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7◇私の些細な嫉妬。



7◇私の些細な嫉妬。


あー、もう早くしてよ、



募る苛立ちを抑えながら、教室中にばら撒かれたレジュメを回収する。
当の本人ときたら授業後毎回質問しに訪れる女生徒達に丁寧に答えているのだ(しかも丁寧に!)、



深く椅子にかけ、頭の後ろで腕組みし、片足を組んでいるロー先生は最早、先生医者うんぬん悪の大王にしかみえない。
しかし其れさえも完璧な容姿と知的な雰囲気が女生徒達のハートを掴むのだろう。
事実、講義を重ねる毎に先生の下に訪れる生徒は増えているのだ



あーもう、
ほんっと、なんなの、!!!






で、私はいつもその光景を横目に黙々と雑用をこなす、(男子生徒A『前回のレジュメないっすかね〜?、』、「講義当日にしかレジュメは配布しません!!」)


不届者に喝を入れながら残りのレジュメを回収する。途中途中、出席カードを集計している時に嫌でも聞こえる会話…


(「せんせ!、」
『ああ?』
「さよならって、言いにきただけです!、」
『…、フッ、ああ、また来週、』)




………。





あーもう!、
私だってロー先生の授業がある日、いつもより何倍も何倍も気合いいれてきてるのにさ!気付くどころか私には全く女の子扱いしてくれない!
名前だって先生に一回も呼ばれたことないんだから…



週に一度の楽しみとなったこの曜日。この日あるからこそ生きていけるのに…




いつもなら二人で並んで教室出て、学校の門まで見送るんだけど、そんな気になれなくて回収したレジュメと出席カードを先生のパソコンの上に揃えると一瞥もくれずにすぐさま教室を出た。


そもそも授業後に先生を見送る義務はないし、ただパワポ片付けたりレジュメ回収したら仕事自体は終わりなのだ。

職務はこなした。何も後ろめたいことなんてないはず。なのに、






「先生の、バカ、っ」





泣きそうになりながら心の中で叫ぶ。
自分だけが特別だと思っていた。
でもそれは自惚れにすぎない。

私なんて沢山いる生徒の中の1人にすぎないのだ…

今みたいに、こうやって沢山の生徒の中にいたら私の存在なんて埋もれて、解りっこないだろう。


私は、先生に対してばかり文句を言っているが、何だかんだ言って私は自分の情けなさに対して涙している。
自分の幼さを憎んでいる、しかし嫌悪の対象が自分であるからこそ気持ちは晴れない。
八つ当たりで済ませたらどんなに楽なのに……



うだうだ、ぐじぐじ。

少しでも顔を緩めてしまったら涙を抑える事はでたきなくなる、

自分こんな面倒くさい女の子だったっけ?

晴れない心を追いやるように先生のいる教室から離れると…



「生徒のお呼出をします。青山使里樹さん、青山使里樹さん、トラファルガー先生がお待ちです、至急教務窓口までおこし下さい、繰り返します……、』




ーーあ の 男 !!!、




構内呼び出しとかあり得ないでしょ!?デパートで迷子になった子供じゃないんだから!!絶対顔真っ赤だ、わたしっ!、

だけど心はさっきまでと全く違う、
先生に呼ばれたことが嬉しくてにやける顔を抑えるため、下を向きながら教務窓口までダッシュした。






ーー業務窓口にて

『お手数おかけしました、』

「い、いえいえ」

『では、失礼致します』




教務課買収されたー!、ニコニコ笑う教務課女生職員と、そんな顔するのぷぷー、とつい吹だしたくなる程真面目なロー先生を横目でみやる。

世間の女性は、「イケメン × 医者= 最強」という公式を思い浮かべるが、わたしは堂々と「イケメン × 医者 = 変人」だと言える。だって実例が目の前にいるから。



きゃいきゃいする教務課女子を一瞥すると、二人でエスカレーターを下りた。




ああ、気まずい…
めっちゃドス黒いオーラだしてるよ、この人…




私を呼び出した当の本人であるロー先生は、無言でキャンパス内のベンチにどかっと腰を下ろした。私は直立不動のまま。だってなんかめちゃくちゃ怒ってるんだもん、
え、私がいけないの?、私悪くないよね?




『お前、』

「…、」




恐ええ、…!
この人が小児科の先生じゃなくて良かった、本当…





『何で急にいなくなった?』

「仕事自体は終わっています、」

『嘘をつくな』

「…、」

『青山、』



ビクッとした、初めて呼ばれた私の名前。
あれ、先生、私の名前知ってたの?
自己紹介すらしたことない曖昧な関係だったのに。





『何考えてんだかしらねぇけど、下らねえ事考えるな』

「……、」

『授業、青山に対してやってんの、わからねぇか?』



ーーえっ、
私も同じ事をもしかしたら、て考えていたから…

ロー先生は授業後に、私が分かり難かったと指摘した箇所について次の講義の始めの時間を使って解説してくれていた。
私の興味ありそうな分野に関連する文献や論文をレジュメの参考図書として紹介してくれていた。


何より、先生の視線はいつもわたしに向いていたのだ。




(てっきり居眠り監視かとばかり思っていたのだが…)



「……っ、」

『だから、下らねえ事考えるな、』




そう言って先生は私の頭を一撫ですると門へ向かった、当然の様に荷物を残して。





先生の荷物を抱えると小さくなっていく影を、もう決して逃さない様、私はかけ出した




私の些細な嫉妬。


(そんなもの、先生にはお見通しだったみたい。)

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