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6◇言えないコトバ
6◇言えないコトバ
帰宅前に好きなブランドの新作バックをチェックしに行こうと、大学の門を出ようとした時だった。
受信一件。
嫌な予感がした。開いて見ると、やっぱり予感的中。
差出人は我がボスからであった。
『風邪ひいた、助けてくれ。家に来い』
………。助けてくれ、ってアンタ医者じゃん、だなんて心中で突っ込む。全くもって人に物を頼む態度ではない気がしたが、そんなことを言ったって相手が先生なんだから仕方ない、しかもバイトと言えど私の雇用主であることに変わりないのだ、
先生の家は先日のホームパーティで知っていたので、別に行くことに何ら抵抗はなかった。しかしよくよく考えたら一応生徒と先生の関係な訳だし、家に行くってどうなんだろう…と彼が全くもって考え得ないだろう常識的なことを思う。
世間がどうとか社会がどうとか…そんな目を気にしない先生は変わってる。まぁそんなことを考えていたらロー先生じゃないけどね!
しかし実際のところ、完全に合理主義的思想をもった先生のことだから、1番来てもらえる確率が高い女を選んで選んだに違いない…そんなに学生って暇そうなイメージなのか?
私はウキウキする心を隠しもせず、ロー先生のマンションへと向かった
「せんせー、私です、青山です」
オートロックをくぐり、先生の家のドアの前に来る。ああ、なんか緊張してきた…さっきまでウキウキしてたのに急に心情が変わる、
そんな私の動揺など介さず無機質な扉が、ガチャッと開く
『入れ… 』
体調が悪い事は一目瞭然だった、目の下のクマはいつもより一層酷く、生気が感じられない、
何か作ろうとキッチンに入る、全く使用感のない食器や調理器具が目についた、先生ってほとんど外食なのかなぁ…だなんてそんなことを考えながら病人食をつくる、
「せんせーできたよー」
『……、』
早く作れて消化の良さそうなもの…ありきたりだが、卵粥しか思いつかなかった、自分のレパートリーの無さを恨むが仕方ない
お盆に載せ差し出すと一瞬固まる先生、
『俺はどんなものでも受け止めるからな…』
一見感動を覚える台詞だろうが、この状況では失礼極まりない。どういうことだ!、私の作ったお粥に対して言っているのだろうか
第一、お粥が作れない人間なんてこの世にいるのだろうか?
それとも私が料理の出来ない女だと思い込んでいたのだろうか。
「いやいやいやいや!、普通においしいですって」
『ん、美味い、』
ぱくぱく口に運ぶ先生が可愛く見えてきた。
こんな顔、他の生徒達は知らない。優越感にも似た感情が私の心に広がる。
『明日学会がある、』
突然言い出す先生に唖然とした、こんな体調悪そうなのにいくのか?!
「無理なんじゃないですか?、体調的に…」
『這ってでも行くさ、俺がお前を呼んだ意味……わかるだろ?』
ドキッとした、私を、呼んだ意味って……
胸の鼓動が高鳴る。
『なあ、…、資料作成頼む』
え?
「ちょっ、ちょっと待って!私を呼んだ意味って!」
『ああ?、看病はついでだ、そこにメモあるだろ?パワポにまとめといてくれ、暫く寝るから起こすなよ』
片手をひらひらさせて弧を描く口元、
ちょっ…!まって!明日の学会資料私が作るのっっ?!、
「臨時給与出してくれますよねっ?」
ひいひい喘ぎながらパワーポイントを作成する私を他所に、眠りにつくロー先生。
『……さんきゅーな』
突然耳に入る一言、それを聞いただけで頑張れる気がした。
言えないコトバ
(1番に思い浮かんだのが…お前だったんだよ、)
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