青年と魔女(2)-1 第五話 再会‐君想い、語り隠す真実‐ あれから――ルナリアと出会ってから、四日がたった。 『また来るわ』 そう言い残し去っていった彼女は、あの後姿を現すことはなかった。 彼女と会った後、リリスは何かが吹っ切れたのか、不思議といつもの元気さを取り戻していたみたいだった。 トールは珍しい事が続くもので、あの日以来、毎日のように稽古に来ている。尤、ライラ付きだったりするが。 「今日は久々に静かに練習出来そうだな」 今日は水曜で剣術場は休み。さすがに休みともなると、トールやライラが道場に来る様子はなかった。 窓から漏れる秋晴れの陽射しがとても気持ち良く、俺は軽く伸びをした。 「……ん?」 気のせいだろうか、道場の裏口付近で風にふわりとなびく黒髪が見えた、ような気がした。 「誰か、居るのか」と、俺は裏口に向かって声を掛けた。 耳を澄ますが返事はない。俺は木刀を右手にそっと握り、裏口に近づいて行く。 「敵意もない相手に、随分と物騒じゃないかしら?」 入り口からふわりとなびく黒髪が見え、一人の女性が姿を現した。 その女は、闇を思わせる漆黒の長い髪に、緋色の瞳をしている。 「……ルナリア……」 俺は思わず彼女の名を呟いた。木刀を握る手が緩む。 「名前、覚えてたみたいね」と彼女は言い、目を細めて静かに笑った。 「覚えて貰って光栄だわ」 彼女がここに来た目的は何だろう――ふと考えたが、そんなのは決まっている。彼女はリリスに用があるんだろう。 「せっかくだがリリスならいないぞ」 学校からまだ帰って来ていない、と俺は言った。 「そう……」 彼女は頷くと溜め息を零した。 「何かあったか?」 俺は入り口に寄り掛ると、そこに腰掛け俯くルナリアを見つめた。 「……えっ」 ルナリアは顔を上げ、俺の方を見上げた。緋色の瞳は少し驚いているみたいだった。 「前に『また来る』って言ったきり、来る様子なかったからさ」 彼女は静かに俺を見つめた。それから暫らくして彼女は瞳を俺から空へと移した。緋色の瞳は碧空を映している。 「……色々、ね」とルナリアは言った。瞳は空を映したまま。 「色々?」俺は首を傾げた。 「色々」自分に言い聞かせるみたいにルナリアか呟く。 彼女が再び俯いて、二人の会話が途切た。静かな沈黙が流れる。 ――けれど何故だろう? その沈黙が嫌だと感じる事はなかった。はじめて彼女と出会った時、俺は彼女を、魔女をあんなにも警戒していたのに――。 警戒していたのはリリスの事があるだけではなかった。何故なら俺は『魔女』と呼ばれる存在を、良く思っていないからだ。 ――俺も少しは前に進めただろうか。 碧空を見つめる彼女を見つめ、俺はふと、あの日の――五年前の夜を思い返していた。 [次へ#] [戻る] |