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story
初風吹き荒れ(恋日)


流れるのは 甘い



甘い時間





砂糖のような
果物のような








明日はもっと




ねぇ







そうでしょう?






「阿散井のファーストキスって何味だったんだ?」

「へ?」

突然の言葉に、俺の口から出たのは間抜けな声だった。
それもそうだろう。
今の今まで、そんな話題になるような事は話していなかったのだから。

(ちょっと待て…えーと‥)

俺は混乱する頭を整理すべく今までの会話を思い出してみた。

(今日はタイヤキの新味が出たんでって事で、日番谷隊長にもお裾分けをと思いお邪魔したんだよな。
で、せっかくだからお茶を戴くことになって、一緒にソファーで休憩をとりながら、
この味はあーだ、その味はこーだと言い合って。
それから最近の事について世間話を‥)

あれ〜??と小首を傾げるが、やはりそんな話題になるような事は話していない。
何の前触れもなく日番谷隊長が急に話を変えてきたのだ。


(どうかしたのだろうか…?)


「…おい、話聞いてんのか、てめぇ」

「え?あ、はい!」

いつまでも隣で呆けた顔をしている俺に、日番谷隊長は睨みを利かした。

(やっべー!!怒ってる)

「えっと、ファーストキスでしたよね」

とりあえず早く答えないと日番谷隊長の機嫌が更に悪化しそうだったため、記憶力の悪い頭をフル回転させ、自分の過去について振り返ってみる。

「大分昔の話になりますけど…確か味はしなかったと思いますよ?」

そう、普通はファーストキスなんて口を閉じてするものだから味なんてしない。
もっと深いものなら別だが…。
とにかく俺はそうであった。

その回答にどんな反応を示すかと思い、日番谷隊長の顔を盗み見るとそこには明らかに落胆した面もちの子供がいて…

「レ、レモン味じゃないのか…?」

と一言呟いた。

(な、なななななんて可愛いことぬかすんだ、この人は!!!!)

俺は、日番谷隊長のあまりに純情な発言に、思わず鼻血が出そうになった。

(嗚呼っ、日番谷隊長はそんな乙女な幻想を本気で信じてたんスね!!)

鼻を押さえ悶えている俺にも気づかず日番谷隊長は未だにショックを受けている。

そこで俺は漸く、日番谷隊長が何故こんな質問をしたのか何となく思い当たる出来事を思い出した。

(そういえば昨日雛森が"ファーストキスはレモン味だなんて素敵じゃない"と少し興奮した様子で話してきたな。
俺はそのとき雛森の乙女な発言に思わず大笑いしてしまい彼女は口を尖らせていたが、よく考えれば雛森と日番谷隊長はよく話すし、お喋り好きの彼女の事だ、きっと日番谷隊長にもそんな女の子らしい知識を植え込んだに違いない。
そして案外ロマンチストな日番谷隊長はその話しを簡単に信じてしまったのだろう。)

だから俺にも確認を込めて聞いてきたのか。

一人納得する自分。

ふと、俺はあることに気がついた。


「もしかして隊長…キスしたことないんスか?」

「…っ!!」

予感的中。
日番谷隊長は一気に顔を赤くした。

分かり易いッスよ、もぉ‥可愛いなぁ。
これで自覚ねぇだなんて参っちまうぜ。


「…っ悪ぃかよ!そんなこと経験する前に死んじまったんだ!!」

仕方ねぇだろっ、と逆ギレする日番谷隊長。
そんな真っ赤な顔で睨んでも可愛いだけっすから。


「小学生で経験があるって方が珍しいっすよ☆」


俺は、日番谷隊長を元気づけるつもりで無駄に明るく言ってみた。
だが、どうやら地雷を踏んだらしい。

日番谷隊長は一瞬目を見開くと、悔しそうに唇を噛んで、外方を向いてしまった。

俺が顔を覗き込んでも顔を逸らしてしまう。



(拗ねてる…)



唇を尖らせ一向に自分の方を見てくれない困った子猫に、自然と顔がニヤけていくのが分かった。
この人の、こんなに可愛らしい行動が見られるのは俺だけ、俺の前だけで年相応な行動をとってくれるのだ。
それはつまり、日番谷隊長にとって俺が特別だということで…。

更にニヤける顔。




俺は外方を向いたままの子猫を怖がらせないように、優しく後ろから包み込んだ。

さすがに抱きつかれると思っていなかったのか、日番谷隊長は吃驚した風で小さな体はそのまま固まってしまった。



俺があやすように、銀色の柔らかい髪に指を通すと、甘い香りが鼻をくすぐる。
手のひらで感触を確かめるようにソッと撫でながら、俺は仄かに赤くなっている耳に唇を近づけた。

「外方なんて向いてないで、俺を見て下さいよ」

優しく、だけど少し咎めるように囁きを耳にそそぎ込んであげると、子猫の耳は更に赤みを増した。

そしてソロソロと、俺の腕の中で小さな体を動かしながら、日番谷隊長は俺と向き合うようにソファーに座った。


可愛い可愛い俺の恋人。


もう拗ねてはいないみたいだけど、まだキスの事が気に掛かるのか、視線を逸らしているので、俺は布の巻かれた自分の額を小さな額にコツンとくっつけて、横に寄ってしまっている瞳を見つめる。
すると寄っていた瞳が動き、ゆっくり俺の瞳と合わさったので、俺は少し苦笑を漏らしながら口を開いた。


「確かに、ファーストキスはレモン味ではないっスね」

その言葉に、やはりどこか落胆した色を瞳に浮かべて、

「…だよな」

とつまらなそうに呟く。


(そんな顔しないでくださいよ)



俺も苦笑が崩せなかった。

隊長のそんな顔を見ると、俺まで気持ちが落ち込んでしまう。

どんな顔のあなたも可愛いけれど、ヤッパリ笑顔が一番似合うから…



俺は、少し俯き加減になってしまった隊長の額に、僅かに力を込めた。



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あきゅろす。
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