竜のみる夢 ※15禁
05
夢を見ていた
遠く懐かしい日の夢を―――
魔導師セイ=ガーナ=ヴィオラードに召喚されこちらの世界に来る前、リルヴィーシュがいたのは深く暗い混沌の闇の中だった。
昼も夜もなく、形あるものは存在せず在るのはただ闇をたゆとう意識のみの世界。
それがリルヴィーシュがいた場所。
器となる身体を持たない意識のみの存在である彼らにとって言葉は無意味であり個体を示す「名前」でさえも必要ではなかった。
ただ静かに時が流れてゆくだけのその世界でリルヴィーシュの傍にはたくさんのものたちがいた。
身体がないから直接触れ合うことはないし、言葉がないから名前を呼ぶこともない。それでもリルヴィーシュを慕い、傍にいたものたち。
そのまま何も変わらずにただ時が流れてゆくのだと思っていた。
そんなある日誰かに呼ばれたような気がした。
音のない世界だから実際に聞こえたわけではないのだろう。けれど「呼んでる」と感じた。
気持ちが高揚する。それは今まで感じたことのない感情。
呼び声に応えた瞬間、凄まじい光の洪水に飲み込まれ、気が付いたらこちらの世界にいて身体と「リルヴィーシュ」という名前を得ていた。
セイと出会って、ずっとずっと欲しかったものを手に入れることが出来たからこちらに来たことは後悔していないけど、けれどふと思うことがある。あちらに残してきてしまった彼らのことを。
懐かしいあの世界に二度と戻ることは叶わないけれど――――
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――――寝ているときに見るものを「夢」っていうんだよ
そう教えてくれたのはセイ。
セイ=ガーナ=ヴィオラード、僕にとって何よりも大切な人。
「あれ……?」
ベッドの中、目を覚ました僕は自分の頬が濡れているのに気が付いて首を傾げた。
泣いた覚えなどないのだけれど……。
身体を起こして窓の外を見ると真っ暗で、起きるにはまだ早すぎる時間だった。
「……ヴィー?」
僕が動いたせいだろう。隣で寝ていたカルーシュが目を覚ましてしまったらしく声をかけてきた。僕の頬をカルーシュの暖かい手が優しく包み込む。
「泣いてたのか?」
そう心配そうに聞いてくるカルーシュに小さく首を横に振って答えた。
「……夢をみただけ。二度と戻ることが出来ない懐かしい場所の夢を…」
夢の中で誰かに呼ばれたような気がした。セイじゃない誰か。遠い昔、傍にいた懐かしい気配。
もう一度横になるためにもぞもぞっと布団の中にもぐりこむ僕をカルーシュが優しく抱きしめてくれた。僕はその暖かい腕の中で再び眠りへと落ちていった。
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