継がれし母の力〈前編〉
5
***
暗い部屋に薄らとした淡い水色の光が一つ、ポッと灯る。
その光は、底が浅く丸い形をした水の入った器から出ていた。光を放つ水面には、何かが映しだされている。水面の近くには、それを覗き込む影が一つ――。
「これがあの女の力を継ぐ、ウィッチ・ハーフか」
声の主はクスクスと笑っている。水面から放たれた淡い光に照らされたその姿は、赤紫色のローブを身に纏い、肩より少し長い真っ白な白髪に、顔には幾つもの深い皺が入った老人。
「ルナリアにアクア・バードをつけて正解だった。礼を言うよ、レオリュート」
老人が問い掛けるように名を呼ぶと、後ろの方からもう一つ、暗闇から影がスッと姿を現した。
「いえいえ、礼などいりませんよ。それよりもリンシアさん? 彼女、アクア・バードに気付いてるみたいですよ」
姿を現した影――レオリュートは、リンシアと呼んだ老人にそう言い返した。リンシアは気にする事もなく、フッと鼻で笑う。
「ルナリアが監視に気付く事など、策の内だろう?」
レオリュートはクスリと笑う。
「それは勿論――と、アクア・バード、消されたみたいですね」
そうレオリュートが言うと、その瞬間水面はグラッと揺れ、光も消えた。跡には波紋が残るだけで、水面はただ闇だけを映している。
「これ以上監視されるのは嫌と見た。……まぁ、良いだろう。目的のウィッチ・ハーフが分かったのだから」
リンシアはそう言いクルリとレオリュートの方を向いた。
「さて、これからどうします? リンシアさん」とレオリュートが訊ねた。
「目的のウィッチ・ハーフが見つかったのだ。あとは解放の一夜まで、魔力を温存するつもりだが――レオリュート、何を考えている?」
リンシアはレオリュートに問う。彼の紺碧の瞳は何かを考えているようだった。
「なにも。ただ、解放の一夜の前に、一度ルナリアさんに挨拶しておこうと思いましてね」
「挨拶……?」
リンシアは怪訝な顔で、怪しく微笑むレオリュートに訊ねた。
「えぇ」
一言だけそう答えレオリュートはにっこりと笑んで返した。リンシアは首を傾げ、何を考えているのかまったく考えが読めない彼に、
「くれぐれも騒ぎを起こさぬようにな」
と、釘をさすように言った。
「御意」
レオリュートは部屋の暗闇に混ざるようにスッと姿を消した。薄暗い部屋にはリンシアだけが残った。
「……長かった……」
自分以外誰も居ない部屋で、今では自分の姿を薄ら映した水面を見つめ、リンシアはポツリと呟く。
「この姿になり十四年。あの力、必ず――」
リンシアは皺が深く刻まれた手を伸ばし扉を開けた。薄暗い部屋では、平たい器に入った水が静かに波打っていた。
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