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何時もと変わらない朝。満員電車の中でニュースをチェックしてると見覚えのある顔と名前が速報ニュースとして目に飛び込んだ。いつも一緒にいるから、この人が有名人だっていうことをつい忘れちゃうのよね、




(なになに…『財界の貴公子・北大路皐月ついに婚約?!相手はハーバード時代の元彼女!』………)




「(………っ、)」


どぐ、どぐ、どぐ、唸る心臓。
うわあ、これはショック…。
画面越しに皐月さんに目を合わせるも、彼の視線は抱き寄せた女性に向いたまま。漆黒の髪を輝かせ、美しく微笑む女性。知性と品性、そして愛嬌を兼ね備えている。女性の私でも魅せられてしまう程だ。



(私の入る隙間なんてどこにもない、そんなの最初からわかっていたことじゃない。でも…)



震える手でケータイの電源を切り、暗く沈んだ気持ちを人混みに溶かすようにして電車を降りた。


ーー


今日一日、どこにでも現れた朝見た写真。テレビでも新聞でも人々の会話でも、終いには迷惑マガジンメールにも!!



(ああ、うっとおしい!!)



早く一人になりたかった。私と皐月さんは恋愛関係ではないし、むしろ友達かと聞かれても、そうであるのか甚だ疑問だ。善くしてもらっている人であり、それがたまたま性別的に男性なだけで…



「……はああああ〜。」


絶望とも無気力とも捉えられる溜息を思わずつく。気がついたらマンション前にいた、電灯が乏しい中ごそごそと家のキーを探していると…



「おー、やっぱり死んでんなー」


いきなり声がかかりびくっ、とする。視線を向けた先には高級車に身体をより掛けた遼一さんがいた



「……、」

遼一「メシ行こうぜ、乗れよ」


なんでカジノのメンバーは私が弱ってる時、傍に居てくれるんだろ…。
思わず視界が歪む。別に私が泣くことなんかじゃない、必死に思いを隠そうと俯きながら開かれた助手席に乗り込んだ。


ーー


向かった先は東京駅からすぐの最近オープンしたばかりの高層ビルだった。最上階はレストランとバーになっているらしく、専用のエレベーターに乗り込む。地上から見える光が小さくなるのを眺めていると、その光がだんだんぼやけてきたのにふと気付く。



遼一「青山、」


手を差し伸ばされてはっとする、いけない、また私涙ぐんでる…今は遼一さんと居るんだもん、楽しまなきゃね…

遼一さんの手をとると、私たちは中へと入った。




(あれNステのモタさんだ!、)




どうやらここは会員制らしく、左右視線を動かすと私でも知ってる有名人が普通に存在していた。といっても遼一さんだって周りからチラリと視線を送られる程の人物なわけだが。

遼一さんは何やらお店の人に一言声をかけると、支配人さんは奥の方へと案内してくれた。
囁くように話す声、仄かに香る華、ゆっくりと流れる音楽。薄暗い中にキャンドルの光がキラキラと輝き、各テーブルが彼らだけの世界となる。

私たちが通されたテーブルを見た瞬間、足が動かなかった。だって離れた席には…



遼一「おー、皐月さん」

皐月「ああ、遼一?…それに青山さん…」


久しぶりに会えて、嬉しさが混み上がるも、それと同時に突きつけられる現実。


?「遼一〜!!久しぶりー!!会えて嬉しいわ!こっちのテーブルにいらっしゃいよ、ねえ、皐月いいでしょ?」


透き通るような肌、長い腕を皐月さんに絡ませて、華が咲くような笑顔を向ける。


今日、何度も何度も見た人。そして最も会いたくなかった人。
そう…皐月さんの元彼女。


遼一さんとも知り合いらしく、ハグをすると、遼一さんはその女性に向かって頬にキスを送る。



遼一「ナナコ久しぶりだなー、相変わらずお美しいことで」


茶化すように女性の肩に手を回すと、ぺしっとはねつけられていた。
遼一さんの言葉が重くのしかかる、




(本当、その通り。)



遼一「青山どーする?ナナコたちと…「あれ?貴方は?」



大きな目を瞬かせて、私を見る。



私は…

「あっ…、はじめまして!青山使里樹と申します!遼一さんや皐月さん達にはいつも善くして頂いていますっ、」


緊張感を含みつつも、滑舌の良い聞き取りやすい声で。決して低姿勢を崩さず、ぺこりとお辞儀をする


ーーほら、誰からも嫌われない使里樹ちゃんの出来上がり。



決してこの場の雰囲気を壊さぬように。
皆が楽しくいられるように。
自分の感情を殺して、ワタシを作る。



ナナコ「使里樹ちゃんね!こちらこそ宜しくー!」


綺麗な笑みを私に向けるナナコさん




(私が我慢すれば、人間関係は円滑になる)




私の内心になど誰も気付く事なく。流れから、四人で食事をすることになった。

ナナコさんの初対面である私に対する気遣いや、皐月さんに向ける柔らかい笑みを目の当たりにすると、外見だけでなく内面も完璧な女性なんだと実感した。皐月さんの隣にいる事に何ら疑問を抱かない。寧ろ当然のように感じる。



(上手く笑えてるよね…でも限界かも…)



ーー


食事を終えた後、ナナコさんがお気に入りのバーに行きたいと言いだした。銀座いこう、だなんて場所を変えて飲みなおすようだ、当然の如く誘われたけれど私はもう…



(だめだ、もう限界、)



遼一「青山も行くだろ?」

「いえ…私はここで失礼します」

皐月「では、ご自宅までお送りますよ」

「あ、大丈夫です!今さっき友達から呼び出しがあって…。駅で待ち合わせているのでそのまま行きますね!」


皐月さんが再び口を開く前に、有無を言わせぬ勢いでまくしたてた。
いい加減一人にして欲しかった、こんな状況で尚私に仮面をつけろというのだろうか、



ナナコ「残念!今日はありがとう、楽しかったわ!また会いましょ!」

「はいっ!是非!」


三人に別れを告げると、変わりかける信号に飛び込んだ。真っ直ぐな歩道をそのまま駆け抜ける、


途端に溢れ出す涙。仮面の剥がれた私はすれ違う人の顔すら目に入らない程声をあげて泣いていた、我慢はもうした、限界は越えた…



遼一「…友達と待ち合わせ?嘘つくなよ。そーやってメソメソ一人で泣くんだろ、お前は」


ふと後ろから掴まれる手首。聞こえた声に振り返ると、そこにいたのは愉快そうに笑う…



「…遼一さ、ん」


我慢していたものが限界を越えた。自分でも視線が鋭くなるのがわかる



「…わざと私と皐月さん達を会わせたでしょ?」


今までこれほど恨みを込めたことなんてないほど冷たい声が私から発せられる



遼一「ああ、バレた?」


悪びれる様子も無く平然と言ってのける遼一さんに愕然とする、



遼一「ナナコさー、すげえ美人だっただろ。ハーバードでもずっとトップのクラスだったからな。で今アメリカで国際取引専門の弁護士。性格も器量も容姿も完璧なオンナだわ。」


誰かと比べるような言い方。その比較対象は言うまでもなく私なわけで…




(ああ、なんで、なんで、なんで…)




「…なんで、…なんでこんなことするの?…」


遼一さんのした事が理解出来ず、ただ、私は涙を流すことしかできなかった



遼一「んー。歪んだ愛情?、お前をもっといじめてやりたい…ってのと、」


それは一瞬のことで。遼一さんの胸に抱き寄せられる



遼一「俺に縋れよ、」


耳にかかる艶を含んだ吐息に身体が震えた


遼一「俺に縋れ、って言ってんの」


「っ…!!あり得ないっ!」



私は…

遼一さんの腕を振り払うと人ごみの中に飛び込むように身を隠した




(意地悪な人。)








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あきゅろす。
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