SP
はじまりの出来事。






(北大路グループ創立何周年目かのパーティがあり、皐月さんに招待して頂いたので来てはみたものの…)


財界政界芸能界のドン達がわんさかおり、100階立ての最上階で行われた盛大で華やかなパーティだった。
私はこの後所用があったので、今回は皐月さんに挨拶をする程度に留め、足早に立ち去ろうとする。


チン、と小洒落たベルが鳴りエレベーターに乗り込む。
すると突然閉まりかけた扉が何者かによってこじ開けられた、



(あっ!)



ぐたぐだに酔っ払った中年の男が、おぼつかない足取りで乗り込んできた。
この人…さっきパーティで女の子達に名刺をばら撒くようにしてた奴だ。
肩書きにつられた女の子達は彼の側から一瞬も離れることなく、必死に媚を売っていた。嘘と虚飾に塗れた世界。上にのし上がるには実力だけじゃダメ。実利にかなえばなんでもアリなのだ。



(否定はしないけど、私はキライ)



目を合わせることなく乗り込んで来た人物と距離をとるように避ける。
すると、



中年男「あれえ…キミ、北大路のお気に入りチャンじゃない?」



男は私の顔を覗き込むなり、絡んできた
もう!存在感を出さないよう努めていたのに!



(聞こえないフリ、聞こえないフリ)



シカトを決め込みひたすら下をみていたら、いきなり抱え込むように腰に腕を回される、



中年男「北大路以外にも…俺ならいーっぱい紹介できるよ…どお?」


生暖かい体温と酒の匂いが不快で全身に悪寒が走る、
どお?、その意味することがあまりにもわかりやすかったため、侮蔑と嫌悪の視線を向けないよう必死に堪える


「…いえ、結構です、」


あくまでも愛想良く丁寧に振る舞う。
100階近いビルの最上階にいたので、いくら性能が良いエレベーターでも地上に着くまで数十秒はかかかる



(まだ70階?!早くっ!!)



苛立ちながら徐々に一桁へと向かうランプに目を走らせていると、相手は私の抵抗しない反応を良しとしたのかますます調子にのってきた。
ぱしり、と手首を掴み、私に覆いかぶさる



(ちょ、やばい!!)



必死に堪えるも、腰に巻き付かれた手がシルクのワンピースを這うように動き回る



(…もう!!)



耐え切れなくなって、私は側にあった40階あたりのボタンを押した。
下降していたエレベーターが即座に反応し、私が押した階にて止まる。
それと同時にエレベーターが開かれた



「着きましたよ、」



私は満面の笑みで男に告げると開かれた扉を一緒にくぐりぬけた。




『ドアが閉まります…』
(今だ!)



さっきまで乗っていたエレベーターが閉まりかけた瞬間を見計らい、男に抱え込まれた腕を一気に解くと、足払いをくらわす。
バタン!、哀れなまでもその場に大の字に倒れる男を無視し、閉まりゆく扉に駆け込むと、タイミング良く機械的に扉が閉じられた。
再びエレベーターは何事もなかったかのように地上階へと下降する。


(一昨日来やがれってんだ!)



私が凛々しくも乱れた服を整えようとした時、突然後ろから、くくくっと噛み締めるような笑い声が聞こえた。



「…お前、最高、」


飛び上がるようにして声の主を振り返る。100階で乗ったとき、誰か別の男性が同乗していることはわかっていたけど、今の出来事に対して評価をされるとは思ってもいなかった。



(何よ、人事だと思って…)



手を差し伸べるくらいしてくれたっていいじゃないかと文句を述べたくなるのを堪え、ただひたすら扉が開かれるのを待つ。

チン、と機械的な音とともにシャンデリアからの眩い光やざわめく人々の声に包まれた
一刻も早く出たかったため、足早に立ち去ろうとした時、掴まれる腕。



「待てよ」

「…はい?」


私の腕を掴んでいたのは先ほど噛みしめるように笑っていた男性で。
射抜くような視線を向けつつ、口元には意地悪な笑みを浮かべている。



(うわあ、)



完璧なまでの容姿と落ち着いた声に思わずはっとしてしまう。



「…気に入った。なあ、俺と一杯どう?」


自信たっぷりの笑みを浮かべ、バーカウンターへと視線を向けられる。
何この人…初対面でいきなり…。
からかってるに決まってる!



「申し訳ございません。失礼致します」


やんわりと腕を解こうにも固く掴まれる手。



「ふーん、俺に全然興味ナシとか…新鮮、」


清々しい程の俺様に唖然としていたところ、私の手を彼の口元に運ばれた。
ちゅっといやらしく響くリップ音。



「…お誘いありがとうございます、でも」

「でも?」


妖艶に微笑む彼に目が離せなくなるが、負けじとにっこりと笑みを向ける。



「笑顔は最大の拒絶だとご存知で?」


鋭く吐き捨てるように言うと、少しずつ男の爪先にヒールの重圧をかける。
私を捉えていた男性は驚くように一瞬目を開かせた



「失礼します」


再びにっこり笑うと、大理石のフロアをヒールを鳴らして去る。



(最悪の日だわ!)



すれ違ったホテルマンに40階にのびてる客がいるとだけ告げ、皐月さんが用意してくれた迎えのリムジンに飛び乗った。


ーー



瑞貴「…あれが次のマルタイね」

海司「めちゃくちゃ気が強そうっすね」


女の颯爽と去っていく後姿から目を離さずにいた男の側に別の男達が現れる


そら「昴さんのフられっぷり…ぷっ!」

昴「…そんなに打ち抜かれたいか」

桂木「お前たち、いい加減にしろっ!」


周りがざわめく中、昴だけが取り残されたようにぼんやりと見つめていた。



(俺とアイツの8日間)

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