竜のみる夢 ※15禁
02
しばらくして落ち着いたオレは目のやり場に困ったこともあり着ていた外套を脱ぎ、脱いだ外套でリルヴィーシュの身体を包んだ。
その後、早速彼と「契約」するための交渉に入ることにした。
神獣リルヴィーシュとの契約
心躍るその響きに浸るオレにリルヴィーシュが問いかける。
「セイは「世界を救うために契約したい」と言った。あなたは何のために契約を望むの?」
それは思いがけない質問だった。
通常、呼び出した召喚獣との契約は一方的に行われる。契約することにより召喚者は召喚獣の力を自分のものとして使用し、従わせることが出来るようになるのである。
呼び出された召喚獣は当然支配されることなど望まないから、支配しようとする召喚者との間で闘いが起きる。
召喚者が勝てば契約した召喚獣を守護獣として使役しその力を得ることが出来る。
しかし、召喚獣が勝てば勝った召喚獣は野に放たれ、血の味を覚え、人々を襲う魔獣になる可能性が高いのである。
そして召喚者が負けた場合その命が生きながらえていることはほとんどない。
自らが呼び出した召喚獣に喰い尽くされてしまうからだ。召喚獣にとって魔力をもつ魔導師の身体はご馳走なのだ。
可愛らしい容姿につい和んでしまっていたが、相手は伝説の神獣なのだ。
言葉が通じるとはいえ怒らせればいくら天才魔導師のオレでも危ないだろう。危ないどころかひと飲みにされて終わりかもしれない。
だが、18年間恋焦がれた相手なのだ。しかもこんなに可愛いのに闘って無理やり契約する気になどならない。はじめっから支配する気などないのである。
触れたい、抱きしめたい、見つめられたい。
ある意味とても邪だが、それがオレが魔導師になった理由なのだからしょうがない。
ということで何処かの誰かのように「世界を救う」なんて大層なことは微塵も考えていないので思っていたことを素直に伝えることにした。
「初めて壁画に描かれた神獣リルヴィーシュを見たときからずっとずっと想い続けてたんだ。世界のどこかで眠り続けるという伝説の神獣を目覚めさせてその横に立つのはオレだ!って。だから傍にいたい、傍にいて欲しい。それがオレがおまえと契約したい理由だ」
なんか告白してるみたいだな。まあ似たようなものだけど。
リルヴィーシュへの想いを言葉にして一気にしゃべると、後はリルヴィーシュの返事をまってその反応をじっと見守る。
すこしばかりの沈黙の後リルヴィーシュが口を開いた。
心なしか顔が赤くなっているような気がするが気のせいだろうか。
「……あり…が…とう…」
小さな声だけど確かに聞こえたお礼の言葉にオレは一瞬明るい未来を想像して喜んだ。が、リルヴィーシュの次の言葉で一気にへこんだ。
「でも、ごめんなさい。まってるってセイと約束したから。だから他の人と契約することは出来ないの。……だけどあなたが望むのなら「契約」ではなく「絆」を結ぶことなら出来るよ。「契約」と違って主従関係ではなく「協力者」みたいな感じになるけど」
それでもいい? そういって小首を傾げる仕草が可愛らしい。
振られたと思って落ち込んでいたオレだが思いがけないリルヴィーシュの言葉に「絆を結ぶ」というのが具体的にどういうことをするのか聞いてみた。
互いの身体の一部の交換
それが返ってきた答えだった。
なんでもないことのようにさらりと返ってきた答えにオレは内心、戦々恐々だった。
一部ってのは右手と右手、とか左足と左足とか、そういうことなのか?
想像して後悔する。あまり痛い思いはしたくない…。
スプラッターな想像に青くなっているオレに、リルヴィーシュがくすくすと笑う。
「使うのは髪の毛一本で大丈夫」
なんだ、そんなのでいいのか。
安心したオレは自分の頭から一本髪の毛を抜くとリルヴィーシュに差し出した。
「オレはおまえの特別になりたい。だからおまえと「絆」を結びたい」
そういったオレから髪の毛を受け取ると、リルヴィーシュはそれを自分の左手首に巻きつけた。
すると次の瞬間不思議なことに手首に巻きつけた髪の毛が細い銀色のリングに形を変えその細い手首に嵌っていた。
リルヴィーシュは目を丸くするオレに構うことなく自分の髪の毛を一本抜くと、オレの左手首に巻きつけた。
リルヴィーシュの時と同じように巻きついた髪の毛が細いリングに変化する。先ほどと違うのは色だった。オレの左手首にあるのはリルヴィーシュの髪と同じ黒に見えるけど黒じゃない、深い深い闇色の深紅だ。
リングからリルヴィーシュの波動を感じる。
温かくてやさしいその波動にふと壁画で見た彼の瞳を思い出す。
優しいのにどこか哀しげだったその瞳。
無意識に言葉が唇から零れ落ちていた。
「リルヴィーシュ、オレと一緒に世界を旅してまわらないか?」
きょとんとして見上げてくるそのあどけない顔を見ながら続ける。
「オレはおまえと一緒に色んなところに行ってみたい。色んなものを見たい。色んな事をしたい。……セイ、…セイ=ガーナ=ヴィオラードを一緒に捜してもいい」
だから一緒に行こう。オレはそういうと彼の紅玉色の瞳を見つめた。
正直最後の言葉をいうのは辛かったけれど、一緒にいられるのならそれでもいいかと思った。
最初に名前を呼んだときに見せた嬉しそうに輝く笑顔はオレではなくセイ=ガーナ=ヴィオラードに向けられたものだと気付いていたから。
セイと同じ銀髪を見て、期待してしまったのだろう。
笑顔の後の落胆した哀しそうな顔を思い出すと胸が痛む。けれど今傍にいるのはオレなのだ。
伝説の英雄が現世に転生しているのかどうかは分からない。
いたとしてもやっと出会えたリルヴィーシュの隣の位置を、大人しく明け渡すつもりなどさらさらない。
こくりと頷くリルヴィーシュをそっと抱き寄せてその額に口付けを落としたオレは、その存在を確認するようにもう一度抱きしめた。
時間はたっぷりあるのだから、これから築いていけばいいだけのこと。
形だけではない本物の「絆」を――――
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