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竜のみる夢 ※15禁
間章01


ずっと、考えていた。

迎えに行く事が彼らにとって本当に幸せなのだろうかと―――。






「さて、この後どうする?」

イエンでの騒動の後、間もなく到着するであろう国から派遣された調査隊との接触を避けるため早々に町を離れる事にしたカルーシュ達。

リルヴィーシュの移動魔法で一気に大国カルバーンの北端、イエンとは真逆に位置する山間の街まで跳んだ一行はそこで宿を取りこれからどうするか話し合う事にした。

1階の食堂で遅い昼食を済ませ一息吐いた後、部屋に戻ったところで半ば答えを予想してそう問うたカルーシュに返ってきたのはやはり思った通りの答えだった。

「皆を迎えに行く」

固い決意を秘めたリルヴィーシュの眼差しにカルーシュはフッと笑みを浮かべると「分かった」とだけ返した。リルヴィーシュが行くというのなら自分も一緒に行くだけだ。

「で、場所は分かるのか?」

迎えに行こうにも目的地が判らなければ行きようがない。今までは行った先々で耳にした噂を元に動いていたようだがそれではそれこそ行き当たりばったり、大陸の端から虱潰しに捜すしかなく時間が掛かってしまう。

“召喚された獣たちを迎えに行く”という新たな目的が出来ただけで特別今までと変わる事は何もなく、多少時間が掛かっても構わないのではと思わない事もないのだが何せ相手は魔獣と守護獣である。

なかにはフェイリーンのようにどちらにも属さない者もいるかも知れないがどちらも厄介で、魔獣に関して言えば今現在も襲われ命を落としている者がいるかも知れず、正直出来る事なら今すぐにでもどうにかしたいと思う気持ちもある。

けれど“迎えに行く”事の意味を知っているカルーシュにはそれを口にする事は出来ない。

彼らを喚んだのはこの世界の人間なのだ。なのに自分達の手に負えないからと容易くその命を奪っていいのか。ましてそれをリルヴィーシュにやらせていいのか。

葛藤する心を胸の奥に押し込んでリルヴィーシュの答えを待つカルーシュの耳に届いたのは不思議そうに問うフェイリーンの声だった。

「迎えに行くのですか?」

何で?とでも言いたげに口にされた言葉にカルーシュの血管がピキリと音を立てる。

“リルヴィーシュを捕まえる”ただそのためだけに町ひとつ廃墟にした奴が同じ想いを持つであろう仲間を迎えに行く事を止めるのか。

思わず怒鳴りそうになったカルーシュの鋭い視線に気が付いているのかいないのか。微かに首を傾げたフェイリーンがリルヴィーシュに向けて続けた言葉はカルーシュにとって予想外のものだった。

「呼んだ方が早いのでは」

至極当然の事のようになされた提案に、「呼べるのか?」と視線を向けるカルーシュにリルヴィーシュは困ったように苦笑を浮かべてこくりと頷いた。

「呼べるけど…」

躊躇するように言葉を続けるリルヴィーシュの話はとんでもないものだった。

呼べる事は呼べる。自分の存在を隠している魔法を解き“此処にいる”と教えればいいのだから簡単だ。けれど気を解放したが最後、気が付いた彼らは一直線に駆けて来るだろう。途中にある町や村、障害物となる人や物、全てなぎ倒して。

あの子たちに他に気を遣う余裕はないと思う。そう言うリルヴィーシュの言葉に提案者であるフェイリーンは「そうでしょうね」と何でもない事のように同意する。

解っていて言ったのかとフェイリーンを睨むカルーシュはリルヴィーシュが自分の全てだと言い切る彼の事をまだよく理解していなかった。

フェイリーンにとって大切なのはリルヴィーシュただ一人。リルヴィーシュの望みが叶うのなら他がどうなろうと知った事ではないのだ。

「巻き込みたくないのですね」

頭の回転の速いフェイリーンは自分の問いにこくんと頷いたリルヴィーシュを見てあっさりと了承する。「分かりました」と答え、「では私が捜しましょう」と何でもない事のように言うフェイリーン。

勝手に進んでゆく話を聞きながらカルーシュは首を傾げた。周囲を巻き込みたくないから“呼ぶ”ことは出来ない。それは分かった。けれど「では」と言う言葉はどこに繋がるのだろう。まるでリルヴィーシュにも捜せるがそれでは何か問題があるとでもいうような言い方だ。

「ヴィーが捜すのは何か問題があるの?」

同じように疑問に思ったらしいレインの質問に返ってきたのはそんな事も解らないのかと馬鹿にしたような哂い。

フンと横を向いて答える気のないフェイリーンに変わって答えたのは申し訳なさそうに眉尻を下げたリルヴィーシュだった。

「あのね、範囲を特定してサーチを掛ける事は出来るの。でもその方法で捜すと魔法力の強い子には僕が捜してる事がばれちゃうの」

自分という存在をよく知る彼らの眼を欺く事は難しく、気付かれれば放たれた魔法の波動を辿ってその源へと一直線に駆けて来る。だから出来ないと、そう言うリルヴィーシュ。

「ようするにコイツに任せるしかないって事か」

コイツと言いながら気に入らないと敵意丸出しの視線をフェイリーンに向けるカルーシュにリルヴィーシュはにっこりと微笑んで頷いた。

「一緒に旅する仲間なんだから仲良く、ね?」

リルヴィーシュの言葉に「はい」と素直に応じるフェイリーンと憮然とした表情でそっぽを向きながらも渋々頷くカルーシュ。

気に食わない奴の力を借りるのは癪だし抵抗もあるが“利用する”と思えば我慢も出来る。リルヴィーシュに大陸中、下手をしたら点在する島々まで世界中を宛も無く捜させる事になるのを考えれば、己の矜持より現実を取るのも時には必要と自身に言い聞かせるカルーシュだった。



end




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あきゅろす。
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