[携帯モード] [URL送信]

story
教訓(市日/裏アリ)
麗らかな陽気の午後、日番谷はやっと仕事に区切りをつけ、遅い昼食をとるべく食堂へ向かっていた。
ここ最近眠っていないせいか体中がダルい。
凝り固まった肩の凝りをほぐすべく反対側の手で肩を軽く揉みながら歩いていると、ふと自分の知りすぎている霊圧を感じ、あからさまに眉間に皺を寄せ、日番谷は前方を見据えた。


「…市丸」


そう、日番谷が睨んだ先に居たのは何時にも増してウザいくらいに笑顔を振りまく一匹の狐。
市丸は日番谷が己の存在に気づくと、手をブンブン振って駆け寄ってきた。

「ひっつがやはーん」

そのまま抱きつこうとするのをヒラリと交わし、日番谷は何もなかったかのように再び歩き始める。
何も捕まえることなく宙を切った腕に寂しさを感じたものの、市丸はめげずにニコニコ笑いながら前を歩く日番谷を追いかけた。

「なぁなぁ日番谷はん、日番谷はんはこれからお昼なん?」

「…ああ」

「一緒してもええ?」

「……」


(待ち伏せてたと思ったらそんな事か)

日番谷は軽く溜息をつくと

「勝手にしろ」

と止まることのない足を食堂へ進めた。

日番谷の承諾を得た市丸は、嬉しそうに小さな恋人の隣をひょこひょこ歩いていった。
死覇装の袖に隠れた手に、何やら怪しいラベルの貼られた小瓶を持ちながら。













「随分居るな」

「そやね〜」


二人が食堂に着いてみるとそこは随分な混みようだった。
皆仕事が一段落するのが遅かったらしい。
日番谷は面倒臭そうに列の最後尾に付こうとしたが、それは市丸に阻まれた。


「んだよ」

腹が減っているせいで機嫌が悪く、急かすような目を向ける。
そんな日番谷に市丸は苦笑を浮かべ、少し屈みながら口を開いた。

「ボクが並んで持ってくから日番谷はんは席とっといて」


言うと日番谷は列の波から追い出されてしまう。
振り向いて市丸を見ると、手をヒラヒラ振って「ほら早う」と日番谷の背を押した。

「〜〜ったく。俺、唐揚げ定食な」

「分かっとる。ちゃんと席とっといてな」

ああ、と不敵な笑みを浮かべながら返事を返すと、日番谷はテーブルの並んでいる方へと足を向けた。

最近徹夜が続いたため、今の日番谷には人混みの中並ぶというのは少々辛いものがあった。
だから市丸の申し出はありがたいものだった。


もしかしたら気づいていて、日番谷に負担がかからないようにしてくれたのか。
いや、多分気づいてはいるだろう。
普段は市丸と一緒の布団で寝ているのに、ここ最近アイツの腕の中に居た記憶がないのだから。
なんにせよ、市丸を少し見直した日番谷であった。








「はい、唐揚げ定食」

「お、サンキュ」


日番谷が席を確保してから数十分後、市丸が二人分のお盆を持ってやって来た。
先ほどリクエストした唐揚げ定食を日番谷の前に置き、自分は合い向かいの席につく。
持ってきたお盆の上にはうどんが乗っている。


「なぁなぁ、日番谷はん」

「ん?」

「今日は一緒に寝れる?」

珍しく心配そうな顔をして日番谷を伺ってくる。
日番谷は苦笑を零しながら頷く。

「あぁ。漸く仕事も落ち着いたしな。今日は一緒に寝れるよ」

「ほんま!?良かったぁ〜vVじゃあ最近ご無沙汰やったし違う意味で寝‥」
「嫌」

市丸の提案は日番谷に即却下された。
途中で言葉を遮られかなり不満そうな顔を見せる。

「んな顔しても無駄。体力ねぇの、無理。」

「えぇ〜優しくするしえぇやん」

「後処理とか面倒臭い」

「それもボクがするから、な?」

「気分じゃない」

「そんなぁっ、ボク4日も待っとったんやで!!??」

「一生待ってろ」


日番谷は久しぶりに交わす会話の内容が真昼の今にあるまじきものであるためウンザリしていた。
別に、これから午後は仮眠をとる予定だから夜は体力が無いわけではない。
日番谷もヤること自体は嫌いではないが…

(この狐はヤることしか考えていないのか。)

そう考えると何故だか無性に腹が立って冷たくあしらってしまう。


「どうしてもダメ?」

「だめ」

箸をくわえながら捨て狐…訂正、捨て犬のような表情で訴えるが、日番谷に利くはずもなくアッサリ拒否。
それに微妙に憤怒したらしく市丸は頬をあからさまに膨らませ、お怒りの様子を主張。
そんな市丸にも見向きもせず日番谷は黙々と食を進める。

「もぉええ!シたくなっても相手してあげんから!!」

「なるかぁっ!!!!」

逆ギレした市丸に箸を投げつけて叫ぶ日番谷。
顔は真っ赤。

市丸は日番谷に見えないように密かに口端を上げた。

「…まぁ、しゃあないな。あ、唐揚げ上手いやろ?丁度揚げたてやったんやで」

あっさり諦めた市丸を特別不審に思わないまま日番谷は市丸の言葉に素直に頷いた。

「そ、良かった」

ニタリと笑う狐。
日番谷が唐揚げを噛み下すのを見守るように確かめると、自分も昼食を食べ始めた。





「ごちそーさん」

「相変わらず食べるん早いなぁ」

「お前が遅いんだろ」

憎まれ口を叩く顔は、腹が満たされたため随分と満足気だ。
まだ食べ終わっていない市丸を見ると席を立つ。

「俺先行くな。じゃ」

「あらら、待っててくれへんの?」

「夜になったら一緒にいられんだから別にいいだろ」

「…そやなぁ。じゃあ夜になったらおいで」

「おう」

そしてそのままお盆に乗った食器を返して日番谷は食堂を出て行った。

その様子を見ていた市丸。
妖しい笑みを深くする。

「夜が楽しみやね」

ポツリと呟いて、またうどんを食べ始めた。








next






あきゅろす。
[小説ナビ|小説大賞]
無料HPエムペ!