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帰宅するや否や、怒りに任せてバックを放り投げる。意地悪ばかりする遼一さんでも今回のは流石にやり過ぎだと思う
(私だって、いつでも仮面のままでいられるわけじゃないのに)
さっきから震えるケータイに見向きもせず、大の字に寝っころがる。塞いだはずの瞼から電球の光が目に差し込み、ますます不快になった
(……縋ったところで、捨てるんだ、)
怒りを鎮めようと試みた時、突然鳴り響くインターフォンにはっとする。12時前に誰?、恐る恐る画面を覗きみると、そこにいたのは…
ーー
「いやあ、本当ごめんなさいね!」
「いやいや、驚きますよ普通に、」
「お土産あげるから、ね?」
何とインターフォンの先にいた人物は、ナナコさんだった。
女性を深夜に放ったらかしにすることなんて出来ず、渋々中に招き入れると、手には高そうなワインとお菓子があった。お土産ってこれ?だなんて思いながらもワイングラスを二つ出す、
ナナコ「私ね…、結婚するんだー、」
既に酔っているのかと疑いたくなる程、突拍子もない話題。どく、どく、と思わず心音が早まり、身体が過剰に反応してしまう
ナナコ「…それでね、皐月といたの。皐月は私のこと良く知ってるから…」
再び重くなる心を抑えながら、ただ、頷く。ナナコさん自体嫌いではない、寧ろその内面の良さから憧れの対象である。…だからこそ嫉妬といった感情を向けることはない。だって、私なんかより、皐月さんにはナナコさんがお似合いだから…
ナナコ「…そしたらね、まだ早いんじゃないかって言うのよ!彼はもう式の準備や新居を購入しちゃったのに!…それに、40過ぎてるから子ども作るとしても…って使里樹ちゃん聞いてる?」
ふと我にかえる、
(ん、彼?40過ぎ?)
話が噛み合わない。何のことだと怪訝な顔をしていると…
ナナコ「あら?私の婚約者よ、アメリカ人の」
「…え?アメリカ人?、あれ、皐月さんは?」
ナナコ「あら?皐月はハーバードでのカレ。……まさかあんなゴシップを本当に信じてるの?!…あはははっ、遼一の言った通りだわ!」
思わず目が点になっている私をみて、ナナコさんは大笑いをする。
「え?、遼一?遼一さんが何か仰ってたんですか?」
ナナコ「ここに連れてきたの、遼一よ。…ナナコ自身から話してやれって言われた時には意味がわからなかったけど…」
ぷぷぷ、と再び笑い出すのを見てるとなんだか恥ずかしくなってきた、よく考えれば皐月さんのような世界的な著名人にパパラッチがつかないわけがない。
完全に私のメディアリテラシーの不足だ!
ナナコ「…愛されてるわね、…遼一に」
思いがけない一言に唖然とする。何でそこで私が遼一さんに愛されてることになるのか…
ナナコ「皐月が貴方に説明すると余計誤解されそうだから…遼一は…私を寄こしたのよ。皐月と話したって、使里樹ちゃんはその場で納得する振りするだけでしょ?……私と初めに会った時みたいに仮面つけて」
ふふ、っと紅い唇が弧を描く。ああ、全てお見通しなんだ…、そう理解した瞬間、一気に肩の力が抜ける。
それと同時に遼一さんに対する罪悪感が込み上げてきた、
(あああ、早く謝らなきゃ!!)
あたふたし始めた私を見て、ナナコさんは再び笑い出す。迎えを呼んだ時に一言いっときなさい、と肩をぽんと叩かれた
ーー
それから暫くナナコさんと談笑した後、遼一さんを迎えに呼んだ、よく考えれば初対面のナナコさんが私の家を知る由もないはずで。
(まさか遼一さんが気を回してくれたなんて…)
それに今回わざと皐月さんとナナコさんに会わせるよう仕向けたのも真実を私に教えてくれるためだったのかもしれない。
それなのにひどい事を言ってしまった、
闇夜を照らすライト、静かな音とともに汚れ一つ無い磨かれた車が停止する、途端に思わず俯いてしまう。罪悪感でいっぱいだった、何て謝ろう、だなんて心中で途方にくれていると…
遼一「俺をアッシーにするとはな」
ナナコ「アッシーって古くない?」
駆け寄ったナナコさんの頬に挨拶のキスをすると、私には目もくれず、車へと乗り込む。
私は…
「遼一さん!!」
つい遼一さんの腕を掴んでしまった、謝らなきゃ、それだけが私の頭の中で鳴り響いていて。
「先程は大変失礼な態度をとってしまい、申し訳ありませんでした…」
深々とお辞儀する。
…2秒、3秒、…5秒…7秒…10秒……、
何も返答なく、不安になる。やばい、やばい、何も言ってこない!完全にご立腹かもしれない…
泣きそうになるのを堪えていると突然、屈んできた遼一さん。
ぱちり、と目が合う。
遼一「…許さない、今すぐ俺の機嫌を直せ」
それはそれは…もう最高の笑みで。
機嫌が悪いなんて嘘だ!
引きつる私を他所に嬉々として命令する
(あああ、何すればいいの?!
どうしよう?!、)
ナナコさんは既に車の中。でもマンションの前だし、…って何考えてるのよ私!!機嫌が直るコト、直るコト…
だめだ、思いつかん!!、視線がぐるぐる回る、
そんな私を見て噴き出す遼一さん。
遼一「お前本当おもしれーな」
首筋にかかった髪を掬い上げられると、ちりっとした刺激が身体中に広がった。途端に熱を帯びる身体
遼一「全く…イジメがいのある奴」
熱を帯びた場所に更に追い立てるように這わされる舌。
れろっ、ちゅるっ、…
「!…やあっ、ん、」
遼一「んっ、…ん、…ちゅ、」
(首ばっかり、やだあっ、)
びくっびくっ、と震える肩を遼一さんは強く抑えこむ。段々激しくなる舌。ここはマンション前だ、お隣さんが通るかもしれない…。しがみつくように、遼一さんのジャケットを握りしめる、
「りょ、いちさあっ、もっ、だめっ」
散々唇を落とされ、舌を張り巡らされて…漸く解放されたと思ったらさっきよりも満面の笑みで佇む彼。
遼一「…んっ、ごちそーさま」
ふわっと頭を撫でられ、そのまま車に乗り込むと、ワンクラクションを鳴らし、あっという間に私の前からいなくなる
まるで何事もなかったような静けさだけが私を包んだ、だけど濡れた首筋や艶かしい感触は間違いなく事実なわけで…
(〜〜〜っ!!!!)
ふらりとよろけそうになるのを必死に耐え、引きずるように自分の部屋へと急いだ、
(やっぱり意地悪なヒト。)
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