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老舗の高級ホテルのプレオープンということで、世界中から著名人がやって来ていた。
ビジネスマンから芸能人、スポーツ選手、政治家、諸外国の王室関係者まで。私みたいな庶民は一人もいないだろう。初めは、気後れで胸が押しつぶされそうになったが、お酒やら食べ物を取りに行く度に、気さくに話しかけられるので、私は私で勝手に楽しんでしまっていた。寧ろそっちの方が皐月さんのためになるのかと考えていた。だって見かけも性格もなんの取り柄もない女が隣にいてもメリットどころかデメリットになりかねないじゃない。社会的評価なんてそんなもんだ、そう割切ると何故だか楽しく感じる。
先ほど声をかけてくれたのは私より二つ上のドイツ人男性だった。最近全然英語を使っていなかったので、英語に脳内変換されるスピードが壊れたパソコン並みだった。もどかしく感じるものの、数分したら直ぐに耳に入るようになる。
ハンスは知性に富んでいて、会話の節々で私を笑わせてくれた、加えて、すごく思いやりのある人物だったので、私の拙い英語にもちゃんと応えてくれた。誰かに似てるな、そう気づいたのは本人が登場した時だった
「青山さん、」
「あっ、皐月さん!」
皐月さんは、穏やかな笑みを浮かべながらも急ぎ足でやってくる、ハンスも皐月さんが誰だか解ったらしく、互いに笑顔で挨拶しあっていた。ハンスをドイツ人だと知っていた皐月さんは、これまた流暢なドイツ語で話していた。本当、なんでも出来るんだよね。ハンスは別れ際、私の元に握手しに来ると、煌びやかなホールへと戻ってしまった、
皐月「申し訳ありません、青山さんを一人にさせてしまって。」
「いいえ、お気になさらず!」
皐月「楽しんでくれているようで安心しました」
「はい、皆さん気さくな方で…」
きっと…青山さんの笑顔には国境なんて無いんでしょうね
ふわっとした笑みを浮かべ真顔で言われると、つい真っ赤になってしまう
「さ、さささ皐月さん、!!」
皐月「ふふ、そろそろ私たちもカジノに戻りましょうか」
「…はい、」
腰に手を添えられて賑わうホールを後にしようとした時、どんっ、と大柄の男性が私にぶつかってきた
男性A“OH!i'm so sorry my little princess, are you ok?”
“i'm fine , never mind”
皐月さんからせっかく頂いたワンピースにじわりと広がるワイン、
しかも赤ときた!しかしここで悪目立ちするのも嫌だったので、ひくつく頬を抑えながら気にしてないとの趣旨を述べる、
しかし相手側は相当酔ってるらしく、ドレスを新しく用意させてくれだのお詫びなど執拗に絡んできた
(んだよ、このオッサン!!)
いい加減愛想笑にも嫌気がさしてきた時、タイミングを見計らって皐月さんは自分の着ていたスーツの上着を脱ぐと、私の肩にかけ、直ぐに近くのホテルマンを呼んだ
「さ、皐月さん?、」
皐月「青山さんは彼が案内してくれる部屋へ先に行きなさい。身体が冷えてしまわないようにね。私も直ぐ行くから」
そう言うと、私の髪に軽いキスを落とし、酔っ払った人物の相手をし始めた
ーーうっわあああ…、絶句。
エレベーターが最上階につく。降りたらすぐにそこはワンフロアのスイートルームだった。全面窓ガラスで都内の夜景が一望できる。あ、あれ東京タワーじゃね?なんてテンションが上がるも、直ぐに心が沈んでしまう、
皐月さんから頂いたプレゼントだったのになあ…
ずーん、と沈む心を引きずりながらバスルームへ直行した
ここもまた文句無しの豪華さだったが、私の気持ちを持ち直す程のものではなかった
とりあえず服を脱ぎ、バスローブに着替えると、「赤ワイン 染み抜き 応急措置」とググる。すると、だーっと検索結果が出てきたので幾分心は晴れやかになった、るんるんと、染み抜きを実践しているとノックの音が聞こえた
皐月「あれ、青山さん?、」
てっきりシャワーを浴びた後だと思っていたのだろう、洗面台で染み抜きを行っている私をみて、皐月さんは怪訝な顔をした
皐月「シャワー浴びないと風邪をひいてしまいますよ、」
「で、でもっ、」
皐月「ドレスは後日ご用意いたしますので、ご自分のお身体を優先させて下さい」
「…、」
「青山さん?」
「…これがいいんです!皐月さんからのプレゼントだから…大切な思い出が詰まったものなんです、」
皐月「青山さん…」
「それにあのタイミングでワインかけられるとか。でもそのおかげでここに来れたわけですし…考えようにはラッキーアイテムかな、なんて…。」
皐月「ふふ、わかりました。直ぐに綺麗にしてもらいましょう。だから青山さんはご心配なさらないで下さいね」
「あ、ありがとうございます!」
そう言うと、皐月さんはニコリと微笑み、ホテルの人にドレスを預けていた。私はその間図々しくもお先にシャワーを浴びせてもらう、本当に何から何まで完璧な人だな、ドイツ語然り、つくづく実感させられる
皐月「明日の夜、青山さんのご自宅に届くよう手配しましたが、ご都合は宜しかったでしょうか?」
「全く問題ありません、ありがとうございます!」
嬉しかったのでつい浮かれてしまう、その様子を見て皐月さんは優しく微笑むとなんだかあったかい気持ちになった、
皐月「……本日はご一緒できたことを大切な思い出にしますね、では私はここで失礼いたします。青山さんはどうぞごゆっくりお寛ぎになってくださいね」
「え、」
すっと立ち上がると、皐月さんは早足にエレベーターへ向かってしまった。
てっきりこのまま一緒だと思ってたのに…
「あのっ、!」
腰かけていたベッドから飛び上がると、スリッパも履かないで皐月さんを追いかける
「皐月さん、!」
チン、とベルが鳴る。エレベーターは到着したようだ、乗り込もうとする皐月さんの腕を思わず掴んでしまう、
皐月「…青山さん、」
困ったような視線を向けられ、心が深くえぐられた気がした。
…まだ、一緒にいて欲しい、でも、なんてわがままなんだろうか、ああ…皐月さんにも迷惑かけちゃってる、嫌われたかもしれない、シツコイ女だって思われちゃう…
引き留めたいのに、嫌われたくないから言えない。矛盾した感情がごった返す。
あまりにも自分が情けなくて視線が揺れた、
すると、エレベーターに乗り込もうとした皐月さんが深いため息をついた
皐月「…全く、貴方という人は…」
「っ…、ごめ、ごめんなさい、」
あーもう、うっとおしい女確定じゃん、だなんて自責の念に苛まれるも、その場から動けなかった、いつもみたいに笑ってまた明日と言って送り出したかったのに。
皐月「……こんなに可愛いことされてしまうと、貴方の前で紳士でいられなくなる…」
ぎゅっと引き寄せられた腰、塞がれた唇。突然の行為に思考が追いつかない、深く深くなるにつれ、何も考えられなくなった
混じり合う吐息や舌は激しいのに、頭を撫でる手はまるで壊れものを扱うように丁寧で。
「…ふうっ、…っ、はぁっ…」
皐月「…んっ、…使里樹っ…」
最後にちゅっと濡れた唇を啄むように吸われると、身体がびくっと震えてしまう、
「…俺に…何してほしい…?」
そこには何時もの紳士的な皐月さんでなく、意地悪く微笑む皐月さんがいた、一瞬悠月の事を思い出した、ああ、やっぱりこの兄弟似てる…
皐月「…俺を置いて考え事でも?…随分余裕じゃないか…」
「…、んんっ…!…きゃあ、!…皐月さ、…あっ…」
激しく唇付けされながら、近くのソファに押し倒された、ゆっくり肌を確かめるように愛撫を施される。次第にバスローブが開かれていった。皐月さんは、首から胸にかけて時間をかけて唇を落としはじめる、
「やっ、あ…、待って、皐月さあっ!」
はだけられたバスローブを固く掴むと、皐月さんに訴えるよう視線を投げかける、
皐月「…?、使里樹、」
だんだん何時もの皐月さんに戻ってきたと思ったらはっとした顔になる
皐月「…!、その、申しわけありませんでした、私としたことが…」
「違うの!、そうじゃなくて!」
明らかに行為の流れを止めたのは私だ。普通なら興醒めされて罵られるか、機嫌悪くされるのに、皐月さんは罪悪感で一杯の様子だった
「違うの!あ、あの、私、」
皐月「…?、」
ぎゅっ、。
顔を見られないよう皐月さんにしがみつくと、耳元で消え入りそうな声で囁く。途端に一瞬目を大きくしたが、私以上の力で抱きしめ返してくれた
皐月「本当に…貴方は私を狂わせる…。そうですね…今夜は一緒に休みましょう、心地よい夢を…二人でね…」
そう言うと、私の手をひいてベッドへといざなってくれた。上質の枕に頭をうずめると皐月さんは長い脚を私に絡ませ、離さないように抱きしめてくれた、
絶対的な安心感と幸福感によって、私は眠りの世界に落ちていった。
…振動し続けるケータイを現実世界に残したままで。
(夢でまた逢えたら)
ーー「わたし、初めてなんです…だから、その…ここじゃなくて…皐月さんのホテルでしたいの、……だめ?」ーー
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