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継がれし母の力〈前編〉
6

***


 夕日に照らされた石畳の街道を、影が二つ並んで歩く。
「トール強かったね。見直しちゃったわ」と、隣で歩くトールを見つめながらライラは言った。
「ライラがいる――そう思ったら負けられないっしょ」と、トールは得意気に言う。「負けて格好悪いとこ見せらんないしさ」
 彼は口角をニッと上げ、少年のような笑みを見せた。そんな彼をライラは愛しいと想った。
「ライラ?」
「うん?」
「……あ、いや。ぼーっとしてたからさ」
 返事がないライラを心配して、トールは彼女の顔を覗き込んだ。深い青の瞳は驚いているのか、きょとんとしている。それから暫くして彼女は小さく笑った。
「トールに見とれてたんだよ。本当に格好良かった」 言ってライラは穏やかな瞳でトール見つめる。彼女に見つめられ、トールは照れ隠しに頭を掻き、再び笑んだ。
「けどね」と、言ってライラは言葉を続けた。「すごく、心配した」
 立ち止まりライラはトールに背を向ける。夕日に赤く染められた彼女の後ろ姿は、どこか儚くて泣いているように見えた。
「……ごめん」
 トールはライラの背に向かって謝る。
「何で」と、言ってライラはこちらに向き直した。「何で、トールが謝るの? 勝手に心配したのはあたしだよ?」
 自嘲するように笑うライラを見つめ、トールは柔らかく微笑んだ。それから彼は優しく彼女を抱き締めると、彼女の耳元に唇をそっと近付け囁くように言った。
「だったら、ありがとう。こんな俺でも、心配してくれて」
「無茶、しないでね」
 トールの胸に顔を埋め、ライラが呟く。
「了解」
 トールはそっとライラを離した。彼女を見つめると、頬を赤く染め優しく微笑んでいた。彼は照れ隠しににっと笑い、再び彼女を抱き締めた。
 夕日が二人を優しく包み込み、赤く染る。


「それじゃあ、あたしはここで」
 噴水広場から南側の、人通りの少ない住宅地に着くと。ライラは足を止め、トールに「またね」と手を振った。
「ここで良いのか? 暗くなってきたし、家まで送るよ」
「ううん。ここで大丈夫」
「……そっか。それじゃあまた、明日な」
「ええ、また。気を付けてね」ライラは手を振りトールの背中を見送った。
 彼の姿が見えなくなると、ライラは自分の家へと足を向けた。
「彼が、ライラさんの恋人ですか。とても仲がよろしいみたいですね」
 ――ふと、声が聞こえライラは顔をあげた。

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