写真‐追憶の手紙‐-5 時計も夜の十一時になる頃、診療所の玄関のベルが鳴った。ちなみに診療所は朝の九時半から始まり、間お昼休みを挟んで夕方六時頃までやっている。緊急時などなら、夜間や早朝も受け入れている。診療所のベルはシルバの部屋に繋いである電話と繋がっているため、ベルが鳴ると電話が鳴って知らせるようになっていた。 自室で鳴る電話の音を聞き、シルバは急いで診療所へ向かう。たどり着いたその場所には、小さな女の子を腕に抱き、腰よりも長く流れるような黒髪が美しい深紅の瞳をした女性が立っていた。 外は雨が降っていた事もあり。女性が何者か問う前に、シルバは直ぐに女性を中に入れた。 「如何なさいましたか?」 診療所に入ってから、シルバは女性に訊ねた。彼はそこで改めて彼女の顔をまじまじと見た。そして次の瞬間言葉を失う。 「貴方は……!」 その女性は、グレイが送ってきた写真の女性にそっくりだった。 はっと我に返り、シルバはふと思い出したように彼女に抱かれた女の子を見つめる。 「リリス……?」 彼女の腕に抱かれ眠っていた女の子は、自分と同じ銀色の髪をしていた。 抱かれた子――リリスを見て、シルバの脳裏に一筋の不安が過る。そんな彼を横目に女性は静かに口を開いた。 「その様子だと、何故私がこちらに来たか……お気付きのようですね」 「それではグレイは……」 シルバの返答に女性は顔を俯け頷いた。 「ええ。大変申し上げにくい事ですが……彼は、グレイは三日前に亡くなりました」 「……グレイが……」 シルバは目の前が真っ暗になり、立ち眩みするような感覚になった。 ――何故、あの子が? ――いったい何が起きたと言うのだろう……。 そんな言葉が彼の頭を駆け廻っていた。 「実は三日前――」 女性は三日前について語り始めた。それをシルバは頭と心を整理するように、必死に聞いた。 *** 「ねぇ、三日前にいったい何が起きたの?」 シルバがそこで話を止め何か考えてるようだったので、リリスは急かすように訊いた。 「それは……」 その時、一瞬だが女性の言葉が彼の脳裏を横切った。 『これを伝えるか否かは、貴方にお任せします。 この子にとって、どれが一番幸せか……』 シルバはリリスの瞳を見つめた。その瞳は真剣で、真っすぐ彼を見つめている。――それはあの日の晩に見た、彼女の瞳とよく似ていた。 [*前へ][次へ#] [戻る] |