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継がれし母の力〈前編〉
5

***


『辛いなら、私を憎むといい』
 ――何故、そんな事を言うんだ……?


 遠い記憶。
 腰よりも長い、淡く緑がかった銀色の髪。深い翡翠の瞳。
 魔女(ルナリア)に会ったからだろうか。それとも、トールに負け、何度か父の言葉を思い返して居たからだろうか。
 久しぶに昔の夢を見た。「風」を通り名に持つ、魔女の夢を――。


「アル君」
 声が聞こえ、俺はゆっくりと瞼を開けた。眼の前には、ゆるいウェーブのかかったピンク色の髪に、赤紫色の瞳をした女性が立っていた。
「……ミシェルさん」
「寝てた?」
 ミシェルさんはクスッと笑い、ベッドで横になっている俺の顔を覗き込んでいる。
 部屋に戻ってからの俺は、ベッドに体を預けるよう横になり。ただぼおっと天井を仰いでいたのだが、いつの間にか寝ていたらしい。
「何で、ミシェルさんがここにいるんだ?」言いながら、上半身を起こす。眠ってたせいか、頭がうまく回らない。
「――ああ、私ね。リリスちゃんに夕飯呼ばれたの。それでアル君呼びにきたんだ」
「そっか、悪いな」
「ううん、全然。呼びに行くって言ったの私だもの……それより」ミシェルさんはキョロキョロと俺の部屋を見渡した。「アル君の部屋って久々だな〜」
「そうか?」
「ええ、『アル君の部屋』にはね。……ま、君がこっちに住んでからは初めてなんだけどね」
 彼女は俺の机の椅子に座り、机の上に飾ってある写真を手に取り眺めた。
「アル君ってさ、本当顔が伯父様にそっくりよね。今のアル君見たら、きっとフィーナさんもびっくりするよ」写真を見つめながら、昔を思い出したのかミシェルさんはにっこりと微笑んだ。「写真みてたら懐かしくなってきたなぁ。あの頃のアル君は可愛かった」
 最後の可愛かった。に、俺はがくりと肩を落とした。
「懐かしいって、俺か。父さんと母さんの写真眺めてたわりに……」
 ミシェルさんは両親の事を考えてるんだと思った。
「ふふっ」
 彼女は楽しそうに笑う。俺は小さく溜め息が出た。
「――おっと、そろそろ行こっか。先生とリリスちゃんが待ってるよ」
 ミシェルさんは写真を机の元あった場所に置き、静かに立ち上がった。
「……そうだな」
 俺も続けて立ち上がる。部屋を後にし廊下に出ると、俺達は階段を降りキッチンに向かった。


 キッチンではリリスとウォーカーさんが席に着いていた。
「アルベルやっと来た」
 待ちわびたようにリリスがむすりと零した。
「まあまあ、リリス。それよりも二人とも、早く席に着いて下さい。温め直したシチューが冷めてしまいますよ」
 ウォーカーさんが急かすように言い、俺達はそれぞれ席に着いた。
「それじゃあ、いただきます」
 間もなくして、リリスの声と共に、いつもより一人多い、四人で食べる夕食が始まった。


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あきゅろす。
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