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8◇予期せぬ遭遇
8◇予期せぬ遭遇
講義の回数を重ねる度に増える質問しに訪れる女生徒を漸くさばき終えた。イケメン×医者=最強だと考えている女生徒が大半を占めているこのクラスにおいてロー先生は絶好の的。皆!一刻も早く目を覚まして!だなんて考えているのは多分私だけだと思う。
多少くたびれたロー先生と一緒に、教室を後にする。既に教室は次の講義の生徒たちで賑わっていた。もうすっかり次の授業の先生とは顔なじみになっており、遅くなってすいませんと二人してぺこぺこと謝る。
いつもと変わらず、ロー先生の荷物を持って正門まで見送ろうとした時だった。いきなり前にいたロー先生が立止まったので、思いっきりぶつかってしまう。
「あだっ!、ロー先生!急に立ち止まらないで下さいよー、」
『あだっ、て色気ねえな。…そんなことより、腕時計忘れた…おい青山、とって来い、』
ロー先生はいつも腕時計を外して授業を行う。パーカーを捲り上げて細いけど男らしい腕から無造作に時計を外す仕草はなんだかセクシーで。こんなことは絶対いわないけどね!
それにしても教室に忘れたのだろうか、でもおかしい…
「んー?教室には忘れ物なんてなかったですよ、ちゃんと確認しましたし。」
『いや、たぶんそこじゃない。…講師控室だ』
思い出した様に呟くと私に向かって当然のように講師控室の方面を指差す、ああ、取りに行けってことですね、?!
「ちょ、私、無理ですよ。講師控室には生徒入れないですもん」
『……行くぞ、』
「あいあい、」
疑わしそうに私を見やるも、とりあえず二人して元来た道を引き返す。向かう途中に先生の講義を受けていた生徒らしき女の子達がこちらに熱い視線を向けているのが目に入った。先生もチラリとそちらを見やると可愛らしい悲鳴が上がる、
「…先生にやけないでください」
『…冗談はよせ。バレてるはずがない』
セクハラだ!、ちげえ、まだ許容範囲だ!、など二人してぎゃあぎゃあ言い合っているうちに講師控室に到着。そこにはやっぱりでかでかと生徒立ち入り禁止の看板が掲げられており、私は仕方なく部屋の前で待つことにした。
(大切な時計なのかな…、ロー先生って物に執着しなそうなんだけど。)
する事がないのでぶらぶらと廊下の掲示板に貼られた紙を眺める、学生旅行…短期留学…TOEIC試験…学園祭出演アーティスト決定…。
すると後ろからカチャッと扉の開く音がした、
(時計、見つかったのかな、)
振り返った時、思わず目を見開いてしまった、
(ああ、私の大好きな…)
「…『先生』…、」
先生「?!、青山さん?、」
グレーのスーツが良く似合う私の大好きな“先生”。あれから一年経ったけど、出会った時と全く変わらない気持ちになる。
「お、お久しぶりです、」
先生「青山さんでしょ?久しぶりじゃない、元気してた?」
一年間、どれほどこの声を聞きたかっただろうか。
どれほど“先生”に名前を呼んで貰いたかっただろうか…、
じん、とする心を奮い立たせると、最悪の別れなんてすっかり頭から消えていて。
(ああ、やっぱり私、この人のことが好きだ)
私に向けられた笑顔を一年経った今でも喜んでしまっていた、
(予期せぬ遭遇)
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