青年と魔女(1)-3 「……私は、ある女を追っているの。この娘に近づいたのは、その事でついでみたいに頼まれたから」 「頼まれた? 一体誰に頼まれたんだ」 アルベルが訊くと、ルナリアは急に目を細め、何かを感じ取るように周りをちらりと見渡した。 「今更どこで話そうと同じ事だけれど……」 呟き視線を私に向けた。 「この娘の母親によ」 「……えっ」 ――今、何て言った? 一瞬、頭の中が真っ白になった。 「……お母さんに?」 何故、お母さんが? それってルナリアはお母さんに会ったって事……? 「何故、リリスの母親に?」 私が何も言えないで居ると、代わるようにしてアルベルがルナリアに訊ねた。 「それは――」 私は静かに息を呑み、ルナリアを見つめた。 「その事に関しては、日を改めて話すわ」 ルナリアは背を向けるようにスッと姿勢を変えた。 「外でするような話でもないし」 また来るわ。 そう言い残しルナリアは風が過ぎるように去って行った。 *** あれから私とアルベルの間に会話はなく、気まずく静かな沈黙が二人を包み込んでいた。 「――ねぇ」 静かな沈黙を破り、私はそっと口を開いた。 「いつから?」 「何が?」 アルベルは素っ気なく返事を返す。私はぴたりと足を止めた。 「……何がって……」 「リリス?」アルベルの足が止む。 振り替えるアルベルに対し、私は視線を反らすと顔を俯かせた。 「噂よ」 「……へ?」 アルベルが抜けた返事を返す。私はスッと顔を上げた。 「だから噂よ……う、わ、さ!」 私は声を張り上げそう言った。 私の瞳は虫の居所が悪いみたいにアルベルを強く睨み付ける。頬はぷくりと膨らませた。 「噂? ――ああ、噂か」 言葉に心当たりがあったのか、二度呟きアルベルが表情を曇らせた。 「いつから知ってたの?」空かさずアルベルに訊いた。 すると彼は左手を私の頭にぽんと乗せ、一言答えた。 「一ヵ月位前、かな」 彼の表情は困ったように微笑んでいた。 [*前へ][次へ#] [戻る] |