7:皆に優しいM
Gossip Girl 7:皆に優しいM
日本で話題の映画がこっちでは既に上映されているので、私は久々のオフをこの楽しみのために使おうと意気揚々とキャンパスの門をくぐった。
ちょうどその時、前にはマーク、アレックス、アイザックとお決まりのパーフェクトボーイズが歩いている。
(この三人って声かけるだけでも緊張しちゃうのよね…)
この前のキス・オンザ・リップスパーティーを思い出す。
アイザックとは正直気まずさしかないけれど、マークやアレックスにはお礼を言わないわけにはいかない。
無視されたらどうしよう‥などと要らないことを考えながら、渋々声をかけた。
「ハイ!この前はありがとうね」
マーク「ん、ああ!エリ、こちらこそ。風邪ひかなかった?」
「ええ、平気よ!…じ、じゃあ、またね」
(なんかアイザックの機嫌が…)
彼の機嫌が下がりつつあるのを実感し、足早に去ろうとつい早口でしゃべってしまう。
アレックス「何、お前急ぎ?」
早く会話を終えようとする私に気づいたのかアレックスは訝しげに私を見やる。
「あー、そうなの。ジョーンズが出したあの最新の映画あるじゃない?それを観に行こうと思って」
マーク「‥‥ふーん、エリって映画好きなの?」
いつも笑顔なのに何故だか真剣な眼差して聞いて来たマークに少し違和感を覚える。
「うん、大好きよ、ホラーやスプラッタは勘弁だけど」
マーク「…ふーん。そっかあ…。ねえ、ジョーンズの映画どう思う?」
「ジョーンズの…?」
急に漠然とした質問を投げかけられ戸惑ってしまった。けれど、好きな映画の話題だったし、あまり考えることなくベラベラと述べてしまう
「ジョーンズの作品は毎回広告が大々的で見る前からいつもワクワクしちゃうんだよね。作品自体も勧善懲悪系が多くてブルーの時によく借りて見てるの、」
マーク「…そうなんだ」
「でも、まあしょうがないんだろうけど、ちょっと政治色が強いのよね。愛国心を煽るような感じ?私としては納得いかないシーンが何点かあるわ、特に史実が絡むジャンルだと最悪ね。悪いけど見てられない!あと、あからさまにマイノリティを賛美するのも違和感しかないわ。それに比べたら……って」
マーク「へえ…最悪…。見てられない‥違和感しかない…か」
「あれ?、え?」
マークは突然吹き出したように笑い出すと、隣にいたアイザックやアレックスも大笑いし始めた。
(ど、どういうことなの?)
(偉そうに語りすぎちゃったかしら…)
ああ。私の悪い癖がでた。興味関心のある話になると思わず饒舌になってしまう。つい縮こまってしまうと、アレックスの思わぬ一言に凍りつく。
アレックス「ジョーンズ映画会社って…マークの家が経営してんだよ」
「ひっ」
マーク「そう、俺マーク・ジョーンズ。世間一般ではジョーンズ映画会社の跡取り息子らしいよ」
「‥‥えええええええ!!!!」
私の驚きにますます大爆笑する三人。
(あああ、またやらかした!)
「やだ、ま、マークごめんなさい、私偉そうにベラベラと…!!」
マーク「あはははっ!!いやいや、全然OKだよ、本当エリ面白い!」
いつもより笑顔のマークにほっとするも、穴があったら入りたかった。とりあえず謝罪しまくって逃げよう!未だに笑っている三人との別れ際、マークがこっそり私に告げる。
マーク「ねえ、エリ」
「あ、はいっ?」
(な、なんで敬語つかうのよ、わたし!!)
マーク「よかったら今週末俺が主催するイベント来てよ」
「イベント?」
マーク「うん、政治色強くないから大丈夫だよ、きっと楽しんでもらえると思う」
帰り際、完璧なほどの笑顔でマークはウィンクする。イベントとかって苦手なんだけどな…なんて断れるはずもなく。
罪悪感からか、返事一つで了解してしまった。
ーーーーー☆
マーク主催のクラブイベントの日がやってきた。クラブの前に続々と集まる着飾った男女たち。
(セリーナ、早く来ないかな……)
気おくれしながら入口で待っていると、聞き覚えのある声が私に向かって飛んでくる。
?「これはこれは、ビッチ二号」
(こ、この声は…)
顔を見ずともだいたい分かる。あからさまなため息をつき、声の方を見るとチャックとネイトが大人びたスーツに身を包んで立っている。
チャック「ご機嫌、麗しゅう」
「なによ、その呼び方やめてよね!!(というか一号は誰よ?)」
ネイト「チャック、エリが嫌がってるだろ?やあ、エリ」
「ハイ!ネイト、会えて嬉しいわ」
チャックには目もくれずネイトに向かってにっこり微笑む。
チャック「で、今回の狙いはマークか?マークにも手を出し始めたんだろ、お前」
「はあ?!」
チャック「今にでも『ゴシップ・ガール』のネタになる」
そういってシニカルに笑うと、じっと私の目をのぞきこむ。
(な、なに、ほんとにチャックって失礼、最悪だわ)
チャック「ふん、お前の目の奥の動揺が、すべて物語ってるな」
「チャックが急に近づくから拒否反応がでたのよ。人間の防衛本能!」
チャック「今更純情ぶんなって」
「だーかーらっー!!」
ネイト「もう、そのくらいにしよう、二人とも」
火花を散らす私たちの間にネイトが体を入れるようにして手を広げる。
ネイト「ところで、ここで誰かを待ってるの?」
「うん、セリーナと待ち合わせてて」
そう言った瞬間、ネイトの顔色が変わったような気がした。
ネイト「……セリーナ、来るんだ」
チャックがちらりと横目でネイトを見る。
(やっぱりネイトとセリーナって、何か訳ありっぽいな)
ネイト「じゃあ、エリ、あとで」
「うん」
お店に入っていく二人を見送ったところで、着信あり。セリーナからだ。
セリーナ『ごめん、エリ今日いけなくなっちゃったの。私の分も楽しんできて』
「ええー!!」
(セリーナが来ないんなら……帰ろうかな)
派手な出で立ちの客が次々とお店に吸い込まれていくのを眺めながら、小さく息をつく。
(やっぱり私には場違いな感じだし……サンデルのレポートやんなきゃいけないから戻ろうっと)
そんなことを思い、道を引き返し始めたその時、
?「どこへ行くの?」
その声に振り返ると、ブレアが取り巻きの女の子たちを従え、こちらを見据えている。
ブレア「始まるわよ、イベント」
「あの、実は」
言いかけた私の腕に、ブレアはスッと腕を滑り込ませる。そして強引に店へ向かって歩き出した。
「え、ちょっと!!」
ブレア「まさか、帰ろうとしてたわけじゃないわよね?」
「いや、そのまさ…」
ブレア「土曜の夜にブラックライトを浴びないで、いつ浴びるの?」
「……ブラックライトって??」
ブレア「あなたって、意外と面白い人ね」
言い返そうとした私の顔の前に、ブレアは携帯の画面を差し出した。それは、『ゴシップ・ガール』の例の記事。
「……あ、これはね」
ブレア「これで、ようやくこっちサイドに入れるわ」
(こっちサイド?ブレアの親衛隊に入れってこと?)
ブレア「あんた、マーク狙いなの?言っておくけどマークは無理よ」
「……え?」
ブレアは呆れたように笑いながら、私の手を引いてクラブへ入っていく。
(無理もなんも私そういうんじゃないし…!)
ブレアが言うような野心は微塵も持っていなかったけれど、何故か心がモヤモヤした。
☆
店の中へ入るとフロアは超満員で、イベントはすでに盛り上がりをみせている。ブレアはすぐに知り合いを見つけて、ハグをした後どこかへ行ってしまった。
「はぁ……」
溜め息をついていると、背後で盛り上がる人たちの動きに押し流される。
(わっ)
上背のある客の波にのまれ、右も左もわからない。大音量で流れる音楽に体を揺らす若い男女、お酒を片手に微笑むセクシーな大人たち。いろんな人の熱気が充満するその空間で、私はただ一人、腰がひけていた。
(いやいや、一人でくるべき場所じゃないでしょ、帰ろう。出口まで出るのに苦労しそうだけど……)
そう思った瞬間、
(……え?!)
人混みのなか、誰かに手を握られる。おそるおそる顔をあげると、そこにはマークの優しい笑顔。
「マーク!!」
張りつめていた緊張の糸が、ふっとほぐれた。
マーク「良かった、来てくれて。こっち」
マークは私の手を引いて、人の間をすり抜け進んでいく。
(こんな人混みで、よく私のこと見つけられたな……)
「ねえ、マーク」
マーク「ん?」
「よく見つけられたね」
マーク「え?」
音楽のボリュームが大きくて、声が聞こえなかったらしい。マークは少し足を止めて、私の顔の近くに耳を寄せた。
「よく見つけたね!こんな人混みのなか」
今度は聞こえたのか、マークはうんうんと頷いてから、何か言葉を返す。
「え?」
次は私が聞き取れない。すると、マークは私の耳元に顔を近づける。その距離の近さに、思わずドキッとしてしまう。
マーク「すぐに目に入ったよ」
そういってマークは、いつもと変わらないフランクな笑顔を向ける。
(やだ、こういうの照れる…)
私はマークに手を引かれ、スピーカーから離れた場所へ辿り着いた。
マーク「ここならさっきより話しやすいかも」
「うん」
ちょうど二人が立っている場所は、一段フロアから高くなっているのもあって、私はそこでようやく全体を見渡すことが出来た。広い店内には大小さまざまなスクリーンがあり、それぞれに趣の異なる映像が映し出されている。
「わあ、素敵……!」
目の前に開けた視野に、思わずそう漏らした。
マーク「ありがと」
マークは嬉しそうに目を細めて私を見る。
(あ、そうか。マークが主催者だからかな)
「これだけの映像集めるの、大変だったんじゃない?」
マーク「ああ、これ?」
「スクリーンいくつある?1、2……」
マーク「38だよ」
「えー、凄い!!だって、それぞれ、宇宙っぽいのだったり、自然だったり……あ、これってバスケの試合……?」
マーク「そう思うでしょ?でもよく見ると……」
「あ、料理が始まった!」
バスケットボールがゴールにシュートされた瞬間、ゴールポストから落ちてきたボールは割られた卵に変化し、フライパンの上に落とされるという映像だった。
「どこから集めてくるの?こういう映像大好き!」
マーク「集めたっていうか……作ったんだけどね」
「え?!」
マーク「ここで流してる映像、俺が作ったの」
マークはちょっと照れたように肩をすくめる。
「えええ!!すごいっ……!!」
あらためて、それらの映像を見る。
(マークって、やはりただ者じゃないって感じ)
ほとばしるようなその才能に、私は胸を打たれた。
「ずっと観ていたいよ。全部。わっ!私あの映像好き!見てみて!あっちの…!」
思わずはしゃいでしまう私をマークは優しい笑みでうんうんと、頷いてちゃんと聞いてくれる。騒がしい雰囲気なのに一つ一つ丁寧に説明してくれて、まるで二人だけの空間にいるようだった。
マーク「良かった。エリにはどうしても見せたかったんだよね」
「……私に?」
マークは映像を見ながら、やわらかく微笑む。
マーク「俺が好きな世界、きっとわかってくれると思ったから」
「……っ」
(なんだか、嬉しいような気恥ずかしいような……不思議な感じ)
マークのストレートな言葉に、心では喜んでいるのにうまく返す言葉が見つからない。
「マークの作品、もっと観たいな」
マーク「ほんと?いくらでもあるよ。よかったら、今度ぜひ」
「うん、是非!ねえ、こういう作品って、どうやって作ってるの?」
するとマークは、生き生きとした顔をして、細かく説明してくれる。エッジの効いた現代的な映像に、あえてフィルムで撮ったようなスクラッチノイズをあててみたりといった、遊び心のある作品が好きなんだそう。
マーク「って、こんなオタクっぽい話、楽しそうに聞いてくれるのエリくらいだよ」
「え、なんで?もっと聞きたいよ」
マーク「なら良かった」
マークは嬉しそうに笑った。
その時、マークに親しそうに男性が近づいた。
「ハイ、マーク!」
マーク「やあ、ベン!楽しんでる?」
ベン「久々に羽を伸ばしてるところさ」
マーク「エリ、紹介するよ。彼はベン。父さんの優秀な右腕」
ベン「それは買いかぶり過ぎだけど。マーク、むこうに会社のやつらも来てるんだ。一緒に飲まないか?」
マーク「ああ、あとでね」
マークと二人で話していると、いろんな人がマークに声をかけてくる。
マーク「エリ、さっきの話の続きだけどさ……」
友人「マーク!今回もクールなイベントだね」
マーク「ハイ、ローラ」
(ええ!あれってヤングセレブのローラ・クリスティンじゃん!超綺麗!!)
私の目は釘付けになる、こちらまでがバクバクしてしまうほどの美しさだった。ローラはマークの腕をそっとつかむ。
ローラ「あっちで飲んでるんだけど、来ない?」
マーク「ああ、あとでね」
肩をすくめると残念そうに去っていく。
(人気者のマークが私にかかりきりになってる感じ……?)
「マーク、私なら大丈夫だよ。友達のとこ行ってきて」
主催者なのにさっきからずっと私を気にかけてくれるマークに申し訳ない気持ちになる。するとマークは、疑うように冗談っぽく眉をひそめた。
マーク「ほんとに〜?」
「うん、素敵な時間をありがとう、だから大丈夫よ」
マーク「いや、俺がエリといたいから」
「…っ!!(こういうの弱いんだってば…)
はいはい、わかったから、行っていいよ」
マーク「なんか可愛げなくない?」
「気の利いたお返事できずに申し訳ありませーん」
マーク「口が減らないなー」
「そんなことないもん」
マーク「じゃあその減らず口で、さっきの続き、話さない?」
「…っ…いいけど」
マーク「……けど?」
「いいよ、ありがとう」
マークの一言一言が嬉しくて…、私は火照る頬をしずめるようにしながらも笑顔を返す。それにマークも暖かい笑顔で迎えてくれる。
マーク「いいけど、いいのね。よし、じゃあ、あそこで飲も」
マークはさりげなく私の手を引いて、カウンターの席へ連れて行った。二人、バーカウンターに腰をおろすと
マーク「何飲む?」
「ジンジャーエールにする」
マーク「じゃあ、俺も隣の優等生と同じので」
バーテンダーにそう告げると、マークは長い脚をもてあますようにして、体をこっちへ向けた。
マーク「エリってさ、映像とか前から興味あるの?」
「マークみたいに専門的なことはわからないけど、昔から好きだったよ。映像に限らず、美術とかデザインに興味あるんだよね」
マーク「将来はアーティスト?」
「いやいや、私、学者になりたいの。政治学者」
マーク「へえ、政治学者!!いいね、でもなんでまた?」
マークの驚いた表情があまりに可愛くてついドキドキしてしまう、普段ならはなさないことでもマークになら伝えたいと思った
「自分の得た知識が、人の命を救うことになればなって。学者になって論文を出すとするでしょ?それを読んだ人が少しでも今ある社会問題に目を向けて行動してくれたら…今よりもっと住みやすい社会になると思うの。常に既存の社会的構造に疑問を呈し続ける存在になりたいなって。」
バーテンダーが差しだしたジンジャーエールで、2人、乾杯すると、マークは呆気にとれれた表情で私を見る。
マーク「…アレックスやアイザックがエリに関心もつのがわかったよ」
「え?」
マーク「なんかさ、やっぱりエリはこの街の高校生っぽくないってこと。だって学校のみんな、今度のアイビー・ウィークのことで頭がいっぱいでしょ。それで将来のことを考えてる気になってる」
アイビー・リーグとは、アメリカ東部にある名門私立大8校からなる連盟のこと。
各大学の代表者が高校を訪問するアイビー・ウィーク。
なかでもその親睦会は、学生たちが自分をアピールする絶好の機会になると聞いた。
「私みたいにやりたいことが明確な人なんて珍しいんだと思う。それを見つけるために大学ってあるんじゃないかな。マークは、アイビー・リーグに進学しないの?」
マーク「どうかな」
「アイビーリーグに行くことによってマークの夢が叶うなら行くべきだし、そうじゃなかったら無理に行かなくていいと思うけど…ご両親の意志や社会的な建前とかもありそうだしね…って。なんかごめん、知ったかぶっちゃって」
マーク「……いや、本当にそう。エリの言う通りだよ…ほんと、困っちゃうよね‥」
マークは小さく苦笑しながらグラスを傾けた。将来についてか…この場ですべき話じゃなかったかもしれない。しんみりした空気に焦っていると、マークの隣に男性が掛けてきた
友人「よお、マーク!」
マーク「おっと、スティーブじゃないか。ハイ、元気?」
スティーブ「お隣の可愛い子、誰だよ。彼女?」
マーク「教えなーい」
スティーブ「えー?彼女じゃないんだったら紹介してもらおうと思ったのに」
マーク「そうだろうと思った。だから、教えない」
スティーブ「なんだよ、マークらしくないなあ、もったいぶって」
スティーブがマーク越しに微笑みかけてくる。
スティーブ「ハイ、マークの彼女。名前は?」
「エリよ。絶賛留学中。ちなみに彼女じゃないわ」
マーク「俺の彼女ってことにしておいたほうがスティーブに狙われずにすむのに」
スティーブ「エリ、俺の2番目の彼女にならない?この後デートとか」
マーク「ほら、めんどくさそうでしょ?」
スティーブ「大丈夫、二コールとはここへ来る前にデートしてきたから」
「お誘いありがとう、スティーブ。でも私、ダブルヘッダーはお断りよ」
スティーブは大げさに頭を抱える。
スティーブ「ははっ!マーク、今度の彼女は手強そうだな。これまでとはひと味違う」
そういってニヤッと笑った。
(マークってこれまでどんな彼女とつきあってきたんだろう?)
そんな疑問もわいてはきたけれど、マークを介すると、初対面のスティーブとも気兼ねなく話せていることに、なんだか嬉しくなる。マークとスティーブがまた軽妙なトークを始めたところで、セリーナからメールが届いた。
セリーナ『行けなくてホントごめんね。どう、楽しんでる?』
私はすぐに返信を打つ。
『楽しんでるよ。来てみて良かった。セリーナの言ったとおりだね』
送信し終えると、スティーブがマークに手をあげ、カウンターから去る。
マーク「ごめん、退屈させちゃったかな、」
「ううん、セリーナ。楽しんでる?ってメールきたから」
マーク「なんて返したの?」
「『最高!』って」
マーク「ははっ」
マークはちょっと嬉しそうにしながら、バーテンダーに飲み物のおかわりを注文し、私の方へ向き直るように体を向ける。
マーク「俺も」
「え?」
マーク「俺も今日、すっごく楽しい。エリに作品気にいってもらえて、嬉しかったし」
「ここにいるみんなも、気にいってると思うよ」
マーク「そうかな。みんな踊りに夢中だけど。まあ、どんな形であれ、楽しんでくれれば俺としてはハッピーなんだけどね」
「いつもみんなに好評だって聞いたよ。マークのイベント」
マーク「俺が雇った忍びの広報マン、いい仕事してるようだな」
「はははっ!」
それから、途中、何度もいろんな友人に声をかけられていたけれど、結局、マークはずっと私のそばにいてくれた。マークの気遣い一つ一つが嬉しくて…本当に今日来てよかったと実感した
☆
イベントは大盛況のうちに幕を閉じ、マークと2人、クラブの外に出る。
「ほんとに楽しかった。誘ってくれてありがとう」
マーク「こちらこそ、ありがとう。送ってくよ」
そう言ってマークはタクシーを拾おうとして、ハッと何かに気づく。
マーク「あれ?」
後ろのポケットを探ってから、頭をかいた。
マーク「やばい、携帯、店の中に忘れてきたみたい。ゴメン、ちょっと待ってて」
「うん、わかった」
一人、外でマークを待っていると、チャックとネイトとブレアがお揃いで登場。
ブレア「エリじゃない」
ネイト「どうしたの?こんなところで」
「マークが携帯を取りにお店に戻ってるから、待ってるの」
ブレア「ほんとに携帯を取りに戻ったのかしら?」
「……え?」
ブレア「他の子と約束があったんじゃない?」
チャック「今頃、誰もいないクラブでよろしくやってるかもな」
「ま、マークはそんな人じゃ…!」
チャック「ついこないだ現れたばかりの転校生に、マークの何がわかるっていうんだ?」
(確かに……何も知らないけど)
ネイト「チャック、そうつっかかるなよ」
ブレア「もう行きましょ」
チャック「未来の夫人になったつもりのところ悪いが、教えてやろう。お前はマークに遊ばれてるだけだ」
「は?遊ばれてるも何も、ただの友達だから!」
チャック「ふん」
ネイト「エリ、ごめん。チャック飲み過ぎみたいで」
ネイトは私にそう言って、チャックの肩に手を回して連れ去っていく。歩く3人の背中をぼうっと見送っていると、チャックは途中でうざったそうにネイトの手をふりほどいた。
(遊ばれてるって……ずいぶんな言い方よね)
チャックに腹をたてながらも、私は心のどこかでショックを受けている自分に気づく。彼は女の子全員に優しい。決して傷つけない。その部分に惹かれたっていうのに…
(……確かに、私はマークのこと、ほんの少ししか知らない。マークが優しいから一緒にいてくれてるだけなのに、ちょっと知ったような気になってたかも)
マーク「エリ、ごめんごめん」
携帯電話を手に戻ってきたマークは、私の顔を見て少し不思議そうにする。
マーク「……どうした?」
「ううん!なんでもないよ」
つい上ずった声で答えてしまう。動揺しているのがバレちゃう…。必死に隠すように笑みを向けたのだが、それでもマークは心配げに私の目を見ている。心を読まれまいと、私はちょうど通過しようとするタクシーに手をあげた。
マーク「そんなの俺がやるのに……俺といる時は、エリはタクシーに手をあげなくていいよ」
そう言ってタクシーのドアを開け、私を中へ促した。
タクシーに乗ってからも、チャックの言葉が私の頭の中でリフレインしている。
(『遊ばれてる』だなんて……だいたいそんなヒドイことする人に見えないし。それに、そもそも私のこと女としてなんて……)
マーク「……っていうのがスティーブとの出会いなんだよね……あれ?エリ?」
「えっ!?」
マーク「上の空って感じだったけど……?」
「う、ううん、聞いてたよ。ええと、スティーブ。スティーブの話だよね」
マーク「そう、スティーブがホットドッグ早食いチャンピオンになったって話」
「すごいよねー、スティーブ」
マーク「……彼、ベジタリアンだけどね」
「え……やだ、ご、ごめんなさいっ」
マークの罠にまんまと引っ掛かった。
マーク「クラブの中じゃ楽しそうに見えたんだけど……急に元気なくなっちゃったな」
「!ううん、そんなこと、ないよ!」
マーク「……ならいいけど。何か悩みがあるんなら、俺でよければいつでも聞くから」
「うん……ありがと」
マークの優しさが、私の胸をしめつけた。
(今日ずっと一緒にいてもらって浮かれていたのかも…私だけが特別なんじゃないのにって…私なに考えてるんだろ、)
せっかくの最高の時間を必死に保とうと邪念をかき消してマークの話を聞き入った。
To Be Continuted…
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