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竜のみる夢 ※15禁
01


初めてそれを見たのは、オレが10歳のときだった。
母親に連れられて訪れた神殿。この世界を創造したとされる女神カルーアを奉るその神殿の奥には、世界を救ったといわれる英雄セイ=ガーナ=ヴィオラードと、彼を守護し共に世界を守ったといわれる神獣リルヴィーシュが描かれた壁画があった。

見た瞬間魅了された。一目ぼれといってもいいかもしれない。
巨大な体躯を包むのは黒と見まがうほどの闇より深い深紅の鱗。大きく広げた翼はその身体に見合った大きなもので今にも羽ばたいて壁画から飛び出してきそうである。

しかし何よりも惹き付けられたのはその瞳だった。
紅玉色の澄んだ瞳は愛おしそうに、けれどどこか哀しそうに隣に立つ銀髪の秀麗な男を見つめている。

その昔英雄セイ=ガーナ=ヴィオラードが永久の眠りについたとき哀しみのあまり共に眠りについたといわれている神獣リルヴィーシュ。
伝説ではかの神獣は今も世界の何処かで眠り続けているという。転生したセイ=ガーナ=ヴィオラードと再び出会うために。

壁画を見てすっかり神獣リルヴィーシュにほれ込んでしまったオレはその日、自分自身に誓った。
いつか必ず眠れる神獣を召喚し、セイ=ガーナ=ヴィオラードではなくこのオレ、カルーシュ=アスリーンこそがかの神獣の隣に立つのだと。

あれから18年、魔術の勉強を一から初め13歳にして天才魔導師と呼ばれ、28歳になった今、並ぶものなしといわれるオレはついに長年の夢を叶えることになるのである。







か、可愛い……
それが彼、リルヴィーシュを初めて見たときの感想だった。


目の前の床に裸でぺたんと座り込んでいる14〜15歳くらいの少年を見た瞬間、思わず「かわいい」と呟いていた。

腰まであるさらさらの髪は黒と見間違える程に深い深い闇色の深紅。紅玉色の大きな瞳。長い睫毛。桜色のふっくらとした唇。
成長しきれていない身体はとても華奢で、あどけない表情でオレを見つめていた。

これだけ可愛らしい容姿を見て何故少年だと思ったかといえば答えは単純である。
長い髪の隙間からのぞいているその胸がぺったんこだったからだ。

目の前の愛らしい生き物に見つめられ、状況を忘れしばし呆然としていたオレだが、自分の目的を思い出し深い深いため息を吐いた。

伝説の神獣リルヴィーシュを召喚したはずなのにどうやら失敗してしまったらしい。
落胆するオレをじっと見つめていた目の前の少年が不意に口を開いた。

「……セ…イ…?」

鈴を転がすような、とはこういう声のことだと思った。
容姿を裏切らないその愛らしい声に思わず聞き惚れる。

セイ? セイ=ガーナ=ヴィオラードのことか?
問いただそうとして少年の目を見た瞬間、その瞳の色がオレの中の何かに引っ掛かった。
幼い頃に一度だけみた壁画。描かれていた神獣リルヴィーシュ。
その瞳は目の前の少年と同じ鮮やかな紅玉色。それは人では持ち得ない瞳の色。

「………リルヴィーシュ、…なのか?」

思わずこぼれたオレの言葉に少年は一瞬嬉しそうに顔を輝かせたが、その笑顔はすぐに哀しげにゆがめられた。
転生した英雄セイ=ガーナ=ヴィオラードと再び出会うために、世界のどこかで眠り続けているといわれる神獣。
彼がリルヴィーシュだというのなら――――

「……あなたはセイではないんだね」

少年の唇から零れた声は、聞いているほうが辛くなるようなとても哀しい声だった。
なんだか「セイ」でない自分が悪いような気がして口を開くことが出来なかった。
彼が目を覚ましたときに傍にいて欲しかったのはたった一人の人。そしてそれはオレじゃない。
そう思い知らされ胸がとても苦しかった。

「僕を呼んだのはあなた?」

少年の穏やかな声音が問いかける。
たしかに召喚魔法を用いて彼を呼び出したのはオレだが、オレが呼んだのは神獣リルヴィーシュである。そして一般的に知られている神獣リルヴィーシュの姿は雄々しい竜の姿なのだ。
しかし、もしかしたら伝承には残されていないが、神獣ともなれば人の形をとることも出来るのかもしれない。
オレは先ず、彼がオレの求めるものなのかどうかを確認することにした。

「オレが呼んだのは伝説の神獣リルヴィーシュだ。おまえがリルヴィーシュなのか?」

あまりよろしいとはいえないオレの態度にも怒ることなく少年は頷いた。

「伝説、かどうかは知らないけれど僕の名前はリルヴィーシュだよ」

少年の肯定を聞いた瞬間、胸の奥からじわじわと喜びが溢れてくる。初めて壁画を見てから18年。想い続けたかの神獣が目の前にいるのだ。

「やっと会えた……ッ!」

感極まったオレは膝を付くと目の前の少年を抱きしめた。
吃驚したのだろう。
腕の中でしばらく固まっていたリルヴィーシュは、力を抜くとその手をそっとオレの背中に回し抱きしめ返してくれた。

思ってたのとは違う展開だが恋焦がれた伝説の神獣が目の前にいて、しかもそれがこんなに可愛らしい子供なのだからまあこれはこれで悪くないのかもしれない。




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