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悠月が使里樹を追いかけようとVIPルームから出た時、開けっ放しの関係者通路が目についた、すぐさま駆け出したところ、カンカンカンとヒールで階段を駆け下りる音が聞こえる、



(クソっ、めんどくせーな、)



一段一段降りるのが面倒だったので手すりに掴まると、いけそうな所まで飛んでみた、調度使里樹の後ろに着地したのでそのまま腕をひく、



「っ…!!?」

悠月「…お前っ、…」



目があった瞬間、息をのむ、一瞬見せた悲痛な顔から直ぐにいつものにこにこへらへらしている使里樹の表情に切り替わる




「…あれ、悠月さんっ、どうなさったんですか?」




何事もなかったかのように話す使里樹に憮然とする、何で笑ってられるんだよ…。
ごった返した感情から理性なんて導き出せるはずもなく。つい心にも無い言葉を投げつけてしまった、





「…兄貴がお前なんかを本気で相手にしてると思ったワケ?つくづくめでてー女だな」




冷たく言い放ったその一言に使里樹の瞳は大きく揺らいだ。正直、楽しみだった。こいつがどう反応するのか、こんな事を言われても尚、ゼンマイで巻かれた時計仕掛けの笑顔で返すのかと。しかし、返って来たのは意外な反応だった。




「っ…、…と」

悠月「あ?んだよ、」

「わ……よ、こと」

悠月「?、おい、」





「わかってるよっ、そんなこと!!!」





狭い通路に響き渡る叫び声。



何かが私の中で壊れた
不安で不安で堪らなかったことを悠月さんに指摘された直後、ボロボロ零れる涙、それとともにとどまることなく吐かれる暴言。
耐えきれなくなった思いが溢れ出したのだ





「わかってる!わかってる!!わかってる!!!全部わかってんの!」




涙とともに溢れ出すコトバ。抑えることなんて出来ず、ただ狂ったように泣き叫んでいた。もう私は…限界だったんだ…




「もう、嫌っ…疲れた…よおっ…」



そう、疲れた。
綺麗な服や靴を身に纏い、私なんかが絶対入れない場所でいつも食事させてもらって。
その度に、皐月さんが私なんかといて恥をかかないよう、いつもの私を押し殺して必死に振舞っていた。
彼の前での私は本当の私じゃない。ただでさえ場違いな私が唯一できること。それはその場の空気になることだった。悪目立ちしないように、皐月さんに迷惑をかけないように。
そんな風に自分を偽り続けたら…いつの間にか私が私でなくなった。
もう限界だった。


……ワタシはダレ?




「…ふぅっ、うっ、、も…やだああ!!、…つかれたあっ、…いやあ、あ!」




悠月さんが居るのなんて構うことなく大泣きする。逆ギレした醜い女だと思われようが、ヒステリックな女だと思われようが、一向に構わなかった。自分のことしか考えられなかった。

これが私、偽らないありのままの私。




ーー叫んで、泣いて、喚いて、怒って。


発狂し尽くした私は、段々と落ち着き、漸く理性を取り戻し始める。頃合いを見計らってか、悠月さんが柔らかい声色で呟いた



悠月「…んだよ、お前。泣けんじゃん。…怒れんじゃん、」




ぽつりとこぼすように呟く悠月さんをふと見上げると私に笑顔を向けていた。いつもみたいに見下した感じじゃなく。
あ…どうしよ、完全にいること忘れてたわ。気付いた途端、顔が真っ赤になる。





「(あああっ〜〜〜!!)」

悠月「んだよ、急に顔赤くして。お前感情変わりすぎだろ、」



ぷっ、と吹き出す悠月さんに、何も返答することができなかった
ただ、恥ずかしく下を向いていると、突然、手首を引かれ悠月さんに抱きしめられる




悠月「…さっきは…悪かったな…本心じゃねーよ、ただ、」



悠月さんに真っ直ぐ見つめられ、ドキドキする。あまりにも別世界の人すぎて、今までそばに居ても全く何も感じてこなかったのに…


悠月「お前見てると昔の俺みてーでさ。両親の顔色伺って、出来もしねーことで来たフリして。両親に失望されたくなかった、兄貴とせめて同等でいたかった…。」

悠月「…気付いたらいつの間にか違う自分になっててさ、限界だったんだと思う」



ちゅ、
憎らしい程完璧なリップ音をたてて私の髪にキスを落とす




悠月「作り笑いなんていーから、ちゃんお前を伝えろよ。お前自身を。」





さっきとは別の涙が溢れ、結局、悠月さんのシャツまで濡らしてしまった。それでも悠月さんは優しく、優しく抱きしめてくれていた



(私を見てくれる人。)





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あきゅろす。
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