4:セレブの招待状
Gossip Girl4:セレブの招待状
私の寮からコンスタンス・ビラード学園までは歩いて10分もないぐらい。なんと新学期の前日に寮長が帰ってきたので、漸く偽セレブ生活にも終止符を打つことになった。
さらば!パレス・ホテル!
寮生活は、ルームメイトとなったラーナとも好きなバンドが共通していることもあり、直ぐに打ち解けることができた。しかもみんな本当に明るくパワフルで友達想いの子が多い。数日間の偽セレブ生活で人間不信に陥っていたので、ナーバスな気持ちを打ち消してくれる程、毎日が楽しくなった。
寮生活と学校生活、それに日本料理店でアルバイトもすることになってるし、これから頑張らなきゃ!出会いを大切にね。
私はカバンを抱え直して、校門へと入っていった。
(‥‥学校でセリーナに会えるといいな)
☆
午前中のクラスを終えて、私はかなりぐったりしながら校舎を出る。覚悟はしていたけれど、ネイティブの英語での授業について行くのはかなりハードだ。会話ならなんとなくわかるけど、授業となれば話は別。英単語覚えないと化学や物理なんてやっていけない‥
でも弱音は吐かない。
私は入学試験を完答し、特待生としてこの学園にきた。そのため、月々の入学金のみならず寮での生活費まで無利子の奨学制度を受けている。
絶対成績は落とせないのだ。
ジェニー「あ、エリ!」
名前を呼ばれて振り向くと、ジェニーが駆け寄ってくる。
ジェニー「制服、似合うじゃん」
「ジェニー!!!、わあ!ありがとう!会えて嬉しいよ!」
ジェニー「どう、クラスは?やっていけそう?」
「うーん。なかなか厳しい……でも頑張るよ!」
ジェニー「まあまあ。すぐ慣れるって」
私はふとジェニーが持っている赤い封筒の束に視線を向ける。
「わあ、綺麗な封筒だね」
ジェニー「これ?」
封筒の表にはきれいなカリグラフィーで宛名が書かれていた。
ジェニー「キス・オン・ザ・リップスっていうパーティーの招待状。宛名書き全部やったら、私も行っていいって言われて……」
「え?これ全部、ジェニーが書いたの?すごい…」
封筒は100通以上ある。全部の宛名書きするのは、かなりの重労働のはず。
(うーん。完璧パシリじゃん…)
ジェニー「私みたいな庶民派の新入生がイケてるパーティーに潜り込むにはこれぐらいするしかないの」
「そ、そうなんだ……」
(お、恐ろしい世界だ)
ジェニー「あ!」
誰かを見つけたジェニーが階段を上がっていく。
ジェニー「ブレア!」
(え!?)
階段にはブレアが他の友達と一緒に座っていた。みんな輝くように綺麗な子ばかりで、スカートから伸びるスラッとした足に女の私でも思わず見入ってしまう。ブレアが私に気づいたようだ。
ブレア「あなた、うちの学校に入ったんだ?」
(正直、あんま関わりたくないな…)
「うん、よろしく」
ブレア「ふーん」
ブレアはくるりとジェニーの方に向き直って聞く。
ブレア「できたの?」
ジェニー「ええ」
ジェニーが封筒の束をブレアに渡す。宛名書きはブレアに頼まれたものらしい。
ブレア「悪くないじゃん。じゃ、一枚あげる。約束どおり」
ジェニー「ありがとう」
ジェニーはブレアが差し出した招待状をうれしそうに受け取る。
(パーティーって、そんなにみんな行きたいものなんだ…)
ブレア「まさか、あなたもパーティーに来たいとか?」
「え?私は別に……」
ブレア「そうよね。あなた、パーティーには向いてなさそう。場違いな人に来られると、パーティーの雰囲気、壊れるのよね」
「あはは…」
(誘われたってこっちから願い下げよ!!)
言葉を喉元に留めながら私はブレアを見る。
(私、彼女にかなり嫌われてるみたい……)
??「あれ?エリ?」
「え?」
名前を呼ばれて、私は振り返る。そこに立っていたのはマーク。隣にはアレックスとアイザックの姿も。
マーク「そっかー、キミもコンスタンスなんだ」
「えっ?マーク?」
私は改めて3人の姿を眺める。3人ともブレザーに赤のストライプのネクタイ。
コンスタンス・ビラード校と同じ敷地内にある男子校…セント・ジュード学園の制服だ。
ブレア「ちょうどよかった。はい、これ」
ブレアがパーティーの招待状を3人に渡す。
アレックス「キス・オン・ザ・リップス……」
アイザック「パーティーか」
ブレア「最高にイケてるパーティー。今週の土曜日だから、来てね」
マーク「エリも来るの?」
マークが私に聞く。
「え?あ、私は……」
ブレア「彼女はパーティーに興味がないみたい」
ブレアが遮るように言う。
マーク「興味、ないんだ?」
「え?あの……」
マークだけじゃなく、アイザックやアレックスもじっと私を見る。
「どっちでもない……って言うか、よくわからない」
アイザック「わからない?」
「日本にはあんまりこういうパーティーの習慣ってないから」
アレックス「ふーん」
「高校生がクラブ貸し切りにしてパーティーって、ちょっとびっくり」
ブレア「へぇー、つまんないのね、日本の高校生って」
マーク「そっかー。そうだよねー、わからないんだったら、体験してみるしかないよね」
にっこり笑ったマークが『キス・オン・ザ・リップス』の招待状をぴらぴらと振ってみせる。
「で、でも、私は呼ばれてないから‥皆で楽しんできて!」
アレックス「呼ばれてない?」
アレックスがちらっとブレアの顔を見る。
ブレア「招待状、彼女の分はないのよ」
ブレアは悪びれる様子もなく言う。
ブレア「パーティーの招待客リスト作ったの、もうずいぶん前だから。残念ねー。もう少し早く知り合っていたら、あなたの分の招待状も準備したんだけど」
「ありがとう。気にしないで」
(だから、こっちから願い下げだっての!!)
私はなんとか笑顔を作って返事をする。
マーク「『招待状が無いから』なんて堅苦しいこと言わないで、彼女も呼んであげればいいじゃん」
(ま、マーク!余計なことはいいから!)
ブレア「そういう訳にはいかないわ。『キス・オン・ザ・リップス』は選ばれた人間しか来られない、特別なパーティーなの」
アイザック「ブレア女王様に選ばれた人間だけが、参加できるって訳か。たいそうなことだな」
嫌味っぽく言うアイザックをブレアは軽くにらむ。
アレックス「エリだっけ?」
「は、はいっ?」
突然呼ばれた名前に肩をびくっとさせてしまう。青い透き通ったブルーの瞳。まるで本当の王子様みたい…
アレックス「俺の同伴者ってことで、参加してみれば?」
「え!?同伴者?」
ブレア「ちょっと、アレックス!!」
アレックス「何?何か問題ある?俺がパーティーに誰を同伴しようと自由だろ?」
ブレア「そ、それは……」
口ごもるブレアを見て、マークが楽しそうに笑う。
マーク「最高だね、アレックス」
アイザック「さすがのブレア女王様も、王子が選ぶ相手には文句は言えないよな」
ブレア「……」
ブレアは顔を引きつらせたまま、何も言わない。アレックスは私の顔を見る。
アレックス「っていうことで、話は決まりだな」
「ちょっと待って、それってつまり…」
アレックス「は?」
「私、パーティーにいくつもりはないわ」
アレックス「俺の誘いを断るってこと?」
「申し訳ないけど、私行かないわ」
(ていうか今の誘われたっていうのかしら?)
ブレア「呆れた……」
「え?」
全員が少し驚いたように私を見ている。
マーク「俺もびっくり…まさか王子のお誘いを断るとはねー」
アイザック「度胸の座った女だな」
「あ、あの……?」
訳がわからず、私はそばにいたジェニーに目配せをする。
「なにか問題でも?」
ジェニー「問題って、そのままの意味」
「そのままって……」
(「王子」ってあだ名だよね?)
マーク「あんまり『王子』の機嫌を損ねない方がいいと思うよ。国際問題に発展しかねない」
(こ、国際問題……?)
ますます訳がわからなくなってくる。
「あの……」
アレックスはじろりと私を見る。
アレックス「家はどこ?」
「え……あ、今寮にいるの」
目力に負けて、私は素直に自分の住所を言ってしまう。
アレックス「じゃあ、土曜日8時に迎えにいくから」
「え、あの……」
返事も待たず、アレックスはさっさと歩き出す。
マーク「じゃあね」
マークとアイザックもアレックスを追って、去って行ってしまった。
「ちょっ!ちょっと!……」
見ると、ブレアがすごい顔で私をにらんでいる。
(訳わからない!!)
ブレア「来るなら勝手に来ればいいわ」
「え?」
ブレア「ただし、うちのパーティーにふさわしい格好してきてよね」
そう言うと、ブレアはぷいっと私から目をそらした。
☆
(本当にパーティーに行ってもいいのかな……?)
なんだかモヤモヤ、非常にスッキリしない気持ちのまま、パーティーの日が迫ってくる。こんなに気が乗らないイベントなんて初めてだった。というなアレックスってどんな人なんだろう。正直名前しか知らないんだけど…。どうせならマークがよかっただなんてこっそり思ってしまう。とりあえずブレアが言ってた「パーティーにふさわしい格好」をなんとかしようと私は服を買いに出掛けた。
(ああ、また物欲が!!)
店員「いらっしゃいませ」
向かった先は勿論Henri Bendel。店内には素敵なパーティードレスが並んでおり、色とりどりのドレスを眺めていると、だんだんテンションが上がってきた。
(きゃああ!これ素敵!!)
一目ぼれしたドレスを試着し、くるりと一回りする。
店員「お似合いですね!」
「これなら、『王子様』と一緒にパーティーに行っても恥ずかしくないですよね?」
店員「お、王子様……ですか?」
店員さんが一瞬、怪訝な顔になった。
(げ!!バカなこと聞いちゃった……)
「あ、えっと、場違いな場所でも浮かないかなという意味です…」
あはは、と取り繕うように笑う私に大丈夫ですよ、にっこりと営業用スマイルを返してくれた。
…To Be Continued
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