継がれし母の力〈前編〉 7 「……ねぇ、お祖父ちゃん」 言わなくちゃ。今日あった事を。 魔女に会ったって事、噂の事、お母さんの名前の事――。 「あのね……」 何て切り出したらいいだろう。私は口籠もってしまう。 「どうしました?」お祖父ちゃんは首をかしげ、心配した様子で私を見つめた。。 「………あ、ううん。何でもない」 やっぱりお祖父ちゃんには言えない。心配を掛けたくない。 「リリス?」 「ごめん、気にしないで。それじゃあ、今度こそおやすみ」 私は逃げるようにその場を去った。「気にしないで」とは言ったものの、お祖父ちゃん気にするよね? 階段をさっと駆け上がりながら、私は心の中でそっと「ごめんね」と言った。 *** 「――アル君。無理矢理ではあったけど、送ってくれてありがとね」 ミシェルさんの住むアパートの部屋の前に着き、彼女はにっこり笑顔で言った。 「ねぇ、アル君?」 ふと笑顔を見せた後、彼女は少し真剣な顔で俺を見つめた。 「何?」 「……うん。その、少し気になって。気を悪くしたらごめん」 「そんなの今更だろ?」 何を今更と、俺はくすりと笑った。 「悪かったわね……」 怒ったのかミシェルさんは眉端を上げ、軽く睨みつけた。 「冗談だよ」 そう言って俺は苦笑した。すると彼女は何故かほっとしたように、優しく微笑んだ。 「今は、大丈夫みたいね」 「大丈夫って?」俺は首をかしげた。 「何となくね、アル君元気ないなって思ったから。だから、何かあったのかなって……」声がだんだん小さくなり、彼女は視線を俯けた。「ごめんね。変な事言ってさ」 困ったように笑うミシェルさんに、俺はゆっくり一言「ありがとう」と言った。 [前へ][次へ] [戻る] |