金色の青年と水の少女-8 *** 陽が傾き、道場内は茜色に染まり始めている。 場内の中央には、夕陽に照らされた影が二つ、ぽつりと残っていた。 「ヒーリング」 淡い翡翠の光と共に声が道場内に響く。 声の主は銀髪の少女。少女の目の前には、明るい茶髪をした青年が腰掛けている。 少女は青年の左脇腹に、そっと右手を添えていた。その手から淡い翡翠の光が零れる。 ――まさか、トールさんが勝つとは……。 長く続いた二人の手合せは、隙を突いたトールの一撃により勝敗が決まった。 ――これってライラさん効果だろうか? 青年の赤く腫れた脇腹を見つめ、少女は思った。 添えた右手に治癒の力を込める。翡翠の光と共に腫れは少しずつ癒えていく。 「――よし、終わり」 少女が呟くと右手の光がふっと消えた。 「痛みはない?」 続けて茶髪の青年に訊く。青年はゆっくりと顔をあげ「ああ、大丈夫だ」と言った。 弧を描き笑う唇に対し、茶髪の奥に見える銀灰色の瞳は、真っ暗で何も映していないみたいだった。 「……アルベル……」思わず少女は青年の名を呼ぶ。不安そうな瞳はじっと青年を見つめる。 アルベルは右手を少女に向かって伸ばすと、それを少女の頭にそっとのせた。 「俺もまだまだだな」アルベルが言った。 彼の表情は仕方がないとも言うように笑っている。 「治療、ありがとな」 アルベルは右手を離すと静かに立ち上がった。 彼は右手で木刀を拾い、左手をリリスの方に伸ばす。差し出された手を掴み、リリスも立ち上がる。 「帰るか」出口の方に視線を向け、アルベルが言った。 「うん」 足元にある鞄を持ち、リリスはアルベルの後を追うように歩く。 二人が道場の戸締まりを終わらせた頃、夕陽はしっかり沈んでいて、空には小さな星が輝いていた。 [*前へ][次へ#] [戻る] |