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写真‐追憶の手紙‐-3

「そう肩を落とさないで下さい」

 困ったように笑いシルバはリリスの肩にそっと手を置いた。

「グレイがルナルの森に向かっている間、セレーナとルナルの森周辺では雨が二日間降り続いていました。ですからきっと、その雨の所為で地盤が緩くなっていたんでしょうね。それに付け加えて例年にみない程の薬草の量と質の良さです。例え二メートルの高さとは言え、急な事で受け身が取れなかったのでしょうね」

「……そうなんだ。だったら、良いや」ひとまず納得したのかリリスは表情を和らげた。

「けどさ、よくお母さんは見つけたよね。お父さんの事」

「それはですね。後で貴方の母親から訊いた話になるのですが、木々の騒め気が聞こえてきたそうです」

「木々の騒めき?」

 リリスが訊ねると、シルバは静かに頷いた。

「何故だかその声が気になり、その声を便りに向かってみたら。グレイが倒れていたそうです」

「へぇ〜。でもでも、二メートルの崖から落ちただけの事じゃないの?」

 そんな木々が騒つく程大げさな事かなぁ。と、リリスは納得いかないようだった。

「何でも、グレイはその時『クロウ・ベア』に襲われかけていたそうです。左腕から落ち、その所為で左腕が折れ、両足は打撲。意識も朦朧としていたみたいです。更には雨も降っていたようですし……」

「……何だかお父さん。不幸が続くね」

 リリスの父を哀れむ言葉にシルバは苦笑した。

「……けれど、その不幸もあったから。貴方は今、ここに居るのではないですか?」

 これでは父の威厳がと。シルバは息子に対してのフォローをした。それにリリスは目をきょとんとする。

「……確かに」

 と、彼女はぽつりと言い小さく笑った。

「――まぁそんな理由(わけ)で、グレイは薬草と手紙を一緒に送ってきたんです。そしてそれから一ヵ月が過ぎ、二通目の手紙が届きました」

「手紙には、何て書いてあったの?」

「〈怪我の方はすっかり完治したので心配しないでください〉――と、書いてありました。それからその後の文では〈もう少しだけルナルの森に、彼女の傍に居たい〉とも、書いてありました……」




 いつの間にか明るかった空も夕日色に染まり、辺りは段々薄暗くなってきた。シルバは窓の外をじっと見つめ、

「運命はこの時すでに、大きく揺れ動いて行ったのでしょうね……」

 そう呟き話を進めた。




「傍に居たい――それは、彼女の言葉でもあったのでしょうね。二ヵ月後にグレイから来た手紙には〈彼女との間に子供が出来ました〉と、書いてありました」

「その子供って、もしかして……」

 シルバはリリスに微笑むと静かに頷いた。

「それから更に半年が過ぎ、季節は再び秋が訪れようとしていました。それから九月も終わりを告げ、暦が替わったばかりの頃。手紙は届きました」

「私、その手紙の内容分かる気がするよ。だってその時期は……」

 そうリリスが言い終る前にシルバは笑顔で答えた。

「――そう。貴方が思った通りです。手紙には、貴方が無事に産まれたと書いてありましたよ。産まれた赤ん坊は、銀色の髪に、私やグレイと同じ深いブルーの瞳をした女の子だと。名前は『リリス』と名付けました――とも」

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