写真‐追憶の手紙‐-6
「三日前というのは『三日前に亡くなった』と、言う意味ですよ。グレイは病気で亡くなったそうです。何の病気だったか……当時の私はあまりにも動揺していたせいか、訊きそびれてしまいましたが」
「……そう、だったんだ……」
父親が病気で既に亡くなっている事を聞いて、リリスはただ茫然としていた。
何だろう……?
そうと聞いても『父親が亡くなっている』と言う事実に今一ピンとこないのだ。それ故に、感情がついていかない。
悲しいはずなのに、その気持ちがどんな悲しみか分からない。
どう想えばいいか分からなくて。リリスはただただ、無心で写真を見つめていた。
父と母――そして、幼い自分が写る写真を。
虚ろな瞳で写真を見つめるリリスに、シルバは掛ける言葉がみつからず、ただ見守る事しか出来なかった。
――何故なら彼の心は彼女に対する罪悪感でいっぱいだったから。
『グレイは病気で亡くなった』
これはシルバがとっさに付いた嘘だった。しかしそれも、リリスの為を想うならばこそ。彼女の為にも、今はこう伝えるしかなかった。
彼女がすべてを知った時。私はどれほど彼女を傷付けてしまうのだろうか?
――けれど。
今の貴方に真実をすべて伝えるには、貴方はあまりにも幼すぎる。
だから今はこれで……。
――すみません。
彼女に聞こえぬよう、シルバはそっと呟いた。
「随分と話が長くなってしまいましたね。私が貴女に、二人について教えられる事はここまでです。――さて、それでは夕食の準備にでも取り掛かりましょうか。アルベルも帰って来る頃でしょうし」
そう言いシルバは席を立ち、キッチンへと向かおうとした――その時。
「一つだけ。最後に一つだけ……聞いても良い?」
そう言いリリスはシルバを呼び止めた。
「なんでしょう?」
「お母さんの名前は何て言うの? お母さんの名前だけ、一度も出てこなかった。手紙にも書いてなかったし……」
「それが、私にも分からないんです」
「……えっ?」
「訊こうとした時、既に彼女はいませんでした。グレイの事を伝へ、リリスを私に託すと。彼女は直ぐに去ってしまいましたから」
「……そう、なんだ……」
リリスは俯き、小さな溜息を零した。そして再び視線をシルバに戻した。
「お祖父ちゃん、ありがとね。お父さんとお母さんの事、色々教えてくれて」
そう言ってリリスは先にキッチンへ行ってしまった。そんな彼女の後ろ姿を見つめ、シルバは小さな溜息を吐く。
――いつか、真実を話さなくてはならない日が、必ずやってくる。
すべてを話した時。あの子は……。
シルバは天井を仰ぐように顔を上げ、そっと瞼を閉じた。
「……お祖父ちゃん?」
名前を呼ばれ、シルバはふっと目を開ける。どうしたのだろうと首を傾げるリリスに、シルバは何でも無いと首を横に振る。
二人はキッチンに向かい、夕食の準備を始めた。
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