9:本気になれない理由。



Gossip Girl9:本気になれない理由。




学校帰り、図書館へ行く前にメトロポリタン美術館の階段でぼうっと座り込む。





(私もGossip Girlに取り上げられるなんて…)



アイビー・リーグでのガリ勉ビッチ事件。いくならなりすましだとは言え、正直最悪だった。寮仲間は笑い飛ばしてくれたけど、その後他の生徒たちからは白い目で見られ、チャックたちからは散々からかわれる日々。日本で言う2ch位にしか思っていなかったのは大間違いで。この「ゴシップ・ガール」の持つ影響力はTeenの間ではABCやCNNよりも偉大なのだ。



(誤報であってもネタ一つで友人関係、恋愛、進路でさえもぶち壊されてしまう…)



そう考えるとゾッとしてしまう。今まで日本の片隅でのんびり暮らしていた私にとって心を不安定にさせるには十分すぎるものだった。

飲み残したスタバのカップを拾おうとしたとき突然背後から…


??「ワッ!」

「わああああああ!」




驚いて肩をすくめた私の前に、にっこり笑うマークが回り込んで現れる。学校、パーティー以外の場所で偶然会うなんてなかったから違う意味でどきどきしてしまう。




「ま、マーク!!びっくりしたじゃん!!」

マーク「あはははっ、ナイスなリアクション!どうしたの、ボンヤリして」




マークは隣に腰をおろすと、膝の上で頬杖をつくような格好でこちらを見る。



「うん……ちょっとね」

マーク「アイビーでのゴシップ記事?」

「知ってるんだ……って、当たり前か」
 
マーク「一応は解決したみたいだけど‥やっぱり気になる?」

「こういうの慣れてなくて、居心地悪いっていうか……」

マーク「まあ、慣れなくていいと思うよ?」

「マークは……ずっと注目されてるから、そういうの慣れちゃった?」

マーク「慣れたわけじゃないけど、もう諦めてるって感じかな」

「そっか……」

マーク「いろいろ言うヤツもいると思うけど、俺はエリのあの記事、信じてなかったし」

「マーク…」

マーク「いや、ホントに。前に俺のイベントで将来のこと少し話したじゃん。その時から俺エリのことすごいな、って尊敬してるんだよ」


茶化しているかと思ってマークのほうを少し睨むように見ると、マークが真顔なことに私は驚いた。


マーク「エリはさ、自分で思ってるより能力だってあるし、ここに来るまですげー努力したんだよね。だからさ、もっと胸張っていいんじゃない?噂してるヤツに対して、どーよ、悔しかったら貴女も主席になってみなさい、ってね」




(マーク…)



誰かから自分の今まで頑張ってきたことを認めてもらえるのがこんなに嬉しいなんて…


「あはは、そんなこと言ったら、めっちゃ嫌な女になるじゃん。余計顰蹙かっちゃうわ」

マーク「いつもいい子でいる必要ない」

「…いい子なんかじゃないよ」

マーク「ああ、たしかにいい子ではないか。すぐに口答えするし」

「やだ、ひどい!」

マーク「冗談。エリは最高だよ」




(っ…!!)





全身が熱くなる。なんて返したらいいかわからずしどろもどろになっていると、マークがすっくと立ち上がり、私を見おろす。


マーク「ところで首席さん、ちょっとつきあって欲しいとこあるんだけど」

「ん、どこ?」

マーク「んー、どこでも」

「どこでも?」

マーク「俺とデートしない?忙しいならいいけど」

「……忙しくはない、かな」

マーク「じゃあ、決定」





(そういえば、こっち来てからずっと学校に慣れるのに必死で、こんな風にゆっくり街くのは久しぶりかも)





マークと二人、街を散策しながら、ふとそんなことを思った。ニューヨークの街のショーウィンドウは、どれも魅力的。ついつい目移りしてしまう。



「あ、あのバッグ可愛いー!」

マーク「いいね。入ってみる?」

「うん!」


マークはスマートにドアを開け、私を中へ通してくれる。




(スマートな仕草に優しい笑顔。本当にマークって完璧…)



「ありがと」


ふらっと立ち寄ったそのショップは、センスのいい個性的な商品が揃っていた。




(そんなに高くないし、嬉しいな。バイト代で払える!)




店内を歩いていると、マークがふと足を止める。


マーク「あ……」


そう言って手にとったワンピースに、私は目を奪われた。


「それ、すごくいい」

マーク「よね?エリ、似合いそう」

「ほんと?フィッティングしてみようかな」


早速、試してみると、着やすい上にボディラインも綺麗に見せてくれる。思わず頬がほころんだ私に、マークは言う。


マーク「お買い上げ、ありがとうございます」

「ひょっとして、このお店の回し者?」

マーク「バレた?」


マークとのショッピングはまるで女友達といるように気兼ねなく楽しめる。


「じゃあ店員さん、他にお勧めの商品はあるかしら」

マーク「次にお勧めしたい商品は、こちらでございます」


そういってマークが指したのは、シンプルだけど存在感のあるピアス。



(やだ、これも可愛い!!!)



「どうしてわかっちゃうの?!」

マーク「何が?」

「私の好み。さっきのワンピースもこのピアスもそう」

マーク「優秀な店員でしょ?」

「うん!」

マーク「エリ専属のコンシェルジュになってもいいよ」

「お願いしていい?普段は一人なんだけどショッピングの時はマークを誘いたいよ。日本にいる親友と買い物してるみたい」

マーク「……親友?」

「うん!それくらい気楽にいられるってこと。マークとの買い物楽しいもん」

マーク「俺はそんなつもりないんだけどな」

「え?」

マーク「バリバリ男としてここにいるんですけど?」


そういって、私の目をのぞき込む。




「……ま、マーク、私そういうの弱いの!あんまりいじめないで?」 

マーク「あははっ、可愛い!いじめたつもりなんてないんだけど……まあ、俺も楽しいからいっか」

マークはいたずらに微笑んだ。








「大丈夫よ、自分で持てるから」

マーク「いいの」


マークは私の買い物袋を持ってくれる


「なんか申し訳ないわ。私の買い物なのに…」

マーク「じゃあ、わかった。代わりに俺のリクエスト、きいてくれる?」

「もちろん!」

マーク「あれ……食べたい」




そういって視線を送った先には、アイスクリームスタンド。




「いいね!私も食べたい。いこいこっ」


スタンドへ進んでいき、メニューを見上げる。


「ね、どれにする?結構、ボリュームありそう」

マーク「1つだけ買って、2人で食べようか」

「了解!」


店員はサービスだといって、トッピングをプラスしてくれる。




「ありがとうございます!」



(わあああ、美味しそう!)



「マーク、お待たせ」


ビッグサイズのアイスカップを手に意気揚々と振り返ると、マークはどこか眩しそうにこちらを見ている。


「あれ……どうかした?」

マーク「ううん」

「ね、このキャラメルファッジ、サービスでつけてくれたよ」

マーク「お、ラッキー」

「じゃ、食べよ!」

マーク「……うん、すごく食べたいんだけど」

「あ……そっか!」


スプーンを2つ付けてもらったものの、マークの両手が塞がっていることに、いま気づいた。 


「マークがよければ食べさせてあげようか?」

マーク「ほんと?」

「うん……」

マーク「あーん」 
  

マークは甘えるように口を開けた。私は内心ドキドキしながら、マークの口元へアイスを運ぶ。アイスを食べたマークは瞼を閉じてにっこり微笑む。


マーク「んー、幸せ」


私も一口、アイスを食べてみる。


「わあ、美味しいね!これ大きいかと思ったけど、ペロッと食べられそう。いや、食べられる」

マーク「あはは……おかわりしていいよ」


仲良くアイスを食べあっていると、マークがボソッと言う。




マーク「なんか、感動」

「感動の味だよねー、」

マーク「いや、そうじゃなくて……」

「?」  

マーク「こういうデート、初めてかも」

「まーた、そんなこと言って」

マーク「ホントに。だって、道でアイス食べる女の子、周りにいなかったから」

「………すいませんね、アイスの欲望には勝てないわ」

マーク「あはは……」


1つのアイスを2人で食べながら、私たちは街を歩き始めた。


するとしばらくして、マークが両手に持っていた荷物を片手にまとめる。

「ん?」

マーク「手、つないでいい?」 

「えっ?!」

マーク「だめ?」

「ダメっていうか…」

マーク「嫌だった?ごめんね…」 

「(そんな大げさにショック受けたようにしなくても…!)はい、これあげるから」


そういってアイスを口へ運んであげると、マークはうんうんと頷く。

マーク「アイスは甘いけど、エリは甘くないか」

「アイスと私、プラマイゼロっていうことで」 

マーク「なるほどね」


そしてまたひと口スプーンですくって差しだすと、マークはすねたように口をつぐむ。





マーク「キャラメルファッジ多めにして。せめてもの慰めに」 

「りょうかーい」 


アイスを食べて歩きながら、逃げるように学校を出た時の落ち込んだ気分が、すっかり晴れていることに、私は気づいた。





(マークってやっぱり素敵な人。一緒にいるだけで笑顔になれる)





けれど、そんな私たちの姿をブレアに目撃されていることには、気づいていなかった。 








――1週間後


「もう最高!夢みたいだよ」


私は、まさに夢のようなその空間で、興奮を抑えきれないでいる。セリーナに誘われて、ニューヨーク・コレクションを観にきたのだ。


セリーナ「良かった。エリなら絶対喜んでくれると思ったんだ」

「ありがとう。ブレアも来てるんだよね?」

セリーナ「うん、仲のいい女優と一緒に来てるよ」





(さ、さすが。あらためて、別世界って感じ)




ショーの後には、さらなるビッグイベントが待っていた。



(こんなパーティー、初めて来たな)



関係者のに招待される、ファッションショーのパーティー。



(セリーナのおかげでこんなところにいるけど、一体どうしていいやら……)



私は地に足がつかないような気持ちで会場にいた。


セリーナ「あ、ちょっとゴメン。すぐに戻ってくるから」 


セリーナが知り合いに呼ばれて行き、一人で気後れしているとブレアが近づいてくる。




「ハイ、ブレア」

ブレア「ハイ、エリ。楽しんでる?」

「ちょっと緊張してるかな」
 
ブレア「それはいけないわ。私の友達を紹介するね。きっと仲良くなれるはず」


すると、ブレアに呼ばれた女性が振り返る。





(え……ウソでしょ!?)





それは、人気女優、キーラだった。


「初めまして、エリです…」

キーラ「キーラよ。どうぞよろしく」



キーラと握手をかわし、心臓が高鳴る。



(すっごく綺麗……!)



溜め息がでるような美しさに見惚れていると、隣でブレアがあきれたように笑う。


ブレア「どうしたの?宇宙人でも見るみたいに」

「私の大好きな女優のひとりよ!!日本にいた時からキーラの出てるドラマを借りて見てたの!ああ、もうどうしよう!!」

ブレア「大げさね。何か話したら?」



(ブレアはこういう世界に慣れてるんだろうけど……何を話していいかわからないな)



もじもじする私にニッコリ微笑みかけていたキーラが、ふと、会場のある一点を見て目を輝かせた。


キーラ「ハイ、マーク!」




(え?)




その視線の先を見ると、会場に入ってきたばかりのマークの姿が。




(マーク……)





キーラが叫んだその名前の主は、私の知っている、あのマークだった。





(……あ、そういえば)





いつだったか、マークの携帯にキーラという女性から着信があったことを思い出す。

キーラはマークに近づいていき、周囲の目をはばかることなくギュッと抱きついた。それは、どう見ても挨拶のハグには見えない。





(あの二人って……?)





口をぽかんと開けて見ていると、ふと、マークと目があう。咄嗟に目をそらした私を見て、ブレアがクスっと笑う。




ブレア「知らなかった?キーラはマークの彼女よ」

「……彼女?」





私はなぜか、胸に鈍い痛みを感じていた。






(こんなすごい彼女がいるのに、なんで私にデートしたいとか、手を繋ぎたいとか言ってきたの…?)





誰でも優しく、考え方もしっかりしているマークに私は惹かれていたのだけど…完全に「好き」になれない理由がわかった気がした。





To Be Continuted…







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