青年と魔女(2)-9
「リリスちゃんらしいと言うか、何と言うか……」
「……まったく、無謀だな」
二人の話が終わるなり、ゼノンとオトが口々にそう呟いた。
「やっぱりそう思う?」
言ってウイニアは立ち上がり、オトの肩を両手でがっしり掴んだ。
「私もね、さすがに三日目ともなると、無謀だったのかなって思うのよ」
肩で深い息を吐き、ウイニアがぼやく。
「大体、今の時間帯は人通りがもっとも多い下校時間なんだ。人目を気にして逢いに来るなんて事はないんじゃないか?」とオトが言った。
「確かにそうよね」とウイニアは首を縦に振りながら呟く。
「話す事があるんだったら、直接家に訪ねに来るんじゃないかな?」付け足すようにゼノンが言った。
リリスは三人の鋭い言葉にしゅんとして、俯き黙ってしまった。
その様子に気付いたか「――あ、ねぇ?」と、誰に問うでもなくウイニアが言った。彼女は話を反らそうと、慌てて二人に視線で訴えた。
「暗くなって来た事だし、場所を変えない?」
「そうだね」それに気付いたかゼノンが頷いた。「人通りが減ったとはいっても、何処で誰が聞いてるか分からないしね」
同じくオトも頷く。「ああ、今更だがいつまでもここで話してたって仕方ないしな」
「そうそう!」二人の意見にウイニアは大きく頷く。
「……で、どこに行くんだ?」オトが訊いた。
「だったら……」答えたのはリリス。三人とも、彼女に視線を向ける。
「私の家に行かない?」
空がすべて朱紅(あか)に染る頃。四人は高台にあるリリスの家に向かった。
***
「……遅い」
あれから一時間が過ぎた。しかし、当のリリスは未だ帰ってくる様子がない。
小さく息を吐き、アルベルは目の前の人物――ルナリアに視線を向けた。彼女は静かに紅茶を飲んでいる。
「……なぁ」
「何かしら?」
「アンタの事、信用してもいいのか?」
「――さて、どうかしらね?」とルナリアは言った。
「私はディアナに、リリスを助けて欲しいと頼まれた時、もう一つ言われた事があるの」
「言われた事?」
ルナリアが頷く。「いざとなった時、あの娘(こ)さえ無事ならば、魔力を奪う事があっても構わない、と。……もっとも、そんな事になったとしても、私はそんな気更々ないけれどね」
アルベルは何を考えているのかルナリアの話に何の反応も示さず、ただ真っすぐ彼女を見つめていた。
「信用はしてもらわなくても結構よ。……それでも私は、あの娘を助ける。そして、必ずリンシアを捕まえる」
「リンシア?」はじめて聞いたその名に、アルベルは首を傾げた。
「魔力狩りをしている魔女の名よ。私は、彼女を追っているの。それが当初の目的だったから」
ルナリアは静かに立ち上がった。
「帰るわ。今の話し、貴方からリリスに伝えてくれないかしら?」
座ったまま彼女を見上げ、アルベルは頷いた。「……あぁ、伝えておく」
これ以上、彼女を引き止めて置く事はできないだろう。まったく、どこで何をしているのやら……。
ここにはいない銀髪の少女を思い、アルベルは深い溜め息を零した。
――その時である。
「ただいま」
声と共にリリスが帰ってきた。他に三人、彼女の友人を連れて。
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