと呼びに来たから顔を出しただけだ」 「ちゃおっス元気そうだなヴェルデ」 「やぁ、リボーン」 セツナ達のサイズに合わせた椅子に腰かけ顔を突き合わせたと同時に茶を片手に居間に入る新奈、其の姿にリボーンは目を瞬かせた。 「どうぞ師匠」 「うむ」 「新奈、おかわり」 「かしこまりました・・・はい、リボーン様はエスプレッソでよろしかったでしょうか?」 「・・・・・・」 「リボーン様?」 リボーンの前にカップ置くが反応が返って来ず首を傾げるもヴェルデに促されカップにコーヒーを注ぐ新奈。 「誰の趣味だ」 「「「?」」」 「ニーナの恰好だ」 「趣味ではない、給仕の際はこういった格好が主流だろう?」 「違和感無く着こなしているから忘れていたが、セツナがさせている、とだけ言っておこう」 「てめーかセツナ」 「男はみんな好きだろう?私には似合わないから新奈に着せている」 「(あの異常な衣装へのこだわりはソレか・・・)」 リボーンの指摘に新奈は自分の衣装に対する師の拘りの要因を見た。 「まぁ、イイ・・・嫌いじゃねェしな」 「(よくコスプレしてたもんなぁ、リボーン)」 「で?態々挨拶とはどういうつもりだリボーン」 「ん?研究成果を聞きに来たワケではないのか?」 「どっちもちげーぞ、オレは此れからジャッポーネで家庭教師をする事になったからな」 「「!」」 リボーンの真意を正確に汲み取った二人は自身の手にあるカップに視線を落とす。 「い、嫌だぁぁああ!」 「師匠?」 セツナは勢いよく新奈に飛びつく。 「こんな良くデキた弟子を他所にやりたくない!」 「私も新奈の食事が無くなるのはちょっと辛いな・・・」 「お前ら自分の仕事ちゃんとしてたんだろーな」 明らかに仕事外の心配をしている二人にリボーンは眉を寄せる。 「だってこの子が来てから家は常に清潔だし、食事も風呂も何もしなくても出来てるし・・・居なくなったら」 「この干物女が」 弟子が居なくなった生活を案じる女にリボーンの目は冷たい。 「まさかヴェルデ、お前も・・・」 「まぁ、寝食の世話はもちろん細やかな気遣いの出来るうえ私の研究に多大な貢献をしてくれる頭脳・・・ちょっと惜しいな」 「前半はアレだが後半は干物女と比べてマシな意見だ」 未だ駄々を捏ねるセツナに困り果てた新奈はリボーンに視線を向ける。 「あの、リボーン様・・・」 「ん?」 「状況がよく分からないのですが・・・」 「あぁ、ボンゴレ内の事でコイツらが情報通なだけだからな、お前が知らなくても不思議は無ェ」 「?」 「ボンゴレの後継者が相次いで死んでしまってね」 「ジャッポーネに初代ボンゴレの血縁者一人を残すのみになったらしい」 「え?(それって、この世界の私・・・)」 ヴェルデとセツナの言葉に新奈は目を瞠る。 「セツナから話は聞いてるな?」 「はい」 「まぁ、こんな状況でお前を引っ張っていく訳にはいかねーから、必要になったらジャッポーネに呼ぶ・・・おい、セツナその時は止めんなよ」 「うぅぅ・・・」 否定するように睨むがリボーンは気にせずエスプレッソに口を付ける。 「うめーな」 「ありがとうございます」 「そうだニーナ、オレの事はリボーン先生と呼べ」 「え?」 「お前がボンゴレ十代目の所に来たらオレはオメーの家庭教師にもなる、な?」 「・・・はい!」 笑い合うリボーンと新奈に面白くないとセツナは新奈の手から降りる。 「所でリボーン、ボンゴレ十代目はどんな奴なんだ?」 「そーとうにダメな奴らしい」 「ほぉ?」 「駄目、ですか?」 セツナの問いに答えたリボーンの言葉にヴェルデと新奈は首を傾げる。 「ディーノ二号ってトコだな」 「キミの生徒のキャバッローネ十代目か?」 「初代ボンゴレの血縁だろ?そんなに酷いのか?」 「(興味ある、ディーノさんみたいな私)」 「写真があるぞ、沢田綱吉っつーんだ」 懐から一枚の写真を取り出しテーブルの上を滑らせ全員の見える位置に置く。 「締りの無い顔だ」 「頭が悪そうだ」 「(男の子なんだ・・・)」 「ダメそうだろ?」 リボーンの言葉に首肯する二人に新奈は苦笑した。 「まぁオレが家庭教師になるんだニーナを呼ぶ頃にはもう少しマシにしてやる」 「はい、私も綱吉様にお逢い出来るのを楽しみに待っています」 「いい子だ・・・お前らはもう少しニーナ離れしてろよ」 「「・・・」」 新奈が日本に呼ばれるのは其の一年と少し経った頃、まだ少し暑さの残る秋の始まりだった。 [*前へ][次へ#] |