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金色の青年と水の少女-1





第四話
 金色(こんじき)の青年と水の少女






 二人が診療所に着くと、アルベルは直ぐに昼をすませ、さっさと隣の剣術場へと行ってしまった。リリスはと言うと、診療所に向かう事はなく、これまた真っすぐ剣術場に向かった。

 彼女は道場の裏口で二、三段と階段になった処に腰掛け、視線を外に向ける。
 何を見るでもなく、考えるでもなく、ただぼおっと空を眺めていた。雲一つなく蒼い、天高い秋の空を。



 道場で一人、リリスがただ外を眺めていると、暫らくしてアルベルがやってきた。依然として二人の間に会話はない。
 リリスの事など気にするでもなくアルベルは稽古用の木刀を持ち、素振りをはじめた。

「早速やってるな、アルベル」

 アルベルが素振りをはじめてから暫らくたち、一人の青年が道場にやってきた。

「トールか」アルベルが青年の名を呼んだ。

 その青年は黄金(こがね)色の髪と瞳をしている。髪は肩よりも長くて、耳よりも下の方で一つに結っている。

「以外と早かったな」アルベルは素振りをしている手を止めた。

「……以外とって何だよ、以外とって」

 以外とが気に障ったか、トールは苦笑し不貞腐れるようにアルベルを軽く睨んだ。

「……あれ?」トールは首を傾げた。

 彼はふと道場の裏口に目を向ける。そこには銀色の髪をした少女が腰掛けていて、少女はきょとんとした顔でこちらを見つめている。

「リリスちゃんじゃない?」

「……あ、こんにちは」

 トールに話し掛けられ、銀色髪の少女――リリスはその場で立ち上がる。彼女はぺこりと頭を下げた。

「どうも」

 礼儀正しく頭を下げる彼女に、トールはニッコリとほほ笑み「こっちにおいで」と手招きした。

 手招きされた本人――リリスはというと、アルベルの事があっただけに少し戸惑いがあった。
 けれどそんな二人の事など知るはずもない青年に、変に思われるだろうと、リリスはしぶしぶ二人の下に向かった。

「セレナークも早かったんだね」

 リリスが二人の所に行くと、早速トールが話し掛けてきた。

「でも変だなぁ……。俺が近くを通った時、セレナークはまだ終わってなかったみたいだったけど」独り言みたいに呟いて、トールは首を傾げる。

「……えっと……」

 リリスは言葉に詰まった。

 ――何て言おう?

 彼女が言葉に困っていると、アルベルが一言口を挟んだ。

「サボリだ」

 ――と。

「なっ! ち、違うもん」

 空かさずリリスは抗議する。

「サボり何かじゃない!」

 彼女は必死で否定した。それから、

「…………早退だもん」

 ボソリと小声で呟いた。

「へぇ〜?
 まぁ、俺的にはどっちでも良いけどな」

 焦るリリスを余所に「深く聞く程興味ない」とも言う顔でトールはサラッと言った。それもにっこり微笑んで。

「…………」

 トールの言葉に二人は呆気にとられ「なら聞くなよ」とも言わんばかりに肩をガクッと落とした。

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