Gossip Girl番外編:大切なもの。
チャイムと同時に学校を飛び出す。
今日はずっと楽しみにしていたパーティ。いつもは華やかな場所に気が引けて参加しない私だけど、今回はあと何日…とカウントダウンしてしまったほどだ。
だって、今日だけは違う。
(ああ、マカロン!マカロン!)
5番街にある最高級デパート「バーグドルフ・グッドマン」に新しくサロンを出すことになったパティスリーショップのお披露目会なのだ。
店舗はパリのみで、いつか世界中に広まらないかと今か今かと待ち望んでいたほど。
クラスメイトのお父さんがシェフなので、お誘いを受けた際は柄にもなく飛びついてしまった。
(ああ、マカロン食べたい!)
自分は庶民なので、こういうときに本当にお金持ちの学校でよかったと実感する。
クラスメイトに感謝しながら、うきうきと準備にかかった。
(あった!)
ジュエリーボックスから取り出したのは、艶やかな白いパールのネックレス。
両親から何かあった時に使えるからと、日本を出る前に持たされたものだった。
連なったパールが美しく光を反射する。その輝き一つひとつには重みがある。華やかなパーティの時でも品を保てるのと、鎖骨にうまく収まる粒の大きさが、私のお気に入り。
ラーナ「本当に素晴らしいパールね!エリにとっても似合うわ!」
サラ「無くすんじゃないわよ!」
「ありがとう!楽しんでくる!」
すれ違う度に「マカロン!マカロン!」と騒ぎ立てる友達を宥めながら、普段履かないヒールを鳴らして寮を出た。
ーーー*
ふわりと甘い香りが辺りに漂う。
会場はアッパーイーストの中心にあるメルヘンのようなお屋敷だった。
わずかに風が吹いているのに、どうも靡かない風船だなと不思議に思って近づいたら、飴細工でできたものだった。
(わああ!すごいっ!!)
まるでお菓子の国。
パートナーの同伴なんてなんのその、すっかりひとりで浮かれていると…
?「貴女‥」
「?」
見知らぬ女の子が話しかけてきた。
華やかなカクテルドレスに身をつつみ、うっとりするほどの笑顔が向けられる。綺麗に揃えられたボブヘアーが印象的。
だけれど。
(知らない子だな…、)
?「ああ!初めましてね。私はミランよ」
(ん?…ミラン?)
疑問符を浮かべる私に対し、まるで久しぶりの学友との再開のように接するミラン。
どこかで耳にしたことのある名前だった。必死に記憶を辿るも、思い出せず、とりあえず作り笑いを浮かべた。向こうは私を知ってるみたいだけど、一体誰だろう。
考えども思い出すことができず。
「初めまして…エリです」
(いや、ブレア?セリーナからだっけ?聞いたことのある名前よね…)
なおも考え続ける私を他所に、ミランは親しげに話しかけてくる。
ミラン「あら、素敵なパールね。‥でも留め具に髪が絡んでいるみたい。ちょっと待って、今付け直してあげるわ」
何故か周りから嘲笑めいた声がきこえた。ふと目を向けると、ミランの取り巻きたちがくすくすと笑いを堪えている。ミランに限らず、取り巻きは苦手だ。取り巻きといえば…何かを思い出す、
そう、あれよ、あれ!
(レイチェルのライバルだ!!!)
まさか、取り巻きで思い出すとは。
(そうだ以前ーー)
以前、アイザックにお熱のレイチェルが、私を陥れようとしたことがあった。誤解は解けたけど、変なゴシップを流されて、本当にもう大変だった。レイチェルがその後どうなったかについては怖くて聞けなかったけど…。
私が転入する前にレイチェルとミランはアイザックをとりあっていたとかなんとか。
面倒だから近寄るなとセリーナから再三警告を受けていた気がする。
(やっと思い出したわ)
ろくなことにならないような気がして、一刻も早くマカロンを食べに行こうと目の前の人物と距離をとるも、ミランは丁寧に私の髪をよけた。
私はさっさと済ましてもらいたく、大人しくネックレスが外しやすいように屈んだ。
「ありがーー」
私がお礼を言うタイミングと同時に。
ミラン「see ya!!」
ミランの手元から弧を描くように放り投げられたネックレス。
叩きつけられるようにプールの水面へ落下し、その重みでゆらりゆらりと沈んでいった。
女の子特有の甲高い笑がプールサイドをこだまする。
(えっ、ちょ、う、うそ‥!?)
頭が真っ白になる。
何が起こったの。
「な、なっ、何するのよ!!」
ミラン「貴女アイザックにお熱なんだって?」
先程とは打って変わった冷たい視線。
ミランはゆっくりと私の耳元で囁いた。
ミラン「レイチェルをやっと消せたと思ったら…。アイザックに少し構って貰ってるからって調子のんなよ」
ニッコリと。それはもうカメラに向けられたような完璧な笑みで。
ミラン「今ここで…貴女を突き落としてもいいけど。でも勝手に飛び込むでしょう?
ほら、早く見つけないと排水溝に詰まって跡形もなくなるわよ、
貴女の安いパールがね!」
(‥!!)
至極愉快そうに笑うミランをキッと睨む。
思わず手が出そうになるのをぐっと堪えた。
(だめ、だめ、だめ!
こんなところで問題起こしたら即日本に強制送還!)
ミラン「あらもうこんな時間!アイザックが待ってるから、行かなくちゃ」
ミランはうっとりした声で囁いた。
レイチェルにしろ、ミランにしろ、アイザックにお熱な女はなんでこんなにも性悪なのか。本当にもう勘弁してもらいたい。
私は‥
(ああもう最悪‥!!!)
ドレスの裾を固く縛ると、冷たいプールに飛び込んだ。
同時に周囲からきこえるけたたましい程の笑い声。
潜っても目が痛くなるだけなので、必死に足先でネックレスを探す。落下地点は確かこの辺だったはず。
(まだプールに足がつくだけマシよね!!)
周りにどんなに笑われようと、ネックレスを無くすよりマシだ。
あれは両親から貰ったもの。
遠く離れた日本にいる両親が、これを付けた時に幸せな思い出がつくれるようにと想いを込めて贈ってくれたもの。
(絶対見つけるんだから!!)
揺れる水面に目を凝らす。水を吸ったドレスに辟易しながら探していると、周りの高笑いが一層響いた気がした。
(っ…)
恥ずかしいのとパールを見つけられない焦りとでどうにかなりそうだった。
突然、周りの嫌な笑い声から、はしゃぐような嬉々とした歓声にかわる。
ふとプールサイドに目をうつすと‥
今到着したらしい男の子達。
その中心にいたのは…
(‥‥げっ!!)
今一番会いたくない人。
アイザックだった。
ミラン「ハイ!アイザック!」
ミランは艶やかなボブヘアを弾ませて駆け寄る。
アイザック「ああ。ミランか、久しぶりだな。‥で、アレは何だ?」
ミラン「大切なネックレスを落としたらしいの。彼女、飛び込んでいったわ」
男「何、アイザック。イカレた女の子の知り合い?」
ミランとハグをしながら、アイザックと一緒だった男友達の1人が笑いながら尋ねる。
アイザック「‥‥あんなイカレた女、知るかよ」
興味なさそうに呟くとアイザックは誰とも目を合わせることなく、フロアの方へ向かってしまった。
ミランが至極愉快そうに追いかけるのが目にうつる。
(‥‥っ)
恥ずかしさに体温があがる。プールなのに全く冷たさを感じない程の羞恥心。こんな情けない姿をみられた、しかもアイザックに。
あまりの恥ずかしさにプールにダイブしてそのまま潜り続けたかった。
それに。
別に期待していたわけじゃないけど、声くらいかけてほしかった。
じくりと胸が痛む。
(…まあ、アイザックが慈悲深い方が気持ち悪いよね)
気を取り直して捜索を再開する。
厄介なのは暗いからだけではなかった。水面に浮かべられた薔薇の花弁が水底の視界を遮る。
(暗いし、花びら邪魔だしもう泣きそう‥)
なんて、惨めな私!!
でもこんなところで泣いたら余計に恥をかくだけだ。
その時、
それまで真っ暗だったプールが突然、ぱあっと青白い光に満ち溢れる。
(えっ、)
同時に私に降りかかる水飛沫。
「お前イカレたのかよ。明かりくらいつけて探せ」
側にはアイザック。
「えっ、えっ、ちょ、何?!」
(‥‥さっき…。まさかライトつけに行ってくれたの?)
アイザック「で、どこら辺から落としたんだ?」
私がたどたどしく説明する。アイザックは暫く考えたあと、急に潜り込んだ。
どうしていいか分からずただ水の中でたちつくしていると‥
アイザック「っはぁっ、!!!‥あった、これだろ?」
荒い呼吸とともにアイザックが水面に顔を出した。
手には‥
(私のネックレス!!)
「そうこれ!!ありがとう!!な、なんで?!すごい、」
アイザック「お前、物理学受講してんだろ?実生活に応用しろよ。つか、それより」
後ろからぐいと抱え込まれる。
(えっ、)
アイザック「大切なものなら誰にも触らせるな」
カチリと音がなる。首に感じる重み。そっと手を添える。
アイザックがつけてくれたんだ‥
アイザック「あー、濡れた。クソ寒い」
「ご、ごめんなさい」
アイザック「帰る」
「へっ?」
すいとひと泳ぎし、プールサイドから上がると、アイザックは飛び込む前に脱ぎ捨てたジャケットを掴んだ。
アイザック「探し物は見つかっただろ。風邪ひきたいのか?」
「ちょ、まって」
周りが唖然とする。
当の本人ときたら、まるで誰もいないかのように門へ向かう。
「あ、アイザック、待ってよ!」
アイザック「早くしろ。置いてくからな」
あの、アイザック・シュナイザーが。
一人の女のために自らプールに飛び込むなんて。
周りは信じられない様子で騒ぎたてる。
それを全く気にしていない張本人。
私も慌ててプールサイドから上がるとスタスタ先を歩くアイザックにかけよる。
ミラン「ちょ、ちょと、アイザック!?ねぇ、パーティは?!」
ミランは、引きとめようと必死だった。
先ほどのことを思い返し、怒りがふつふつと湧き上がる。
ミラン「ねえ、エリはくるでしょう?!」
急に私に対し親しげに話しかけるミラン。
(…このクソ女っ、)
怒りで頭に血が登るのを堪える。
私を引き留めるふりをして、アイザックを引き留めようとする本心が見え見えだった。全く、汚ない手ばかりつかいやがって!
縋り付くような細い手が私の腕を掴む。力だけは強くて、ネイルが私の腕に食い込んだ。
うんざりしてふりほどこうとした時。
アイザック「離せよ」
私の腕からミランを振りほどくアイザック。
ミラン「な、なんでよ?!ねぇ、アイザック!!」
アイザック「…大切なものだから、誰にも触らせたくないんでね」
ミラン「え」
射抜くような視線に、隣にいた私までぞくりとする。
(「大切なものなら誰にも触らせるな」)
先程私にパールを付けてくれた時に言われた言葉を思い出す。
(た、大切なものって…)
ミラン「っ、…、」
しんと静まり返るプールサイド。
何も言わずアイザックはさっさと身を翻した。
「ねえ、アイザック、!」
びしょ濡れの私たちを物珍しげにみやる来客者。
お構いなしにアイザックに呼びかける。
(さっきの「大切なもの」って、)
アイザック「お前のことじゃない。
俺のジャケットのことだから。」
「はっ?!?!!」
急に立ち止まり、呆れ顔で私を見るアイザック。
アイザック「あの女、俺のジャケット掴んでいただろ?何。自分のことだと思ったのかよ?めでたい奴」
(っ、!!!)
一気に頬が赤くなる。
馬鹿にしたように笑う彼。
意味を理解し、
ますます恥ずかしくなる。
アイザック「エリ、帰ろう」
「っ、」
視線は他所に向けたものだったけれど、ひどく優しい口調だった。
心臓が高鳴る。
先ゆく彼の肩にかかったジャケットを見つめながら、リムジンに飛びのった。
(…ジャケット、ずっと肩にかけてたくせに…!!)
ゴシップ・ガール「I争奪戦の勝利者は?!RとM、長年の死闘お疲れ様!やすやすと攫ったのは噂のガリ勉ビッチ!」
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