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継がれし母の力〈前編〉
4

 アルベルとマクウェルさんは何を話していたんだろ? 
「……むぅ、気になる」
 私は腕を組み、持たれ掛かるようにキッチンのテーブルの椅子にどさりと腰掛けた。何だか今日は気になる事ばかりだ。
 それはお母さんの夢から始まって、ルナリアって魔女に会って、噂の事を聞いて――。
「そう言えば……!」
 お母さんの名前、ルナリアから聞いたんだっけ。お祖父ちゃんに言った方が良いかな?
 そう思い立ち上がった時、玄関の方から再び扉の開く音が聞こえてきた。
 ――お祖父ちゃん達かな?
 私は時計を見上げた。時刻は七時少し前を差している。
 意外と早く終わったのだろうか、私は再び玄関に向かった。


「お祖父ちゃん、ミシェルさん。お帰りなさい」
 案の定、玄関に向かうと、帰って来たのは二人だった。
「ただいま、リリス」
 お祖父ちゃんは水色の瞳をそっと細め、柔らかく微笑む。それに続くように「おじゃまします」と言って、ミシェルさんがにっこり笑った。
「早く終わったんだね。今がちょうど七時になる所だもん」
「人数の割りに重傷な患者さんはいませんでしたからね」と、お祖父ちゃん。
「そうそう。みんな診察くらいでスイスイ〜ッと終わったのよ」と、ミシェルさんが言った。
「へぇ〜、そういう時もあるんだね。お疲れさまです」
「いえいえ。それよりも、夕飯すみませんね」
「いいの。私作るの好きだから気にしないで」私はお祖父ちゃんに微笑んだ。「――あ、そだ。アルベル呼んでくるよ。少し前に帰ってきたんだ」
「ねぇ、リリスちゃん」と、ミシェルさんが二階に行こうとした私の腕を掴んだ。「アル君、私が呼んで来てもいいかな?」
 私は首を傾げた。何でミシェルさんが? 別に、誰が呼んできても良いけど……。
「お願いします」と、私は答えた。すると彼女は嬉しそうににっこり笑い、「それじゃあ呼んでくるね!」と言って階段を上がって行った。


「複雑ですか?」
 ミシェルさんが階段を上っていく姿を見つめる私に、お祖父ちゃんが訊ねた。
「別に……」
 何でそんなこと聞くの? そう言うように私はお祖父ちゃんを見つめた。
「ねぇリリス? あなたはアルベルの事を」
「そんなんじゃないよ!」
 お祖父ちゃんの言葉を遮り言った。それに驚いたのか、お祖父ちゃんは目を見開きぱちくりしている。
「……シチュー、温め直さなきゃ」
 空気が気まずい。そう言って私はキッチンの方に顔を向けた。
「そうですね。では、参りましょう」
 お祖父ちゃんは困ったように微笑むと、先にキッチンへ歩いて行った。
「……本当に、そんなんじゃ、ない」
 玄関に一人、ぽつりと呟く。
 私にとってアルベルは、お兄さんみたいなものなのだ。アルベルだってきっと、私を妹みたいに思ってる。だから、複雑とか、そんな感情は湧かない。
「リリス?」
 立ち尽くす私に、お祖父ちゃんが振り返り声をかけた。私は顔を左右に小さく振ると、キッチンに向かって足を進めた。


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