5:Jからの SOS



Gossip Girl5:Jからの SOS


いよいよキス・オン・ザ・リップス・パーティーの日がやってきた。
同室のラーナにパーティーに行くと話したら、えらく張り切って寮仲間を私たちの部屋に連れてきた。そこでガンガン音楽を鳴らしながら私がセレクトしたバッグやアクセサリーのチェック、ネイル、ヘアメイクまで全て手伝ってくれたのだ。


ラーナ「素敵!よく似合ってるわ!」

レベッカ「最高にsweet!!それにエスコートがアレックスなんて!」


きゃあきゃあとはしゃぐ寮の仲間たち。因みに彼女たちは皆大学生の彼氏持ち。しかも全員アイビーリーグというハイスペックさ。なので私がパーティに行くといっても妬むことなく協力してくれたのだった。



(本当、最高の仲間だわ!!)



ラーナ「とりあえず、チャックよね。あいつ本当どうしようもなくて有名なんだから!変なことされそうになったらすぐアレックスにしがみつくのよ」

ジュリー「あとアイザックにも違う意味で注意!彼昔ね…」

ケイト「ジュリー!それは今言う事じゃないわ」


…アイザック?ああ、パレスホテルでコーヒーかけられた時一緒にいた彼か。ケイトがジュリーの言葉を制する。その続きが気になったが、時刻を見ると丁度8時を指していた。そろそろかな、と思った瞬間、玄関のチャイムが鳴る。


ラーナ「来たわ!!来た来た来た!!」


私以上に興奮しているラーナを押しのけてレベッカがふんわりカールの髪を手櫛で整えると皆に向かってシーっとウィンクし、ゆっくりとドアをあけた。


「ありがとう、皆!」

ラーナ「12時が門限。まるでシンデレラね」


にっこり笑う私に向かって皆が一斉に吹き出して笑うときゃあきゃあと騒ぎ立てて送り出してくれた。







寮の前に待っていたのは、シンデレラのカボチャの馬車ではなく、指紋ひとつなく完璧に磨かれたシルバーのリムジンと、名前しか知らない王子様だった。


アレックス「どうぞ」


アレックスがごく自然に私の手を取る。


「あ、ありがとう」


アレックスにエスコートされて、私はリムジンに乗り込むとゆっくり走り出す。アレックスはゆったりとシートにもたれ、黙って前を見ている。



(め、めっちゃ気まずい…なんか話題、話題)



「あの、どうして私なんかを誘ってくれたの?」

アレックス「別に深い意味はない」


アレックスはさらっと答える。おいおい、深い意味はないって…!返答に困る返しをしないでもらいたい。


アレックス「強いて言えば、たまには日本料理を食うのもいいかな……ってね」

「日本料理?」


何故そこで日本料理?アレックスは少し目を細めて、私を品定めするように見る。


アレックス「まさか、パーティーに行くだけで終わり…なんて、思ってないよね?」

「え?それって……」




(日本料理を食べる…って)




意味を理解したのと同時に急に距離が近くなる。すっとアレックスの手が伸びてきて、私の顎をくいっと持ち上げた。


アレックス「今日は最後まで付き合ってもらうから」

「……!私、そんなつもりで来たんじゃ……」


かっと熱が上がる私に、アレックスはふっと鼻で笑う。


アレックス「俺のこと、誰だかわかってるよな?」

「えっ?」


アレックスは薄く笑いながら私を見ている。その姿を見ていると、今日のパーティを少しでも楽しみにしていた気持ちが裏切られた気がして悲しくなってきた。それと同時に興ざめする心。


「…すいませーん!車を止めて頂けます?私、ここで降りるから」


驚くアレックスを余所に、どうせ聞こえないだろうけど、大きな声で運転席の方に呼び掛ける。


「そんなつもりで来たんじゃないの、私。お互い求めるパートナーが違ったみたいね、早く気付けてよかったわ」

アレックス「おい……」

「知的に劣る男ほど性的な面で優位に立とうとするのよね。『王子』だなんて言われているから、もっとマシな人かと思っていたわ。あなたんとこの国民じゃなくて本当によかった!」
 

すがすがしいほどの笑顔と軽蔑の視線をアレックスにかます。アレックスはしばらく私の顔を見つめ、やがてふっと笑いだした。


アレックス「くくっ、俺にはむかう女なんてお前が初めて」

「は?」

アレックス「さっきのは冗談。からかっただけ。俺はそんなに飢えてねーから」

「え?」



(からかってたって!な、な、なんでそんな!!)



これでも一応マジギレしてしまったので非常に恥ずかしくて俯いてしまう。


アレックス「悪かったよ。確かめてみたかったんだ、俺の目が正しいかどうかを」

「た、確かめる?」

アレックス「ああ」


アレックスは私の目を覗き込むようにして言う。


アレックス「あんたは、アッパーイーストの奴らとは違う、まともな女だ。俺の目に狂いはなかった」

「なにそれ。全然嬉しくない」


アレックスにまっすぐ見つめられて、私は思わず、目をそらしてしまう。


アレックス「パーティーには付き合ってくれ。せっかくの素敵なドレスを披露しないで帰るのは、もったいないだろ?」

「……わかったわ」


ふと送り出してくれた皆の顔が浮かび、胸がきゅっとせつなくなる。あんなに馬鹿騒ぎして5分も経たずに帰宅ってのもどうかと思うし…。私がうなずくと、アレックスは小さく微笑んだ。








ナイトクラブが入っている建物に着きリムジンを降りると、マークとアイザックが近寄ってくる。


マーク「遅かったじゃん」

アレックス「なんだ。先に入ってればよかったのに」


どうやら2人とはここで待ち合わせをしていたらしい。

マーク「ハイ、エリ!今日は一段ときれいだね。そのドレス、すごく似合ってる」


マークがいつもの明るいノリで言う。

「ありがとう。マークも素敵よ」

マーク「ははっ、ありがとう。キミってほんと最高。ねぇ、アイザック?」

アイザック「さあな……」 


アイザックはちらっと私を見て、すぐに目をそらす。
パレスホテルで会った時以来面と会話をしていなかったので私の方も彼に対してちょっと構えてしまう。


アレックス「さ、行きますか」


アレックスの声を合図に私たちは会場へと入った。




「うわぁ……!!」

クラブにつくなり、私は思わず小さく声を上げてしまう。アップテンポの音楽に合わせて、めまぐるしく変わる照明。店内はすでにたくさんの人で身動きもとれないほどになっていた。ブレアがこちらに気づいて近づいてくる。


ブレア「ハイ!みんな」

マーク「ハイ、ブレア」

アレックス「なかなか盛況だね」

ブレア「ありがとう」

アイザック「アッパーイーストにはこんなに暇人がいるんだな」

ブレア「あなたもその1人でしょ?アイザック」


ブレアが私の方を見る。


ブレア「あなたも来たんだ……」

「お招きありがとう」


厭味ったらしい程の笑顔で返すと、ブレアは私の頭の先からつま先まで素早く視線を走らせる。




(もしかしてファッションチェック?)




ブレア「ふーん」


どうやら「一応は合格」ということらしい。




(面倒な女だな、こいつ。別に人が何着てたっていいじゃん)




私は心の中で寮のみんなにお礼を述べつつも、ぶつぶつ文句を並べる。


ブレア「奥にあなたたちの席があるわ」

マーク「それはどうも」

ブレア「じゃ、楽しんでいってね」


去って行くブレアを見送って、私たちは人の間をすり抜けるようにして店の奥へと移動する。


??「エリ!」




名前を呼ばれて振り返ると、ジェニーが駆け寄ってきた


ジェニー「すごいパーティーだよねー!」


ジェニーは両手で私の手をつかんで、ぴょんぴょん飛び跳ねるようにして言う。


ジェニー「こんなパーティーに来れるなんて、信じらんない。もう夢みたい!」


彼女はすっかり舞い上がってるみたいだ。


アイザック「行くぞ」


アイザックがマークにそう言って、さっさと歩き出す。


アレックス「じゃあ、俺たち先に行くから」

「あ、うん」

マーク「ジェニーだっけ?」

ジェニー「え?ええ」

マーク「よかったら、キミも後で俺たちの席においでよ」

ジェニー「ほんと?ありがとう!」

マーク「じゃあ、待ってるから」


マークは私にもにっこり笑って見せてから、アレックスたちの後を追って奥の席へ行ってしまった。





ジェニー「やっぱりマークって、すごいね」

「え?」

ジェニー「この前、階段のところで1回会っただけなのに、ちゃんと私の名前覚えてる。そういうマメなところがモテる理由なのかな」

「彼ってそんなにモテるんだ、モテそうなのはわかってたけど」

ジェニー「うん、有名だよ!あ、そうそう、それより、聞いて、聞いて!」

「なに?」

ジェニー「うちのお兄ちゃん、覚えてるでしょ?」

「もちろん!ダンでしょ?」

ジェニー「そう。彼、なんと、今日、デートなの。しかも相手は……セリーナ!!」

「え?!そうなんだ!」

ジェニー「一緒にライブに行くって。うちのパパのライブ」

「パパ?え?あなたたちのパパって、ミュージシャンなの?」

ジェニー「リンカーン・ホークてバンドやってるの。ローリングストーン誌が選ぶ忘れられた90年代のバンド第9位。微妙だよね」

「リンカーン・ホークって……知ってるよ、私!」

ジェニー「ホント?」

「日本に何回か公演してるよね?友達めっちゃファンだもん!」

ジェニー「日本にもファンがいたなんて、パパが聞いたら泣いて喜ぶよ」

「友達驚くだろうな。リンカーン・ホークのメンバーの子供と友達になったなんて言ったら」


私たちは顔を見合わせて笑う。


「で、どうする?みんなの席に行く?」

ジェニー「うーん、私、もうちょっと、フロアのこの雰囲気楽しみたいから、後で……」

「わかった。じゃ」


ジェニーと別れ、私は奥の席へ向かう。


女の子「ねえ、ちょっと」

不意に女の子が私の肩をつかんだ。


「はい?」


少し酔っ払っているようで顔が赤い。


女の子「あんたがマークの新しい女?」

「えっ!?」

女の子「どうやってマークをたらし込んだの?」

「ちょ、ちょっと待って……」




(いきなりなんなの!!血走った眼が余計に恐い!)




マーク「メイシー!」


マークが私と彼女の間に割って入る。


マーク「なに、やってんの?」

メイシー「マーク、この女なの?あなたが日本で会った運命の女って言うのは」

マーク「え?あ、ああ……」


メイシーは携帯を取りだし、メール画面を開く。


メイシー「『日本で運命の女性に出会った。だから、もうキミとは付き合えない。今まで楽しかったよ、さようなら』……こんなメールひとつで、終わりにできると思う?」


メイシーは目に涙を浮かべて、マークの顔を見つめる。


マーク「仕方ないよ」




(えええ!なんてあっさり!)



驚愕する私を余所にマークは清々しい口調で答える。


マーク「キミと俺とはこうなる運命だったんだから。運命には逆らえない」

メイシー「運命……」

マーク「ほら、涙を拭いて」


マークはハンカチを出して、メイシーに渡す。


マーク「メイシー、キミは最高の女だよ。ほら、フロアを見なよ」


メイシーは言われるがまま、ダンスフロアを見る。


マーク「キミと恋に落ちたいと思ってる男たちが、ほら、あんなにいっぱいいるじゃん。俺みたいなつまんない男にこだわってないで、一歩踏み出さなきゃ」

メイシー「私……」

マーク「ほら……」


マークが軽く背中を押すと、メイシーはふらふらとダンスフロアへと進んで行き、
すぐに話しかけてきた男の子と一緒に踊り始めた。


マーク「やれやれ」 


マークは軽くため息をついてから、笑顔で私を見る。


マーク「ごめんね。迷惑掛けて」

「本当勘弁してよね。一瞬、中国人か韓国人の振りをしようとしたわ。」 


いたずらに笑いかけると、ごめんごめんとマークもふっと笑ってくれた。


マーク「さ、席は向こうだよ」


マークはさりげなく私の腰に手を回して、席へとエスコートしてくれる。




(こういうことが自然にできちゃうのも、女の子を誤解させる原因かもね、ま、マーク恐ろしい子!!)






マークと私が合流すると、アイザックが飲み物を取りに行ってくれた。戻ってきた彼が私に尋ねる。


アイザック「さっき、話してた子、新入生か?」

「ジェニー?ええ、そうよ」

アイザック「向こうのフロアで、チャックとべったり踊ってた」

「げっ!!チャックと?」

アレックス「そりゃ、まずいな」

マーク「チャックの今日の獲物か」

「ちょっと待って!それって、」

アレックス「チャックの女癖の悪さは有名だから」

マーク「女とみれば、手当たり次第、見境なし」

アイザック「それはおまえと同じだな」

マーク「おい!」




私は慌てて席から立ち上がる。


アレックス「どうした?」

「ジェニーを探してくる」

アレックス「は?」

マーク「そこまでしなくても……」

「でも性悪チャックにジェニーが犠牲になるなんて!!」


不意にフロアがざわつく。店に入ってきたのはセリーナとダンだった。「セリーナよ」「呼ばれてもいないのに、パーティーに?」などど、みんなが口々にささやき合う。セリーナたちは誰かを探すように、あたりをきょろきょろと見回した。




「セリーナ!ダン!」


私は2人のところに駆け寄った


セリーナ「ジェニーを見なかった?」

ダン「あいつからSOSのメールが来たんだ」

「SOSって、やっぱりチャックが?」

セリーナ「見たの?」

「アイザックが言ってたの」

セリーナ「急いで探さなきゃ」

ダン「ああ」

「私も一緒に探すわ」

セリーナ「ありがとう」


フロアを探し回ったけれど、ジェニーの姿はない。セリーナとダンも姿が見えなくなってしまった。



(ど、どうしよう……)


フロアに立ちすくんでいると、アレックスとマークとアイザックが近寄ってくる。


アレックス「どこにもいないな」


どうやら3人ともジェニーを探してくれていたようだ。なんだかんだいってこの人たちも心配してくれてるのかな、なんて思う。



「もう、お店を出たとか?」

マーク「もしかしたら、上かも」

「上?」

マーク「奥の階段を上ると、屋上に出られる。この店で女の子と2人っきりになれる場所って言ったら、そこぐらいかな」

アレックス「さすが、詳しいな」 

マーク「どうも」


私たちは急いで階段へと向かう。







屋上のドアを開けると、ダンがジェニーの肩を抱くようにして歩いてきた。


「ジェニー、大丈夫?」

ジェニー「平気」


ジェニーは笑顔を作ってみせる。何か言い争う声が聞こえてくる。


セリーナ「チャック、2度とジェニーに触んないで!」

チャック「おまえはもう終わりだ、クソ女!俺は全部知ってるんだからな!」


セリーナはチャックに背を向けて、歩いてくる。


「セリーナ」


セリーナははっとしたように顔を上げる。


セリーナ「ジェニーを送ってくる。また、連絡するね」

「うん」


私はセリーナを見送った。



チャック「なんだ、おまえは」


チャックが私をにらみつける。どうやら殴られたらしく、頬がはれ、口の端には血がにじんでいる。


チャック「もしかして、おまえがセリーナにチクったのか?」

「えっ?」


思わず私の顔がゆがむと、チャックが私に詰め寄ろうとする。


アレックス「止めろ。彼女は俺の連れだ」

チャック「『王子』の?」

アイザックがすかさずチャックと私の間に入り込んだ。

アイザック「おいおい。しばらく見ない間に、随分いい男になったな、チャック」

チャック「くっ」


チャックは殴られた頬を手で隠す。


マーク「早く冷やした方がいいんじゃない?その顔じゃ、この店のドレスコードに引っかかるよ」

チャック「黙れ!」


チャックは私たちを押しのけるようにして去って行く。



(なんなの、あいつ!!)




マーク「さあて、飲み直しますか」

マークに促されて、私たちは席に戻った。





私は席を離れて、ひとりぼんやりと賑やかなダンスフロアを眺める。さっきのジェニーの騒ぎなどなかったかのように、陽気に盛り上がる人たち。ふと、さっきチャックがセリーナに言った言葉を思い出す。



(チャック「おまえはもう終わりだ、クソ女!俺は全部知ってるんだからな!」)



セリーナは誰もが羨む完璧な女の子。でも、もしかしたらセリーナは何か秘密を抱えて、ひとりで苦しんでいるのかもしれない。



(彼女だけじゃなく、ここで楽しそうに踊っている人たちもみんな……。

煌びやかに見える世界。だけど人間の本質なんて一緒なのかも。)



気づくともう11時を過ぎていた。



(やば、そろそろ帰らないと……)




ちらりと携帯で時刻を確認する‥




?「帰るんだったら、送って行く」




その声に私はゆっくりと振り返った。




…To Be Continued





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