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継がれし母の力〈前編〉
3

「……あ、ライラ・プルーテットです。初めまして、マクウェルさん」
 今の状況に少し戸惑い気味にライラさんが答えた。
「初めまして、ライラさん」
 マクウェルさんはにっこり微笑んだ。一瞬、不思議な空気が流れる。その空気も構わず「あの、マクウェルさん」と、私はマクウェルを呼んだ。
「何かな? リリス嬢ちゃん」
「アルベルからマクウェルさんがアスガルドに行ってるって聞いたんですけど、何しに行かれてたんですか?」
「年に一度開かれる、剣術大会を見に行ってたんじゃ」
「剣術大会ですか」
「剣術大会は昨日まででな。たった今戻って来た処じゃよ。それにしても、こっちでも勝負事をしておるとはのう」
 言ってマクウェルさんは楽しそうに二人を見つめた。
「あの……マクウェルさん」と、少し控え目に名前を呼んだのはライラさん。
「何かな?」とマクウェルさんはライラさんに視線を移した。
「マクウェルさんは、トールとアルベル君。どちらが勝と思いますか?」
「トールと、アルベルか……」
 彼女の質問にマクウェルさんは目を細めて二人を見つめた。アルベル達は先程から変わらず木刀を交えている。


***


「……っ」
 先程の突き以来トールの隙が中々見つからない。
「そろそろへばって来たんじゃねぇの? アルベル」
 そう言いトールが余裕の笑みを見せる。同時に振った木刀は、組合いどちらも動かずといった様子でギリギリとその身を鳴らしている。
「それはお前の方じゃないか?」
「はっ、俺はまだイケるね」
 交えていた木刀に力を込め、トールは前に押し出した。俺はいったん力を弱め、素早く後ろに下がった。
 この余裕は何処から来るんだ?
 トールの攻撃を防ぎ思った。互いの隙を探りつつ激しい木刀のぶつかり合いは尚も続く。
「そろそろ決めますか」
 トールが呟く。その瞬間彼は後退し、勢い良く足を一歩前に踏みしめた。
「烈風連突き(れっぷうれんづき)!」
 言ってトールは無数の突きを俺に浴びせてきた。いくつもの突きと風圧が襲い掛かる。
 ――まだ、こんな力が残っていたとは。
 先程トールがしたのと同じように、俺は木刀を盾に突きを防いでいく。風圧で跳ばされないよう、足はしっかり踏みしめ。
「っ……!」
 全て防ぎきれたと思った時、突きの最後の一撃が俺の右脇腹に入った。瞬間、鈍い音と痛みが体中に響く。俺は先程のトールと同様に後方に跳ばされ、体を強く壁に叩きつけられた。


***


 マクウェルさんがアルベル達に目を向けた瞬間。トールさんが連続の突きを出し、鈍い音と共にアルベルが後方に跳ばされた。
 木の壁はズシリと重い音をたて、微かに揺れた。
「勝負、ついたみたいじゃの。答える間もなかったわい」とマクウェルさんが言った。
 アルベルが負けるなんて思いもしなかった。私は唇をキュッと結び、アルベルの元に駆け出した。
「リリスちゃん!」と、ライラさんが私の名を呼ぶのが聞こえた。突然駆け出した私に驚いたのだろう。彼女も続いて駆け出す。
「――アルベル!」
 たどり着いた先で、アルベルは壁に背を預けるように座っていた。


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