3:ゴシップガール?

Gossip Girl3:ゴシップガール?


突然、誰かに肩をつかまれて、私は驚いて振り返る。そこに立っていたのは、短髪の男の子。私の反応に慌てて、彼は私の肩から手を離す。


男の子「ごめん、驚かせて。きょろきょろしてたから、道にでも迷ってるのかと思って……」


まじめそうな雰囲気で、身なりも普通の学生風な感じだった。警戒心を保ちつつ、とりあえず挨拶をする。


「あ、ありがとう。あの、ここって、どこ?」

男の子「ここは、ブルックリンだけど」

「ブルックリン?!」


ブルックリンはマンハッタンから橋を渡って東側の地区。彼の連れらしい小柄な女の子が近寄ってくる。


男の子「俺はダン。で、こっちは、妹のジェニー」

ジェニー「ハイ!」


挨拶を返すと、ジェニーは私を見て「おや?」という顔になる。


ジェニー「あなた、もしかしてセリーナの友達?」

「えっ?!」


私は驚いて彼女を見る。





(なんで知ってるの??パーティーで会ったのかな?)




けれど彼女の顔に見覚えはない。


「どうして、私のこと知ってるの?」

ジェニー「これよ」


彼女はそう言って、私に携帯の画面を見せる。携帯サイトに『セリーナの新しい友達?』と見出しがついた私の写真。




(えええええっ?!)




パーティーで撮られたものらしい。


「何、これ?思いっきり盗撮じゃん!」

ジェニー「『ゴシップガール』のネタよ」

「『ゴシップガール』?」

ジェニー「アッパーイーストの高校生セレブのゴシップネタを提供するサイト。誰が運営しているのかは謎」


ジェニーが説明してくれる。そういえばブレアのパーティーでも『ゴシップガール』という言葉を聞いた気がする。要するに日本でいうとたぬきみたいなものでしょ?リアルタイムの掲示板みたいな…


ジェニー「今日は、セリーナがニューヨークに戻ってきたって話で持ちきりよ」


どうやらセリーナは、奔放なバッドガールとして、いつも『ゴシップガール』に取り上げられる存在らしい。



(ま、あれだけのルックスとお金持ちだったらそこらの芸能人より噂になるわな…)



私が納得したように頷くとダンが呆れたように頭をかく。


ダン「まったく、女ってのはそういう噂話が好きだから」

ジェニー「お兄ちゃんもセリーナの記事、読んでたじゃん。パソコンの画面、見たよ」




(お前もかい!)




ダン「み。見間違いだろ」


ダンは少し顔を赤らめながら、とぼけるように言う。


ダン「それで、セリーナの友達のキミがどうしてこのブルックリンにいるの?」

「ああ、それは……」


私はこれまであった経緯を説明した。


ジェニー「うわぁー。かわいそう、ブレアたちって、そうやって時々、人をからかったりするみたいだから」


ジェニーが気の毒そうに言う。


ダン「アッパーイーストのおぼっちゃんとお嬢さんの暇つぶしに使われたってわけか」

「ああ、確かにそうかも」 

ジェニー「でも全然怒ってないみたいね?」

「いや、まあ。信じっちゃった私も馬鹿だったし。でもここでこうやってあなたたちと友達になれたんだからホテルでごろごろチップス食べてるより全然ラッキーだなって!」


ニッコリと笑うとダンとジェニーまで笑顔になってくれた。


ダン「そういう考え好きだよ」

ジェニー「うん、素敵!私も友達になれて嬉しいわ!そうそう、タクシー拾うなら、表通りまで出ないと。道案内するよ」

「助かる!ありがとう」


2人と話しながら、私は表通りに向かう。聞いたところ、ジェニーは私より3つ下で、同じコンスタンス・ビラード学園の生徒。ちなみに寮生ではないらしい。ダンは私と同い年で、コンスタンスと同じ敷地にある男子校、セント・ジュード学園の生徒。あの性悪チャックとは同級生と聞く。


ダン「親父に勧められて入学したけど、ブルックリン育ちの庶民にはキツい世界だよ」

ジェニー「あははっ!お兄ちゃん、完全に浮いてるもんねー」


タクシーは丁度私たちの下につき、急いでアドレスの交換をするとパレスホテルへと行き先を告げた。



「本当ありがとう!!友達になれてよかった!」

ジェニー「こちらこそ!新学期に会いましょう!」


『友達』という言葉に私はセリーナのことを思い出す。
『ゴシップガール』で話題の有名セレブで、親友はあの性悪ブレア……。




(セリーナって、やっぱり私なんかとは違う世界の人なんだろうな……)





私はダンたちに別れを告げて、タクシーに乗り込んだ。




(って、結局余計にお金かかっちゃったじゃん!!)



ーーーー☆




〜♪〜♪

大好きな曲を目覚ましにかけたのに、瞼がなかなかあがらない。NYで生活するなら毎朝セントラルパークでランニングしてその後ホットドッグを食べることが私の密かな夢だったのに…





(ああ、朝か…)





昨日はNYに初めて来たのに一日のうちに色んなことがあった。のそのそとシャワーを浴びるため起き上がると、昨日買ったHenri Bendelのワンピースに袖を通した。




(朝ごはん…どうしよ、散歩がてらそのへんのスタバいくか)




シュッと香水をふきかけると、光に溢れる雑多とした街にくりだした。







(スタバ、スタバ…と。そのあと美術館行こう!あ、国連にも行きたいんだった!)



ルンルンと本日のスケジュールを頭の中で立てていると、ちょうどセリーナが門をくぐってやってきた。

昨日と同じ服装だ。




(もしかして、今帰ったのかな?)




セリーナ「ネイト?」


セリーナが入口近くに立っていた男の人に声を掛ける。それはブレアの彼、ネイトだった。挨拶を交わす2人の間にぎこちない雰囲気が漂う。私は思わず、玄関の脇に身を隠す。 
別に隠れる必要はないんだけど、なんだか見たらいけないような……。



ネイト「セリーナ…戻ったんだろう?」

セリーナ「あなたのためにじゃない」


2人の会話が漏れ聞こえてくる。


セリーナ「ブレアは親友なの。あなたはその彼氏で、愛されてる。それで丸く収まるの」

セリーナはネイトに背を向け、玄関へと向かってくる。




(まずい……)




私は慌てて、顔を隠すように後ろを向く。


??「立ち聞きとは悪趣味だな」

「え?」



驚いて見上げると、そこには昨晩のパーティでいた…アイザックが立っていた。



「げ」



横を通り過ぎようとしたセリーナが私に気づいて、立ち止まる。



セリーナ「エリ……」



私ははっとして彼女の方を振り向く。


「セリーナ……」


セリーナはちらっと私とアイザックを見る。


「お、おはよう!あ、あの、私……」

セリーナ「ごめん、急いでるから」


セリーナは私から目をそらし、そのままホテルの中に入っていく。


「セリーナ!!」


追いかけようとして、中から出てきたビジネスマン風の男の人にぶつかり、彼が持っていた紙コップのコーヒーが私にかかった。


「っ!!熱っ!!」

男の人「ああ!すみません!」

「あ、いえこちらこそ……」


セリーナのことが気になったものの、とりあえず熱い!!肌には直接かかっていないものの、服の腕の部分はべったりコーヒーまみれ。ふとセリーナの姿を探すも、彼女はそのまま、ホテルの奥へと消えていった。


男の人「キミ火傷は?!本当にすみません」




(あーあ……昨日買ったばかりの服なのに!!!!)



男の人は弁償すると申し出てくれたけれど、ぶつかったのはこちらの不注意だからと断った。早く洗わなきゃ!!一刻を争う事態に脳内がパニクる。


アイザック「馬鹿かよ、早く冷やせ!」


ふとアイザックが私の腕に手を掴むと、様子を見て駆け寄ってきたホテルマンに事情を説明し直ぐさま氷を持ってきてもらった。




アイザック「火傷は…してないな」


ホテルの救護室みたいな所に連れてこられ、火傷の薬を塗ってもらう。病院に行くかと言われ、それよりもコインランドリーに行きたい!と言ったらアイザックとホテルマンの方々に若干呆れられた。
だ、だって買ったばかりの服だよ?しかもシルク100%!


アイザック「お前な…オートクチュールでもないくせにそこまで大切にするか?」

「うぅ、だって憧れのHenri Bendel なんだもん、」

アイザック「冗談だろ、Henri Bendelが憧れとか可哀想なやつ」

(は、腹立つ!)

鼻で笑うアイザックにカチンとくる。チャックしかりブレアしかり。どうしてこんなに嫌な奴ばかりなんだ。形式上でも友好的な方がはるかに物事が気持ちよく進むってのに…
じとりとアイザックを睨むも、当人は全く気にかけていないようだ


アイザック「大丈夫そうだな。じゃ、俺は行くから」


ふっと立ち上がるアイザックからいい香りがする。いいな、この香水、どこのだろ……
じゃなくて!


「あ、ありがと!」

アイザック「は?」


面倒くさそうに顔だけ振り向くアイザックにまた頬がひきつるも、連れてきてくれたことに感謝する。


アイザック「そういうの、別にいいから」


うざったそうに振り払う彼の背中を暫く見つめていると、腹ただしさよりも悲しさの方がこみ上げてきた。





(まあ、私が気にすることでもないか。もう二度と会うことなんてないんだし…)





せっかくのNYなのに日本が少し恋しくなってしまった瞬間だった。





…To Be Continuted











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あきゅろす。
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