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継がれし母の力〈前編〉
2

***


「……すごい」
 アルベルとトールさんが交える木刀同士の激しくぶつかりあう音が、道場内に強く響き渡る。どちらも真剣で、観てるこっちも手に汗を握ってしまう。
 ふと、横に座っているライラさんに視線を向けた。彼女は両手を胸の前で握り合わせ、不安な表情で二人の勝負を見つめていた。
「心配ですか?」と、私は訊ねた。
「……心配」と、ライラさんは二人から目を離さないまま答えた。「だって二人とも、防具もなしにやってるんだもの。いくら切れない木刀とはいえ」
「確かに」
 言って私は頷いた。尚も激しく木刀を交えている二人は、何も付けず勝負をしている。ライラさんは「こういう場所初めて来た」と言っていた。だから、手合わせとはいえ、こういった勝負事も初めて観るんだと思う。
「大丈夫ですよ。案外二人とも頑丈ですから」
 そう言って私はにっこり微笑んだ。すると少し落ち着いたのだろうか、ライラさんの表情にはまだ不安が残るものの彼女は小さく笑んだ。肩の力を少し抜き、彼女は二人の勝負を観つめた。私も二人の方に目を向ける。
「――あっ」
 その直後だった。アルベルがトールさんに向かって大きく突きを出したのは。
 アルベルの突きをトールさんは木刀を盾にして防いだが、突きの風圧で後方に跳ばされた。トールさんの体は道場の壁に強く叩きつけられ、その音がズシリと重く響いた。
「トール……っ!」
 両手を口にあて、ライラさんが悲痛な声でトールさんの名前を呼ぶ。顔は蒼白し茫然としている。そんな彼女を横目に私は「勝負、ついたかな」と、考えていた。
 再びアルベル達に視線を戻すとトールさんが頭を擦りつつ立ち上がる姿が見える。木刀をしっかり握り直し、二人は再び木刀を交えた。
「大丈夫かな」とライラさんが呟く。顔色は先程に比べて少し良くなっていた。
「大丈夫」と私は言った。「だって、何事もなかったみたいにまた勝負再開してるし」
 胸の前で握り合わせた手をライラさんはさらに固く握り、肩に力を入れた。私の声など聞こえていないのだろう、尚も心配そうにライラさんはトールさんを見つめている。
 トールさんは幸せ物だな。
 そんな事を思い、私は自然と笑顔になった。
 と、その時。ふと横からとても特徴のある笑い声が聞こえてきた。視線を声の方に向け、私は思わず声の主の名を呼んだ。
「マクウェルさん!」
「ふぉっほっ。久しぶりじゃの。リリス嬢ちゃん」
 マクウェルさんは伸ばした顎髭を撫で微笑んだ。
「……マクウェル、さん?」
 ライラさんが呟いた。二人の勝負を真剣に見守っていた彼女は、突如としたマクウェルさんの登場に驚いているようだった。そんな彼女に視線を向け、
「そちらのお嬢さんはどなたかな? 儂はマクウェル・ラクスマンじゃ」
 と、マクウェルさんがその名を名乗った。

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