青年と魔女(2)-3
「ウイニア!」
――二日前の朝、リリスは教室に入るなり私の名を呼んだ。おはようと言うでもなく、私の名を呼ぶリリスの表情は、どこか慌てているみたいだった。
「おはようリリス。朝からどうしたの?」
落ち着きないリリスを押さえ、私は静かに訊いた。するとリリスは気持ちを静めるように一呼吸した。そして、
「私、魔女に会っちゃった」
――と、先程と変わって落ち着いた表情で言った。
「……えっ」
彼女とは逆に、一瞬何の事か分からず私は間抜けな返事を返してしまった。
今日会う彼女は、一昨日と違って気持ち的にどこか余裕があるようだった。
私たちはお互いの席についた。リリスとは席が近く、私の後ろの席にはリリスの席がある。
私はリリスの方に体を向けるように、後ろ向きに腰掛けた。
「ごめん。もう一度言って」
リリスの机に両手を置き、私は真っすぐ彼女を見つめた。
「……もぅ」ちゃんと聞いてよね、と呟きリリスは口を尖らせた。
「私ね、魔女に会ったの。一昨日早退した時、噴水広場で」
――嘘、何で? やっぱり、あの噂って……。
噂を知っているだけに、リリスが言った言葉に私は何も言えないでいた。
「ウイニア?」
私の様子が変だ。と、リリスは心配して私の顔を覗き込む。
「大丈夫? 何か顔色悪いよ?」
「……ううん、何でもない。大丈夫だよ」と、私は微笑んだ。
「そう? なら良いんだけど……本当に大丈夫?」
さっきの顔、引きつっていただろうか? リリスの表情は今一つ晴れない。
「大丈夫よ」
私は再度にっこり微笑んだ。今度は自然に笑えていると良いんだけれど。
「それよりどうして魔女と?」と、私は訊いた。
それから続けて「何か話たの? 何もされなかった?」と質問の連続をした。
「えっ? ……あ、うん」私の質問攻めにリリスは驚いたのか瞳をきょとんとしていた。
「別に、何も無かったんだけどね」
「そう」私はホッと安堵の息を吐いた。
「どうしたのウイニア。やっぱり何か変だよ……?」
私が安心したのとは逆に、今度はリリスが心配して私の事をじっと見つめた。
リリスの視線が痛い。私は眼を合わせられないでいた。
――どうしよう? 噂の事を伝えるべきだろうか。
伝えるにしてもどう話そう。リリスは魔女と何も無かったと言っているし、彼女の様子は特に変わりない。
「……困った……」
私の頭の中を言葉がぐるぐる回っていた。
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