継がれし母の力〈前編〉
1
勝負
『大切な人を護れるようになれ』
この言葉は、父が息を引き取る前に、俺に伝えて欲しいと魔女に言った言葉。
今の俺にとって大切な人――そう想える人は二人いる。それは、ウォーカーさんとリリスの二人。
母を亡くし、父を亡くした俺を、まるで家族のようにあたたかく迎えてくれたのは、二人だから。だから二人は、俺にとって掛け替えのない大切な人、家族。
けれどそれは、父が伝えたかった言葉の「大切な人」とは少し違うのかもしれない。それでも俺は、二人を護りたいと、そう想う。
いつか本当の意味で、俺にとって大切な人がみつかるその日まで。それまで俺は、この二人を護って行きたい。二人は俺の、大切な家族なのだから。
***
道場の外に生い茂る木の葉が落ちる瞬間、俺達は互いに木刀を振るい、相手に向かって斬り付けた。木刀同士、木と木の激しく交じり合う音が、道場内に強く響き渡っていた。
「はぁっ」
声と共にトールは腕を大きく振り上げ強く斬り付けてきた。
「――っ」
俺はそれを素早く自分の木刀で受けとめる。トールも結構腕を上げてきたようで気は抜けない。受けとめたトールの木刀を弾き返し、空かさず俺は斜めに斬り付けた。
「甘いな」と、俺の一撃を止め、トールは余裕の笑みで呟く。「それでは俺には当たらない」
「ずいぶん余裕だな。だったら、これならどうだ?」
俺は交えていた木刀から力を抜くと素早く後ろに下った。それから足を強く踏み込み木刀に気を込め強く突き出す。
「烈風突き!(れっぷうづき)」
言うだけの事はある。
俺の突きをトールは木刀を盾にして難なく防いだ。
「――なっ!」
しかし。防いだと思われた突きもその風圧までは防げなかったようで、トールの体は後方に飛ばされ、道場の壁に打ち付けられた。その瞬間、場内には微かな振動と重い音が響いた。
「――ってて〜」
トールは左手で後頭部を擦った。
「勝負、ついたな」
俺はトールにゆっくり近づいた。
「否、まだだ」擦っていた手を静かに降ろし、トールは立ち上がる。「ルールは一発当てたら、だろ? 確かに風圧で飛ばされはしたが、当たってはいない」
言って彼は再び木刀を構え強く握り締めた。
「確かに当たってはいないな」突き出した木刀はトールの体でなく、彼の握る木刀に当っていた。「なら、次は当てる」
俺は木刀を構え直し、激しく斬りにかかった。
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